撮影:井田佳明

木造セメント瓦葺平屋建て。築年はわからないくらい古い建物ですが、セメント瓦の屋根が長年の雨風から建物を守り続けてきました。

雨漏りの被害がなかったため、屋根はそのままに、一棟貸しの宿として生まれ変わりました。

撮影:井田佳明

セメント瓦は、台湾の南国耐風瓦をルーツに名護で製造がはじまったと言われています。沖縄の原風景として知られた存在ですが、今では沖縄県内に残るセメント瓦工場は1箇所のみ。

そんな新たに建築されることが少なくなったセメント瓦を、あえて活かして設計されました。使われる建材にも、沖縄らしさが散りばめられています。

ユニークな形状で景色を切り取ってくれます。(撮影:井田佳明)

塀には、「花ブロック」と呼ばれるコンクリートブロックを採用。日差しが強く湿度が高い沖縄の気候にあった建材で、風を通し、日差しを程よく遮ります。閉塞感はなく、遠目からは中が見えにくい構造なので、外で過ごしても周りの目が気にならない。

理にかなった形と、見ていて楽しいデザインを両立している花ブロック。個人的にも大好きな存在です。

植栽は沖縄の「HADANA」さんが手がけたもの。(撮影:井田佳明)

塀の裏に広がるのは、パティオと呼ばれる中庭のようなスペース。

道路との高低差を生かしてつくられており、椅子を置かなくても居場所ができる空間になっています。仲間たちと、BBQをして、花火をして、星空を眺めてお酒を飲む。そんな過ごし方が自然と目に浮かんできます。

撮影:井田佳明

沖縄にいきたい気持ちが高まってきたところで、屋内にも目を向けてみましょう!

セメント瓦と木造の現しが新鮮な、開放的なLDK。まあるい照明が空間にやわらかさを添え、穏やかな雰囲気をつくり出しています。

撮影:井田佳明

掘り込みのリビングは、デニムフロアを使用。沖縄の空と海を思わせる深いブルーは、借景と相まって外と中がつながっているような感覚をもたらしてくれます。

窓を開けて、風を感じながらうたた寝をする。そんな穏やかな時間が流れていることでしょう。

腰壁の象牙色と質感は、砂浜を想起させます。(撮影:井田佳明)

こちらも一段下がった土間キッチン。カウンターが小さな食堂のような雰囲気で、みんなでわいわい楽しめそう。

腰壁にはサンゴや貝殻などが堆積してできた琉球石灰岩をあしらい、背面壁には深い海のような青さの『レトロエイジタイル』を採用。異なるトーンの青を各所に散りばめることで、海を感じさせるグラデーションが空間に広がります。

キッチン奥で輝くのは『メタルラウンジライト』。ホテルのような上質さをまとっています。(撮影:井田佳明)

冷蔵庫は業務用を使い、カウンター下にすっきりと納めています。業務用冷蔵庫は、住宅では音や水漏れが懸念されることもありますが、土間キッチンにすることで気にせず快適に使えそう。

対面側の設備は『キューブ型レンジフード』や『ニッケルサテン水栓』などすっきりしたデザインのものを採用し、周囲の素材の質感が自然と引き立ちます。

撮影:井田佳明

撮影:井田佳明

ベッドルームには、二段ベッドが2台と、シングルベッドが2台。天井は板張りに仕上げられ、落ち着いた空間に。ここにも空間全体を貫くブルーのアクセントが効いています。

撮影:井田佳明

洗面・シャワーブースには、コンクリートの無機質さと木の温かみという対照的な素材が、バランスよく配置されています。あまりお目にかかることのない、セメント瓦と木造現しの天井を堪能するにはもってこい!

コンクリートの壁に『木製ラウンドミラー』という組み合わせも、意外性がありながら、不思議としっくり馴染んでいます。

撮影:井田佳明

パティオの奥にはコンクリートのアウトバスも。星空をみながら湯船につかるのもいいですね。

琉球石灰岩を手彫りしたシーサーがお出迎えしてくれます。(撮影:井田佳明)

それぞれの空間で雰囲気を切り替えながらも、外から中まで沖縄らしい素材や景色を丁寧に取り込んだ一棟貸しの宿。沖縄の自然や風土を全身で感じながら、ゆったりと流れる時間を味わうことができそうです。

縁側からはサトウキビ畑が一望できます。(撮影:井田佳明)

沖縄県名護市の一軒家貸切の古民家宿「TaaCH(ターチ)」

名護市街や屋我地島まで約10分、今帰仁城跡や古宇利島まで約20分

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アートアンドクラフト

アートアンドクラフト

建築設計/施工/不動産仲介/建物再生コンサルティングのプロ集団です。
大阪・神戸・沖縄を拠点に、マンション1室からビル1棟まで既存建物の再生を得意としています。

大阪R不動産も運営しているtoolboxのグループ会社です。

テキスト:庄司

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