これだけの広さがあれば、平屋でももちろん建てられたけれども「自然をなるべくそのまま残したい」というご家族の思いから、建物は敷地の間口の広さを活かして、縦に積み上げる設計に。その結果、幅約17m・奥行き約4mという、スリムな平面形状の家が完成しました。
道路に面した正面側は、急勾配の屋根をかけて閉じたファサードに。
その一部を少しだけ持ち上げるようにして、南側に広がる山林へと視線が抜ける、のぞき窓のような隙間をつくっています。
その隙間をくぐって中に入ると、一気に視界が開け、目の前に大自然が広がる。まるで森の中に飛び込んでいくような、そんな感覚が味わえる空間です。
1階は外部とつながるように設計。室内からそのまま地続きで出られるテラスを設けています。
細長い形状を活かして、建物の両端に階段を配置。片側には家族のためのプライベートスペースを、もう片方には将来的にゲストスペースとしても使える空間を設け、ゆるやかにゾーンを分けています。
ゲストルームになる予定のお部屋は、ほっと落ち着ける畳敷き。ときに友人を迎える場所として、ときに自分だけの時間を静かに楽しむ場所として。いろんな使い方ができそうです。
こちら側は、家族のリビングと書斎がひと続きになったプライベートスペース。つながりを感じながらも、それぞれが思い思いに過ごせる、心地よい空間が広がっています。
印象的なのは、デスクの一部がそのまま階段へとつながる、段差を活かしたユニークな造り。デスクの下には、愛犬のためのスペースもしっかり用意されています。
階段のステップは収納としても使えるようになっていて、限られた空間を無駄なく活かす工夫が詰まっています。
この家の特徴は、壁で仕切るのではなく、床の高さを変えることで、ひと続きの空間の中にそれぞれの居場所をつくり出していること。
そんな立体的なつくりをやさしく引き立てているのが、天井から吊るされたペンダントライトたち。ふわりと浮かぶ明かりが、空間にリズムと奥行きをもたらしてくれています。
吹き抜けに使用されているのは『ソケットランプ METAL』。コードの長さを自由に調整できるため、高さのある空間のアクセントにぴったりです。
2階に上がると、開放感たっぷりのダイニングキッチンがお出迎え。
高い天井の伸びやかな空間に、ステップフロアで緩やかな変化をプラス。
ここにも段差を活かした工夫が。ベンチと階段をつなげることで、自然なつながりが生まれています。
キッチンはダイニングより一段下げて配置。キッチンの存在感をほどよく抑えつつ、座る人との目線を近づけ、自然と会話が生まれる距離感に。
自然と視線を外へと導いてくれる、屋根の形状と構造材の美しいライン。家のどこにいても、豊かな自然を身近に感じられる、心地よい空間が広がっています。
視線の先々にいくつもの風景が広がる、心安らぐ住まい。自然とともにある暮らしが、家族の毎日をやさしく包み込みます。この住まいには、自然の中で暮らすと決めたからこそ出会えた、かけがえのない日常がありました。
(写真提供:山内紀人)