「会社でマンション、買いました」

ある日の社内全体会議。ツールボックス工事班の“親方”こと一杉が一言。

「会社でマンション買ったので、自社案件としてリノベーションします!」

ZOOMで行われた全体会議での突然の発表に、みんな驚きの表情。

ツールボックス工事班は、toolboxの設計施工チーム。いつもはお客様の住宅リノベーションやオフィス改装依頼に対応していますが、今回の「工事班の現場通信」でお届けする現場は、自社購入物件のリノベーション。

toolboxでは、2023年に「studyroom」というプロジェクトを立ち上げました。普段のクライアントワークではなかなかチャレンジできない空間づくりに自社購入物件でトライし、そこで得た気づきやアイデアを今後のサービスや空間づくりの提案につなげたい、という想いから始まったプロジェクトです。

その第一弾『studyroom#1』でツールボックス工事班は、「リメイク」をテーマに掲げ、既存の内装を極力壊さず、そこにあるものに手を加えて変えていく実験的リノベーションに取り組みました。

間仕切り壁を壊さず開放感を生み出したり、既存キッチンを切断してレイアウトを変えたりといった、「リメイク」なアイデアを詰め込んだ『studyroom#1』。(撮影:中村晃)

背景にあったのは、近年のマンション高騰と工事費の上昇。そんな世相の中、フルリノベーションですべてをつくり変えるやり方ってどうなんだろう?ほかにもやり方が見つけられないだろうか?と思ったことがきっかけでした。

その取り組みは、一般社団法人リノベーション協議会が主催する「リノベーションオブザイヤー2024」グランプリという快挙を達成。サーキュラーエコノミー(循環型社会)の観点に加え、既存の価値を読み解き、今の社会や住まい方に合わせて更新するという、リノベーションの原点を問い直す提案として評価されました。

そんな『studyroom#1』での実験は、「同じようなリノベーションがしたい」と連絡をくれたフランス人アーティスト・JUJUさんのアトリエ兼住居づくりにも繋がり、実験から実践へと発展していきました。

『studyroom#1』で掲げた「既存リメイク」の考え方や手法に、施主の感性をミックスしてできた、JUJUさんのアトリエ兼住居

『studyroom#2』の舞台はコチラ!

そんなチャレンジを今後も継続してやっていきたい! ということで、「studyroom」第2弾の舞台となる物件探しを、密かに進めていたのです。

見つけた物件は東京23区内、山手線駅が徒歩10分ちょっとの場所にある、1983年築、約72㎡のマンション。角部屋で東西南北4方向に窓があり、南側のバルコニーからは抜群の見晴らしが広がる部屋でした。

『studyroom#1』の舞台になった物件も、窓から広々と空が見える部屋だったんですが、我々の物件選びは見晴らし重視なようです。

リノベーションで変えられない「窓からの景色」は、物件選びの重要ポイントでした。

部屋は15年前にフルリノベーションされており、その後もクロスの貼り替えや棚の造作などの小規模なリフォームが施されていました。

購入時の間取りは1LDK+WIC。竣工当時は4DKだったそう。

住戸の形は、よくある「玄関から奥へと伸びる長方形」ではなく、変形T字型という少し特殊な形状。

現状の間取りは、回遊できる動線にするなど工夫は感じられるものの、ホールが広すぎたり、廊下状のスペースがあったりと、面積を持て余している印象がありました。

このクセのある形状ゆえに、プランニングは簡単ではなさそう……。

購入時点のLDKの様子。

4方向に開口がある住戸なのに、開放感がイマイチなのが、気になったこと。天井が低い上に、梁の存在感も相まって、ちょっと閉塞感が感じられました。

玄関ホールの様子。

やたらと広い玄関ホール。LDK側のドアはガラス入りで光が入ってくるけど、個室側の窓からの光は、ドアで遮られてしまってもったいない。

床仕上げや設備機器の仕上げはツルツル系。

内装はひどく傷んでいるわけではないけど、経年劣化が感じられるのと、何より素材感があまり我々好みではない……。

東側にある個室。

個室は、東側にバルコニー、南側にも窓があり、明るさは十分。だけどネイビーのクロスで仕上げられた梁や壁が、重たい印象。いろんなところが凸凹してるのも気になる。

左:個室と個室を繋ぐ通路状の空間。/右:北側に小さな窓があるWIC。

個室と玄関ホールの間も、廊下的な空間になってしまっているので、もっとスペースを有効に使いたいところ。せっかくの窓がウォークインクローゼットの中にあるのも、なんとかしたいな。

さて、この部屋で、どんなリノベーションにチャレンジしよう?

