施主とのセッションでつくり上げた「ReMAKE」な空間をお披露目

ツールボックス工事班が、実験的リノベーションに取り組んだ『studyroom#1』。それを見たフランス人アーティスト、JUJUさんからの「同じような空間づくりがしたい」というメールから始まった、今回のアトリエ兼住居づくり。『studyroom#1』でトライした、既存内装を極力壊さず、手を加えて空間を変える「ReMake」というアプローチで、築57年のマンションをリノベーションしました。

ツールボックス工事班の一杉と申します。社内では“親方”と呼ばれています。

JUJUさんが普段使うのはフランス語、僕らは日本語。会話手段はお互い不慣れな英語という状況ながら、現場で実際の空間を見ながらコミュニケーションを重ね、出来上がったのは、JUJUさんの感性と既存リメイクが混ざり合った空間。各所に取り入れたリメイクや工夫を紹介していきます。

元の間取りは3DK。玄関が下階、上階に居室が広がるメゾネット住戸。

どこが変わったか、わかるかな?

間取りは、こうなりました。と言っても、間仕切り壁はほぼ撤去していません。

キッチンを通り抜けできる形にしたり、押入れ部分の壁を抜いて回遊導線にするプランも検討しましたが、話し合いをする中で「作品づくりの材料をストックしたり、作品を飾る場所を確保したいこと」、「生活機能はミニマムでいい、寝室はリビングで兼用する」というJUJUさんの要望が見えてきて、収納面を多く確保できるプランに行きつきました。

新たなリメイクにも挑戦。「昭和デザイン」を活かした新旧MIX空間

間取りはさほど変わっていないけれど、立体空間はどう変わったのか!?各部屋を見ていきましょう。

アトリエ・ショールーム兼リビング

フカフカのクッションフローリングと無難な白クロスで表層リフォームされていた空間。

間取りはほぼそのまま、ガラリと様変わりしました。

ここは、JUJUさんが作品を飾るショールーム兼リビング。天井は、元々あった天井を残しながら、真ん中だけくり抜いて折り上げ天井にリメイク。部分的に、ほんのわずか天井が上がっただけですが、頭上の開放感が生まれました。

空間に閉塞感をつくっていた、のっぺりした間仕切り壁。

間仕切り壁のボードを剥がしたら、開放的な空間になりました。

そして何より、この空間に開放感をもたらしているのは、木の間柱を現しにした壁。表層に貼られていたクロスとその下のベニヤ板を取り払って、内部の間柱を残しました。『studyroom#1』でもトライした、既存の間仕切り壁を撤去せずに、抜け感を生み出す手法です。

窓からの眺めは良かったけれど、この壁が抜けてたらもっと気持ちいいはず。

パノラマに視界が広がる空間に。ラワン合板の腰壁は新たに仕上げ直した部分。

こちらはアトリエスペース。眺めのいい窓辺には、ワークカウンターを造作しました。ショールーム兼リビング越しにバルコニーまで視線が抜けて、気持ち良い抜け感のある空間になりました。“間柱現し壁”がいい仕事してます。

木目調シートが貼られていたクローゼット扉は、JUJUさんも僕らも変えたいと思った箇所。

障子は、バルコニー側の部屋で使われていたものを再利用。

クローゼットがあった部分は扉を撤去して、既存の障子がハマるサイズの収納を作り直しました。下段の収納は『織物壁紙』を貼った引き戸を取り付け、土間床や間柱現し壁とも馴染む佇まいになりました。作品づくりの材料置き場を確保するため、壁にはロールの紙や布が掛けられる可動バーと、造作収納も取り付けています。

広さはあるのに閉塞感があったかつての部屋。

障子は、アトリエを仕切る引き戸にも再利用。間柱現しの壁には棚を取り付けて、作品を飾れるようにしました。

掃き出し窓の前には、バルコニーに貼ったウッドデッキと同じ素材で縁側を造作。写真正面にあるホールは、ショールーム兼リビングとの間にあった壁を一部取り払ったことで、奥にあるダイニングまで目線が抜けるようになりました。

コルクで壁仕上げしたコーナー。一部のニッチ収納の中には、型ガラスの窓が仕込まれています。

リメイクではないけれど、ツールボックス工事班として今回初めて試みたのが、「コルク仕上げの壁」。「作品を飾れる場所がたくさん欲しい」というJUJUさんの希望を受けて造作したニッチ収納部分と、ホールの壁一面にコルクシートを貼りました。

これは「作品をピンで壁に留めたい」というJUJUさんの希望から生まれたアイデア。素地のコルクそのままではちょっと工作感が強かったので、ホワイトを拭き取り塗装してみたら、なかなか上品な表情に。壁がアートを飾るキャンバスになりました。

