築50年越えのマンションを舞台に始まったツールボックス工事班による実験的リノベーション『studyroom#1』。そのテーマは「ReMake」。スケルトンにしてフルリノベーションするのではなく、既存の内装に手を加えながら空間全体をつくり変えるアプローチにトライしよう、という試みです。だけど、既存を活かすにしても、その状態の確認は必須。どこまで活かせるのか、考えながら壊していく解体工事の様子とその後を、現場からお伝えします。

「ReMake」なリノベの心得。壊すところと活かすところを見極めるべし

「キッチンは吊り戸棚を外してもらって、本体は活かしで。ここはこのラインまで壊して……」

工事班の渋谷が、解体屋さんに解体箇所を説明しています。

「あらかじめ自分たちで壁の中や床下を調べて予想はしてるけど、実際のところは壊してみないとわからないのがリノベーション。この部屋はその状態を見てからデザインや仕上げを決めていくし、壊さないで活かせるものがもっと出てくるかもしれない」(渋谷)

スケルトンからのフルリノベーションだったら、間仕切り壁も設備機器もすべての内装を撤去するけれど、今回は、既存の内装を極力壊さず、手を加えて変えていく空間づくりがテーマ。いつもだったら解体箇所を指示したあとは解体屋さんにお任せしていますが、今回は工事班のメンバーが常時立ち会い、何が出てくるか確認しながら解体を進めます。

解体直前の現場でポーズを決める工事班・一杉(通称・親方)と渋谷。解体前の内装との思い出の一枚。

壁やキッチンの吊り戸棚に見える「×」印は、解体したい箇所。こうやって直に印をつけて、それを参考に解体を進めます。早速、部屋の各所から「バゴン!バゴン!」という音が。奥からはユニットバスを解体した材がどんどん運び出されていきます。

浴室を囲んでいるコンクリートブロック壁も一部を解体。ブロックの解体は労力がかかるだけでなく音がすごいこともあり、壊す範囲は最低限にして、活かせる部分は残すことに。

一部の壁や天井の壁紙剥がしは工事班が担当。この日はPRチームの下村も参戦しました。壁紙は二層構造になっていて、下の層にある下紙を剥がすのがなかなか難関。ここの壁は下地がモルタルだったので、水を吹きかけて下紙をふやかしながら、スクレイパーでひたすらこそぎ落としていきます。

「結構、力が要りますね。でも、だんだん落としやすい角度がわかってきました!」(下村)
「飲み込みが早いね。うちのチームで壁紙剥がし職人やる?需要あるよ(笑)」(工事班・森村)

その間も解体屋さんの作業はどんどん進行。解体で出てきた廃材は即座にガラ袋にまとめられ、解体と片付けが同時に行われていきます。街中の工事現場を覗くとよく「整理整頓」と書かれたポスターが掲げられているのを見かけますが、作業をするスペースの安全を確保するためなんですね。良い現場は、整理整頓から。

こちらの白髭のおじさんは、コンクリートブロック壁をグラインダーで削っていた一杉親方。マスクをしていたにも関わらず、粉塵で顔まで真っ白。防塵マスクを装備すべきでした。ちょっと歌舞伎の隈取りみたいで迫力があります。

現れたのは“民藝の壁”。解体後の現場で再びの妄想会

そうして数日をかけて解体工事が完了。部屋は一体どうなったかというと……

ドーンと開放感ッ!間仕切り壁のベニヤ板を外したことで、視線の抜けができました。

工事班も想定していなかった“素材”が発掘された今回の解体。その中でも大物がこちら。

「こんなの初めて見た」
「民藝っぽい!」
「ここは仕上げ直すこと考えてたけど、このまま活かしたいね」

不揃いな格子柄がスリップウェアを思わせるこの壁について、

「多分、元々は和室によくある砂壁で、リフォームで壁紙を貼る時にパテを塗って均したんじゃないかな。いずれにしても、この色味とパターンは初めて見た。“民藝の壁”と名付けましょう」

とは、古建築オタクで大学時代には考古学を専攻していた一杉親方の考察。

“民藝の壁”が発見されたバルコニー側の元和室は、畳の下にあった荒板を全撤去するつもりでしたが、一杉親方の思いつきで窓辺の一部を残すことに。

「縁側みたいな感じで良くない?バルコニーに出る時のステップにもなるかなって。とはいえ、チーム内でも意見が割れてるから、最終的にやっぱり取ろうってなる可能性もあるんだけどね(笑)」(一杉)

ベニヤ板を外して出てきた間柱も工事班が盛り上がったポイント。解体指示をした時点では、垂直に立つ間柱だけにするつもりでしたが、解体途中で現れた横胴縁を見て、解体にストップをかけたのです。

横胴縁とは間柱に水平に取り付ける材のこと。最近は間柱だけのケースも多いのですが、一昔前までは横胴縁を付けるのが主流でした。

普通なら間柱の上から釘打ちして横胴縁を留めるところ、この下地は少しでも壁を薄くつくりたかったのか、間柱を凹型にくり抜いた「欠き込み」と呼ばれる方法で接合されていました。

「欠き込みで組まれているの、すっきりしてていいね!」
「この手の込んだつくり、せっかくだからうまく活かしたいなぁ」
「棚板置いてみたらどうかな」
「その棚に何置くんだろ。民藝品?」

既存を活かすと聞くと、表に見えている仕上げや設備機器のことだけに思えるけれど、荒板や間柱といった下地が面白い“素材”になることも。すべてを壊すのではない、既存を活かしながらの解体だからこその出会いです。

極小ユニットバスが解体された浴室は、在来工法によるタイル貼りの初代・浴室が発掘されました。和室との間仕切り壁も一部を解体。コンクリートブロックの荒々しい断面と取り残されたように佇む便器の光景が、なんだかシュール。

ここで議論が白熱したのが、「トイレの向きをどうするか」問題。

「既存を使うには、ちょっと前が狭すぎない?」
「俺はいける!」
「いやいや、壁に頭ぶつかっちゃうよ」
「便器を新しくするにしても、向きどうする?」

代わる代わる便器に座り、動作をシミュレーションする工事班のメンバー。図面上では平気そうでも、実際の空間では違うことも。スケールを体感しながら、使いやすく居心地のいい空間を検討していきます。浴室と洗面とトイレをつくるこの場所は広さを変えずに中身を変えていくので、特に慎重です。

工事班がトイレで盛り上がる一方、元の場所から取り外されて、ポツンと佇む既存のシステムキッチン本体。解体前の打ち合わせでは「ふたつに切っちゃう?」という話が出ていましたが……次回、本当に切ります。

キッチンを切るのは、工事班も初めての試み。頼れる職人パートナーに協力をお願いして、さらにいろいろ切っちゃいます。と、いうことで次回の『工事班の現場通信』は、「床を切る!」「天井を切る!」「キッチンを切る!」の三本です!お楽しみに。

ツールボックス工事班|TBK

toolboxの設計施工チーム。

住宅のリフォーム・リノベーションを専門に、オフィスや賃貸案件も手がけています。
ご予算や目的に応じ、既存や素材をうまく活かしたご提案が特徴です。

 

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※毎週水曜日の13時から15時まで、東京・目白ショールームに施工チームがいます。工事に関するご相談も承っておりますので、この時間もご活用ください。

テキスト:サトウ