30代のNさんご夫妻が「リノベ代を削ってでもこの部屋に住みたい」と購入を決めた物件は、低層マンションのメゾネット住戸。予算をオーバーしていたものの、管理状態の良さや、エレベーターがない分共益費が安いこと、低層階ながら光がふんだんに入ることが気に入り、即決しました。既存の状態から前住人が大事に暮らしてきた家であることが伝わり、「良い家なんだな」と実感できたことも購入の決め手になったと言います。

もともと「シンプルな部屋」を希望していたNさんご夫妻は、リノベ費用を抑える目的もあり、床はフローリングを敷かずコンクリート躯体現しのまま、壁も天井も塗装は一部に留め、スケルトン的な空間にリノベーションしました。

床や天井の既存の仕上げを剥がした跡も意匠として活かした空間は、「THE・無骨」。それでも寒々しい雰囲気ではないのは、ウッドブラインドや木を使った家具を各所に取り入れているから。空間にあたたかみを添えています。

各所の設備機器や素材は、コンクリートの躯体現しに似合う無骨さがあり、シンプルなつくりのものをセレクトしていったそう。

キッチンは、オールステンレスの厨房用機器。総長は約3mあり、コンロを組み込んだ台と、収納付きの作業台、シンクを組み合わせています。LYON社のスチールロッカーを並べて、カウンター代わりにするアイデアがユニーク!

リビングやダイニングが見渡せる対面型キッチンも良いですが、壁付けキッチンはキッチンのそばにカウンター収納を置いたり、ダイニングテーブルを置いたりと、スペースを自由に使えるのがいいですよね。

キッチンづくりは、料理のメイン担当であるご主人主導で計画したそう。レンジフードには『ブーツ型レンジフード』のシルバーを採用していただきました。キッチンツールの収納に使った『オーダーマルチバー』も、無骨な空間に似合っています。

「ブーツ型レンジフードは、素っ気ないくらいシンプルでどこにでも馴染むデザインが気に入りました。オーダーマルチバーはモルタルの壁と相性が良く、経年変化する鉄素材であることに惹かれました」

リビングの天井に取り付けられているのは『アイアンハンガーパイプ』です。グリーンを吊るしたり、お客様が来たときにはアウターを掛けておく場所にしたり。近くにライティングレールがあるので、ペンダントライトのコードを引っ掛けて吊るしたりもできそう。

こんな「ちょっと掛けられる」場所が天井にあると、空中の使い方が広がりますね。

こちらは玄関ホールからの景色。『木製パインドア』や天然木の突板を貼った板材で、空間にぬくもりを演出しています。

「クローゼットの扉なので、通気性を考えてルーバータイプのドアにしました。持っている木製の家具と近い色味だったことも、採用したポイントです」

ちなみに板貼りの壁の裏はストレージ。“ガチャレール”と呼ばれる(“ガチャ柱”とも)パーツを使った可動収納棚を取り付けました。棚板はホームセンターでも入手できるOSB合板を使っているので、棚板を増やすのも容易ですね。

こちらのトイレも、コンクリート躯体現しの床と壁をメインにした内装。トイレの位置は変えておらず、既存仕上げの撤去でガラリと雰囲気を変えています。便器も既存利用で、便座カバーだけ取り替えたそう。トイレットペーパーホルダーは、『ミニマルペーパーホルダー』のロングバー。無骨な空間にぴったりのアイテムです。

スイッチは、露出配管との相性の良さで選択したという『アメリカンスイッチ』。コンセントもすべてアメリカンスイッチで統一されています。

玄関を入ってすぐの位置にオープンにレイアウトされた洗面スペースには、『レトロエイジタイル』と『工業系レセップ』をお使いいただきました。木のドアに加えて、艶のあるブルーがスケルトン的な空間の彩りになっています。

共用通路側の窓から光が入る、明るくオープンな洗面は気持ちが良さそう。N邸のリノベが行われたのはコロナが流行する前でしたが、洗濯機置き場を脱衣所に確保する際、一緒におさまり切らない洗面台をどこに置くか検討した結果、ここになったのだとか。隣のドアの先は浴室に続く脱衣所とトイレで、帰宅後の手洗いも普段の身支度や手洗いにも便利な位置におさまっています。

「夫婦ともに好きな青系で、良い雰囲気の色味とムラ感が好みでした」という『レトロエイジタイル』。コスト削減の目的もあり、Nさんご夫妻がDIYで貼り上げたのだそう。目地もとてもきれいに仕上げられています。

予備として多めに買って残ったタイルは、Nさんが依頼したリノベーション会社のほかのお客様のお宅へ譲ったのだとか。前住人が大切にしていた家をその想いごと引き継いで暮らすように、自宅に使った思い入れのある建材も大切に使ってくれる誰かのもとへ。とても素敵なエピソードです。

コストダウンも兼ねた「スケルトン的空間」というNさんご夫妻の選択。95㎡越えの住戸ながら、リノベ費用は設計料込みで約870万円というから驚きです。それでいて「コストダウンのためにこうなった」に見えないのは、リノベーションを手がけたEcoDecoの手腕とNさんご夫妻のセンスによるもの。

金属と、木と、グリーンと、ブルー。躯体現しの空間に映える素材たち。シンプルな空間こそ、各所に使う素材やパーツひとつひとつが大切なことを教えてくれる事例です。

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EcoDeco

EcoDeco

株式会社Style&Decoが運営するリノベーションブランド。中古マンションの仲介から資金計画、リノベーションにまつわるあらることをトータルにサポートしています。コーディネーターは、不動産探しから設計まで一貫して担当できる不動産と設計のプロ。「住まい手の暮らしに合わせたオーダーメイド」のリノベを得意としています。

テキスト:サトウ

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