ホールから見渡したところ。かつては障子と間仕切り壁が見晴らしを遮っていました。

見晴らしの良い開放的な空間になりました。

床は、既存のフローリングと下地を撤去して出てきたコンクリート床にファイバーパテを塗って、そのまま仕上げにしてみました。

当初は、仕上げを剥がしたそのままの状態を活かしたかったけれど、ちょっと荒々しすぎたので、コストと見た目のバランスを考えた結果、たどり着いた仕上げ。これも初めてのトライだったけど、イメージしていた滑らかな表情に仕上がりました。

ホール

動線以外の機能がなかったかつてのホール。

ホールの各所にも「飾れる棚」を造作。階段の壁もコルクを貼って作品を飾れるようにしました。

こちらは、玄関から階段を上がったところにあるホール。階段側の壁は、ギャラリーとしても使えるようにとコルク仕上げに。中央の構造壁は、既存クロスの下にあった塗装面の痕跡を絶妙に残し、意匠として活かしました。ツールボックス工事班の秘技「剥がし仕上げ」です。

塗装面の残し方によっては汚い見た目になってしまうので、残し加減に気をつけながら剥がしていくのはなかなか大変ではありましたが、自分の手加減によって表情をつくっていく作業は楽しいものでした。

浴室やダイニングに続く床はサイザル麻仕上げ。当初、JUJUさんは「フローリングでOK」と言ってくれていたのだけど、「塗装跡残し壁」やコルク、障子との相性を考えて、サイザル麻をセレクト。和にも洋にも合う表情と色味が、他の素材とうまくバランスしてくれました。

サニタリー

左:ホールから続く脱衣所。/右:トイレは脱衣所からアクセスするレイアウト。

左:脱衣所には『ウォールディスプレイパーツ』で棚を設置。/右:トイレは手摺や手洗い器を外しました。

脱衣所とトイレは、ドアと壁を仕上げ直し、床はサイザル麻で仕上げ直しました。妖しいイエローの光を放つ照明は、実はもともと付いていたものに、カラー蛍光灯を入れてイメージチェンジ。レトロフューチャーな雰囲気漂う空間になりました。

左:JUJUさんが気に入ったピーコックグリーンのバスタブ。/右:唐突感をなんとかしたかったシステム洗面台。

白とオレンジとターコイズブルーで構成された、ポップな浴室になりました。

洗面台は天板にタイルを貼ってリメイク。面材はシートを貼り直し、把手も交換。ドアは塗装しました。

在来工法でつくられていた浴室は、既存のタイルの上に、新たにタイルを“増し貼り”してリメイク。JUJUさんがセレクトした白いタイルとオレンジ色の目地材で、装いを一新しました。

浴室の防水や下地のつくり直しをせずに空間をリメイクする手法として選択した、タイルの増し貼り。一部のタイルを剥がして下地や防水の状態を確認し、剥がれそうな箇所は補修を行ってから、新たなタイルを重ねました。

オレンジ色の目地材は、JUJUさんのリクエスト。だけど、水がかかるところにも使えるカラー目地材は種類が少なく、今回使ったオレンジ色の目地材は、水がかからない場所用のもの。水で色が流れ落ちてしまうかもしれない懸念があったので、サンプルをつくって水をかけて実験し、気になるほどの色落ちはないことを確認。防カビ剤が入っていないことも説明しつつ、採用しました。

ダイニング

建具と床の色味の差が、チグハグ感を出していました。

壁天井の塗装や造作した家具には、障子や木枠の窓、サイザル麻にも馴染む色をセレクト。

来客をもてなすダイニングの床には、フローリングよりも落ち着いた雰囲気のあるサイザル麻を選びました。既存のフローリングの上から貼っています。フローリングではないので、遮音対策の必要がなかったことも選定理由でした。

壁・天井はグレージュに塗装。ホールとの間仕切りに障子を再利用するため、キッチンとダイニングを仕切る壁は一部を作り直し、建具枠も新たに取り付けています。


キッチン出入り口の上にあるエアコンは、以前は窓の上に取り付けられていたものを移設しました。

型ガラス入りの素敵な内窓越しに見えるのは、エアコンの配管(がっかり)。

配管がいなくなって抜群の眺めを楽しめるようになった窓辺には、ベンチ兼収納を造作。

というのも、以前はエアコンの配管が空間に露出しているだけでなく、バルコニーの室外機に繋ぐべく、窓外にぶら下がっている状態だったのです。ダイニングの窓からの見晴らしも抜群だったので、この状態はなんとかしたい……。

