薄い一枚に込められた思い

雑誌コンフォルトとの連載企画vol.4。

今回のテーマは「ストーリーを貼る素材」。貼る装飾というと、すぐ思いつくのは、シール、ウォールステッカー。壁紙や、ガラスに貼るフィルム、家具や建具の表面に貼る突板。「表層に貼られた薄っぺらいもの」というと、すごくネガティブな印象ですが、その薄い一枚を貼る事で、空間のデザインを決定づける一手になることがあります。

今回は、突き板の世界を取材してきました。

オンリーワンの一枚を

訪問したのは、toolboxでもお世話になっている山一商店の山内英孝さん。toolboxのメンバーはもちろん、ものづくりの職人パートナーにとっても、突板の魅力や技術面でのアドバイスを教えてくれる頼れる兄貴分です。

改めて説明しますと、突板(つきいた)というのは薄くスライスした木のシート状のもの。それを合板に貼り付けたのが、化粧合板。家具や建具に使われます。最近は、シートのプリント技術が向上して、いわゆる木目調なものも出回っていますが、本物はやはり質感が違います。ホテルや商業施設、グレードの高い住宅で使われていることが多い材料です。

合板に貼られる前の薄くスライスされた状態

山内さんは、その独自の仕入れで、日本では手に入りにくい珍しい樹木を扱っていたりと、知る人ぞ知る存在。

こだわりは、0.6mmの厚突 “天然木”化粧合板であること。通常は、0.2mmの薄突を使用していることが多いのです。

本物の木をスライスしているので、同じ樹種でも、一枚一枚模様は異なってきます。

こだわりの0.6mmの厚突は、割れやくるいなど、均一なロットが揃わず大量生産には向かないと言われます。だけれども、その厚さがあることで経年変化がおき、オイルできちんと手入れをしていくと、時間がたった時の味わいが生れるのです。

詳しくは、「突板合板」商品ページも合わせてご覧下さい。

残さず使うという意識

木を扱うということは、誰かが絞めたものを使わせてもらうという、いわゆる肉を扱う「農林水産業」と同じ世界だとという山内さんの言葉が強く印象に残っています。

アメリカの個人所有の山では、ウォルナットのように成長は遅いけれど価値が落ちない広葉樹を、孫の世代のために植えるているそうです。100年単位の成長を得た大木が伐採され、スライスされて、加工され、私たちの手元に渡ってくるのです。そう思うとなんて贅沢なものなんだろうと、思わずためいき。

日本の大手メーカーがつくる分譲マンションは、各階同じタイプが全て均一であることを売りにするので、突き板が使われた扉も、同じような模様で揃えたいとオーダーがくるそうですが、そうすると、柄が均一でないだけで、問題がないのにB級品扱いになってしまう。そんな世界に疑問を感じ、例えば普通ならはじかれてしまう節ありのものでも、それを逆に生かせないか等、なるべく捨てをださず、もっとゆるい商品をつくっていきたいと山内さんはいいます。

とにかく次から次へと続く興味深い話を聞かせてもらった後、実際に色々な種類の突き板を見せてもらいました。

山一商店の3Fはお宝の山。続々とでてくる表情豊かな銘木の数々。アートな域ともいうべき柄たちは全て天然。それを一枚一枚選定して、柄を考え手作業で貼っていくのです。

突き板スケボー試作品。至るところに突き板が積まれている。

そんな思いを継承した、こだわりの突板合板。toolboxでは、お手頃サイズな一枚から販売しています。棚板や、テーブル天板、キッチンの扉など、身近なところから、使いこんで、表情や経年変化を楽しんでみてください。

ほんの一部ですがこの柄、すべて天然です。

コンフォルト No.131(2013年04月号)

より専門的な切り口で今回の特集記事が掲載されています。ぜひ合わせてご覧下さい。

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