自分のためだけの家をつくる、となったら。一人で住む家だからこそ、アレもしたい、これも欲しい、と理想の暮らしへのこだわりは強くなるのではないでしょうか。

ご紹介するのは、京都市内にある築49年のマンションをリノベーションした一人暮らしの住まい。お施主様は20代で、賃貸住宅の検討からシフトして、このお部屋をリノベしたそう。40㎡と決して広いとは言えない面積ですが、狭さも妥協も感じない、ワガママを詰め込んだワンルームを叶えました。

玄関を開けた瞬間から広がるこだわり空間。ラフな表情のコンクリート躯体現しに、チークのパーケットフローリングを合わせてシックな雰囲気をプラスしています。

お施主様は「靴を大量に置きたい」とリクエストしたそうで、ずっしり厚みのある木材でつくった下足棚が空間に似合っています。腰までの高さで圧迫感がなく、上にいろいろ置けるのもポイントです。そして壁面にもご注目! 片側の壁一面は有孔ボード仕上げで、フックを取り付けて帽子やリュック、アウターなどを、飾るように収納しています。廊下をディスプレイゾーンとして活用するアイデアは、コンパクトな家では特に有効に働きそうです。

木製ガラスドアから居室に入ると、目に飛び込んでくるのは抜群のビュー。連なった窓は木で縁取られており、コンクリート躯体現しのハードな印象を和らげながら、見える景色を際立たせています。

景色を見ながら作業ができる広々キッチンも、お施主様が叶えたかったもの。シンクとコンロが分かれるII型のレイアウトで、レンジフードが壁側にあるので景色を遮りません。引き出し代わりにコンテナを使うアイデアは、丸ごと引き出せていいですね。

キッチン本体は合板で組んだ土台にステンレス天板を載せたシンプルな造り。コンロの上には水栓やタイルの目地と色を揃えた『フラットレンジフード』がキリッと鎮座しています。冷蔵庫横の木製ドアは、サニタリーに続いています。

「これは!」と思ったのが、ふかし壁を利用してつくったこちらのニッチ収納。コンクリート躯体をチラ見せするセンスが小粋です。

「トイレと洗面脱衣所は別にしたい派」のお施主様。トイレは洗面脱衣所の中にドア付きで設けて、その願いを実現しました。濃いグレーのクロスを貼って、コンクリート躯体もダクトも剥き出しにしたトイレは、「洞窟のようで落ち着く」一番のお気に入りの場所だそう。洗面脱衣所の天井には、『アイアンハンガーパイプ』が取り付けられており、洗濯物やタオルを掛けられます。

モルタルでつくった洗面台には陶器製のオーバーシンクをイン。ミラーキャビネットのほかに壁にはシェルフも取り付けてあるので、意外と物が多くなりがちなサニタリーをすっきり整頓できますね。

「適材適所に収納が欲しい」というオーダーも、お施主様が譲れなかったこと。玄関のディスプレイ壁やたっぷり物がしまえるキッチンなど、一見「収納」と感じさせないアイデアで、生活感が露出しすぎない工夫をしているのもこの家の特徴です。

そしてワンルームで生活感がでがちなポイントと言えば“ベッド”ですが、「どこにあるの?」と気になっていた人もいるのではないでしょうか。ベッドはというと……ワイルドな板張りの腰壁の裏に隠れていました。

リビングと繋がっているけど寝具は見えない、絶妙な高さの腰壁で仕切られたベッドスペースは、落ち着いて眠りにつけそう。腰壁はヘッドボードを兼ねていて、裏側は小物が置ける棚になっています。そして頭上の梁の奥にはオープン棚がちらり。ブラケットライトに誘われて奥へ進むと……

そこにあったのは、お施主様の夢だったという2畳ほどのウォークインクローゼット。正面の壁には『アイアンハンガーパイプ』が設置されています。服が整然と並び、エキスパンドメタルを使ったディスプレイコーナーもあるショップさながらの素敵空間は、奥まった場所にあるのがちょっともったいないと思ってしまうほど。

キッチンの横には、カウンターデスクを造り付けたワークスペースも。窓の上には、本や小物が置ける吊り棚もありました。さりげなく収納を設けるテクニックが秀逸です。

実はお施主様は、この家のリノベを手がけた工務店のスタッフ。ですが当時は入社したばかりで、建築や中古リノベについての知識はほとんどなかったそう。「無茶な要望をたくさん出していたと思います」とお施主様は話しますが、自分にとっての暮らしやすさを追求したワンルームは、とても居心地が良さそう。やりたいことは、プロにどんどん伝えて相談してみるべきなんだなと思わされる、なんだか勇気をもらえる事例でした。

※こちらの事例はimageboxでも詳細をご確認いただけます。

株式会社アトリエイハウズ

新築・リノベーションの設計施工を行う工務店。デザインだけでなく、耐震や温熱環境に配慮した建築も得意。リノベーションでは、性能向上をベースに「アップサイクル」「ネオクラシック」をテーマに掲げ、オンリーワンな空間を提案しています。京都・西京極にある自社ビルには珈琲焙煎所「WESTEND COFFEE ROASTERS」を併設。

テキスト:サトウ

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