ということで、キッチン出入り口の上に移設して、配管は新たにつくったふかし壁の中に隠し、床下へ通してバルコニーの室外機へ繋ぎました。

工事中の様子。エアコンの配管が先に設置されています。キッチンの床にも穴が開いてますね。

ショールーム兼リビングの窓辺を走る縁側は、エアコンやガス管などの配管スペースになっています。

床下への配管は『studyroom#1』同様、床を一部切って配管を引き込みました。合わせて、水道用のポリ管も新しいものに交換。これらの配管はショールーム兼リビングに新たにつくった「縁側」の下を通って、バルコニーの室外機や給湯器につないでいます。

「床下の配管を引き直す」と聞くと、「床を全部撤去しないとできない」または「床を全部貼り替えないといけない」と思うところですが、こんなやり方もできるわけです。

たっぷり収納はJUJUさん的にも残したい。好みではない木目調シート貼りの引き戸をどうするか。

引き戸は塗装して、JUJUさんが見つけてきたIKEAの把手でリメイク。棚はオイル塗装して色味を鮮やかにしました。

ダイニングにあった戸棚は、真ん中のゾーンの引き戸を外して、ディスプレイ棚にしました。木目調シートが貼られていた引き戸は、壁天井と同じ色で塗装して再利用。昭和っぽさを感じる焦茶の板壁を際立たせてみました。

キッチン

JUJUさんからも「活かしたい」とリクエストがあった、昭和レトロの代表格的システムキッチン。

キッチン正面の壁に貼ったのは『水彩タイル』。背面カウンターは既存のシステム収納をリメイク。

キッチンは、多すぎる収納を一部撤去して、既存のシステムキッチンを活かしました。

背面に置かれていたシステム収納は、新たに造作したカウンターと吊り戸棚に扉だけ再利用。ラワン合板でつくった本体にホーローの扉を取り付けるという初めてのトライ。どんな出来上がりになるかな?とドキドキしていたけど、なかなか愛らしい姿になったように思います。

キッチンの奥の壁には、壁を一部くり抜いて、型ガラス入りの窓を取り付けました。ショールーム兼リビング側から見ると、ディスプレイ棚の背面が窓になっています。これは、JUJUさんの夫・マークさんのアイデア。暗かったキッチンに光を取り込むことができました。

「ReMake」な空間づくりを施主と取り組んでみて

『studyroom#1』に続いての「ReMake」な空間づくり。臨むのは2回目、偶然にも同じマンションで建物の構造や下地の予測が立てやすかったとはいえ、大きな違いは「施主がいること」。「ReMake」な空間づくりは、壊してみないとわからないことや、やりながら決めていくことが多い中、「仕上がりイメージを施主とどこまで共有できるか?」が懸念点でした。お互い母語ではない英語でのやりとり、というハードルもありました。

だけど、「ReMAKE」というテーマに共感してもらえたこと、そしてチャレンジを許容してくれるJUJUさんの懐の広さによって、想像以上に楽しいリノベーションができました。「施主の意向」が入ることで、新しいリメイクにトライすることができたのも、いい経験でした。

そして何より感じたのは、施主とセッションするように取り組む空間づくりの面白さ。お互いアイデアを出し合って課題を乗り越えていく過程は刺激的で、施主とつくり手が対等な関係で取り組むことの大切さにも、改めて気づく機会になりました。

とはいえ、JUJUさんが実際どう思っていたかは気になるところ……。なので、直接聞いてみることにしました!

ということで、次回の『工事班の現場通信』では、ツールボックス工事班の一杉と矢板が、JUJUさんにインタビュー。どんな話が聞けるのか、いろんな意味でドキドキしています。どうぞお楽しみに。

ある日の現場の様子。タイル選びに四苦八苦するJUJUさんと、相談に乗る工事班の矢板。

ツールボックス工事班|TBK

toolboxの設計施工チーム。

住宅のリフォーム・リノベーションを専門に、オフィスや賃貸案件も手がけています。
ご予算や目的に応じ、既存や素材をうまく活かしたご提案が特徴です。

 

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※毎週水曜日の13時から15時まで、東京・目白ショールームに施工チームがいます。工事に関するご相談も承っておりますので、この時間もご活用ください。

キーワードは“mottainai”!フランス人アーティストと取り組む、ReMakeなリノベーション第2弾
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ツールボックス工事班が『studyroom#1』で取り組んだ、既存内装を極力壊さず、手を加えて変えていく、「ReMake」な空間づくり。その新たな章は、一通のメールから始まったーーー。フランス人アーティストの施主とツールボックス工事班が臨んだ「ReMake」な空間づくりの過程を、工事班・一杉の目線でお届けします。
テキスト:サトウ