空間づくりの現場から、商品を生み出す

全体会議での「マンション買いました」から数日後。オフィスの会議室で打ち合わせをしていたのは、工事班の一杉と、toolboxの商品開発チームに所属している山下。

今回のプロジェクトのコアメンバーとなる二人です。

物件の間取り図や商品サンプルを並べて、真剣に話し込む山下(左)と一杉。

プランニングの前に、まずは今回の“目的”を何とするか。

通常のクライアントワークではなかなかできない取り組みをすることが、「studyroom」プロジェクトの意図。この空間づくりで、何を目指すのか。

出てきたアイデアは、「実際の空間づくりの中で行う商品開発」でした。

これまでもツールボックス工事班では、発売予定の商品をお客様の案件で提案したり、導入してきました。でもそれは、商品開発チームからの「この商品を使った実例が欲しい」という希望を受けて、採用できそうな案件があれば採用する、というやり方。もう一歩、踏み込んだ取り組みをすることができないかと、以前から考えていたのです。

そこで今回は、工事班と商品開発チームが設計から一緒に取り組み、商品開発を兼ねた空間づくりをしてみよう! ということに。設計施工ができる工事班と、商品開発チーム、両方が社内にいるtoolboxだからこその、ものづくりへのアプローチです。

「内装設計担当」として白羽の矢が立ったのは、商品開発チームの山下。

基本設計は工事班の一杉が担当し、内装設計は、商品開発チームの山下が担当。

「開発中の商品に意見やアドバイスをすることはあるけど、開発からがっつり関わるのは久しぶりだから、ワクワクしてる!」(一杉)

2010年の創業間もない頃からtoolboxに在籍する一杉は、全メンバーが商品のセレクトも開発も担っていた時代に、自らも商品づくりに携わってきた一人。ボンドも釘も使わずに施工できる『イージーロックフローリング』や、サイズオーダーできる木製ドア『オーダーフラッシュドア』などは、一杉が開発を手掛けた商品です。

一杉が開発を担当した、畳の上からも施工できる『イージーロックフローリング』。

一方の山下は、商品開発チームのメンバーとして、2018年に入社。『クラシックリブパネル』や『スクールシンク』などの人気商品を生み出してきました。toolbox入社以前は、オーダー家具を扱う会社や老舗の設計事務所で家具、住宅・商業施設の設計に携わっていたこともありました。

「工事班と商品開発チームが一緒に空間設計をするというのは初めての試みだから、正直言って不安も大きい……。でも、使ってみたいものややってみたいことの構想はたくさんあります」(山下)

発売予定の新商品だけじゃなく、試作段階のアイテムを実際の空間で使ってみたり、これまであたためてきた商品の構想を形にしてみたり。今回の空間づくりの中で、新しい商品の閃きも生まれるかも!?

『クラシックリブパネル』とその左隣にある『室内アルミサッシ』も山下の開発商品。

「商品開発」だけじゃ物足りない、「暮らし方の提案」もしたい!

プロジェクトの目的は定まったものの、家一軒をリノベーションするからには、「暮らし方」にも提案がある空間にしたい!

そう意気込んだ、基本設計担当の一杉でしたが……プランニングに苦戦している様子。

ある日、オフィスの会議室を覗くと、広げた図面を前にしかめっ面をしている一杉の姿が。

今回の物件は、ちょっと特殊な形状。約72㎡という面積を考えたら「ファミリー向け」な物件なんだろうけど、それだと小さな個室で細かく区切る構成になってしまう。それは果たして、この物件のポテンシャルを活かしているのだろうか?

