京都の清水寺から続く坂道を下った先に佇む、戦前に建てられた賃貸長屋が今回の舞台です。
この物件を引き継いだオーナーの、「ただ住むだけでなく、店舗やアトリエとしても活用し、通りに賑わいを生む場所にしたい」との思いから、住居兼店舗としてのリノベーション計画がはじまりました。
改修にあたり、これまでの入居者によるDIYの痕跡や増築部分を取り払い、建物が本来持っていた構造美が生きるよう丁寧に整理。増築で隠れていた庭も再生され、時代を重ねた素材の味わいが際立つ、すっきりとした佇まいがよみがえりました。
玄関を入ると、ゆったりとした土間が広がり、その奥には納戸が設けられています。奥行きを活かしたゆとりのある間取りです。
広々とした土間は、雑貨を並べて販売したり、奥の納戸とつなげて作品を飾るギャラリーにしてみたり。通りから良く見える場所だから、さまざまな活用が期待できそうです。
引き戸を開け放てば、室内とひと続きの空間に。
建具を閉じれば程よく仕切られ、開けば広がる。住み手が決まっていない賃貸だからこそ、使い方を自由に描ける“余白”のある設計が活きてきます。
もともと二間続きだった和室は、杉板を張ってひとつの大きな空間へ。
視線が奥の庭まで抜けて、長屋特有の“奥まった暗さ”を感じさせない、開放的な雰囲気に生まれ変わりました。
押入れの中に隠れていた階段は、表に出すことで空間のアクセントに。
上階から届く光が広がり、建物全体にやわらかな明るさをもたらしています。
キッチンは最小限のサイズと機能に絞りつつ、ラワン材の『木製ミニマルキッチン』を採用。
「キッチンらしさ」を控えめにすることで、視界に入っても生活感を感じさせず、空間に軽やかに馴染んでいます。小商いの場としても使われることを想定した、ほどよい存在感に仕上がっています。
また、既存の建具や書院障子は、あえて再利用。古き良き味わいを残しながら新しい空間にアクセントを添えています。
2階の壁や天井は、無塗装のラワン材で仕上げ、素材そのものの風合いを活かしています。土壁の補修も“中塗り”にとどめ、きれいに整えすぎないように意識したのだそう。
住まいと小商いの境界をあえて曖昧にすることで、住まい手が自由に発想できる空間に。「この空間を自分ならどう使うだろう?」と想像力を掻き立てる余白こそが、この長屋の最大の魅力です。
住むこと、働くこと、表現すること。
その間をやわらかく行き来できる空間は、これからの暮らし方にぴったりのかたちかもしれません。
(写真提供:Yohei Sasakura)
株式会社山本嘉寛建築設計事務所(yyaa)
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