と、ここで一杉は閃いた。「ファミリー向けじゃなくて、よくない!?」

世の中を見渡しても、住宅購入や家づくりの中心は、若いファミリー層だけではなくなっています。家族形態の変化、物件価格の高騰などを背景に、住まいの持ち方も求める空間のあり方も、多様化しています。

例えば、子育てを終えた夫婦の二人暮らしや、海外暮らしの経験から空間を広く使いたい人、セカンドハウス的な住まいを持ちたい人……。そんな住まい手をイメージしながら基本設計に取り組んでいきました。

目指すべきプランの方向性が見つかって笑顔の一杉。ペンが走るぜ!

そうして数日後、出来上がったマスタープランがこちら。

約72㎡で1LDKの間取り、しかも南向きの広いスペースはリビングダイニングじゃなくて、個室!?

キッチンや収納といった生活機能を中心に置いて、居室にゆとりを持たせたプラン。

コンセプトは「ベッドルームリビングという過ごし方」。

みんながスマホやタブレットを持つのが当たり前になった今、「家族みんながLDKに集まってTV鑑賞」というシーンは、少なくなってきているように思います。

それぞれ別の場所で好きな時間を過ごしたり、くつろぎたい時、作業をしたい時で居場所を変えたり。そんな過ごし方ができる、LDK以外にも“過ごす場所”がある住まいを考えてみました。

南に面した個室は、その象徴。寝室として使いながら、セカンドリビングのように使うこともできる広さを確保しました。

L型のリビングダイニングは、奥まったスペースをつくって、リビング以外に書斎やライブラリーコーナーなどにできる可能性も持たせています。

玄関ホール・キッチン・クローゼットをぐるりと回る回遊動線には、ガラス入りの建具を使う予定。光と視線が抜けていく、開放感のある空間を目指しました。

「これ、今回のプランで活かせそう」と、試作中のアイテムを確認する一杉と山下。

あらかじめ山下から、開発中の商品や今後の商品企画の構想をヒアリングしていた一杉。「あの開発中の商品、ここに使えるかも?」「こんなのも使いたいって言ってたな」とイメージしながらプランニングを進めました。

ここからは、商品開発チーム・山下のターン。一杉からのバトンを受け、コンセプトとプランの意図を受け止めながら、内装設計を進めていきます。

「構想中のキッチンの試作をつくってみたい」と意気込む山下。

一方現場では、解体が始まっていました。

今回は、マンションの竣工当時の図面も手に入れてプランニングを進めましたが、それでも壊してみないとわからないのが、リノベーション。実際の状況に合わせてプランを調整していく必要があります。

床の下、壁の中、天井裏がどうなっているのか。給排水管や電気配線、ダクトルートはどうなっているのか。

果たして、何が明らかになるのか? その様子は次回、現場からお届けします。

次回は工事班のニューカマーも登場です。

ツールボックス工事班|TBK

ツールボックス工事班|TBK

toolboxの設計施工チーム。住宅のリフォーム・リノベーションを専門に、オフィスや賃貸案件も手がけています。ご予算や目的に応じ、既存や素材をうまく活かしたご提案が特徴です。

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毎週水曜日の13時から15時まで、東京・目白ショールームに施工チームがいます。工事に関するご相談も承っておりますので、この時間もご活用ください。

既存を活かしながら、どこまで空間を変えられる?「ReMake」なリノベの実験開始!
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toolboxの新たな試み「studyroom」の第一号物件『studyroom #1』。“壊すこと”を前提にせず、既存内装に手を加えて空間を変えていく実験的リノベーションに、ツールボックス工事班が挑戦します。
キーワードは“mottainai”!フランス人アーティストと取り組む、ReMakeなリノベーション第2弾
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ツールボックス工事班が『studyroom#1』で取り組んだ、既存内装を極力壊さず、手を加えて変えていく、「ReMake」な空間づくり。その新たな章は、一通のメールから始まったーーー。フランス人アーティストの施主とツールボックス工事班が臨んだ「ReMake」な空間づくりの過程を、工事班・一杉の目線でお届けします。
テキスト:サトウ