かわいい娘さんと一緒に出迎えてくださったSさんご夫婦。ご挨拶をさせていただき、それではとお邪魔した私がいちばん最初に感じたことは、「なんだか“懐かしい”、でもとても“新鮮”」。一見相反する感想のようですが、この矛盾こそがこの空間の魅力です。広い玄関ホールの正面に見える壁一面のタイル。天井の柄パネルも、無垢板の壁も、Nationalの照明も。どれもこれもデコラティブで、素材感足し算しまくり!現代の感覚ではとても贅沢に思えますが、なぜか不思議とほっとするような気持ちにもなります。

 

「この玄関は、床以外はほぼ既存のままなんですよ」とお聞きした時は、よくぞ残してくださった……!という誰目線なのかわからない、感謝の気持ちになってしまいました。

リッチな玄関ホール。これだけ白い壁がない空間なのに、不思議とケンカしない素材たち。

目地なしタイルに悶えます。アイテムのひとつひとつが可愛い…!

当時もきっと大切に選ばれたものでしょう。

今回Sさんは、不動産の購入から設計施工までワンストップでサポートしてくれるパートナー、美想空間とともに家づくりを開始。今回のリノベーション、前々から美想空間にお願いしようと考えていたわけではなく、物件探しをしている道中で出会われたとのこと。「今思えば、本当に偶然というか。美想さんとの出会いも、物件との出会いも運命的なものだったのかもしれないですね」

元々は解体前提で売りに出された物件。でも入った瞬間に「ここだ」と感じた

S邸は、築約40年の壁式構造の鉄筋コンクリート造。娘さんの誕生を機に物件を探し、購入に至りました。迷うことなくこの物件と出会えたかというとやっぱりそうではなく、半年ほど物件情報をウォッチし続けたとのこと。物件探しに煮詰まりかけ、気になった物件の売買情報がどこにも出てなかったときは、ご自身で法務局に行って調査したことも。「なんとかならないか!?」の一心で、直接所有者の方に手紙でアタックする寸前だったそう。とっても柔らかい印象のおふたりですが、意外にもパワーな行動も取っちゃうタイプ!

 

そんな最中に美想空間から提案された物件。「元々私たちもチェックしていた物件ではあったんですが、『ここ、お好きだと思いますよ』と後押しをもらって」気にはなっていたもののどうだろうか?と不安と期待半々で内覧に行ったおふたり。ところが、入って玄関ホールを見た瞬間に「あ、もうここだ」と意見が一致!なんとほぼ即決だったそうです。

奥は客間だった場所を、土間を広げてシューズクロークに。ベビーカーや季節モノもざっくり置ける、なんともありがたいスペース!

以前から気になっていた反面、すぐに内覧しなかったのには理由があると言います。「実は、もともと違う不動産屋さんにこの物件について問い合わせしたことがあって。でもその時は『この物件は解体前提で新築用の土地として販売しています』と言われたんです」新築前提だと、建築費用だけでなく解体費用もかなり掛かってしまう。現実的でないな、と思い見送ってしまっていたそう。

 

スクラップアンドビルド。日本の建築業界では、老朽化した建物は取り壊して新たに建て替えるという考え方がまだまだ根強く残っています。それらを否定するわけではありませんが、せっかくこんなに魅力あふれる建物だし、前の所有者さんはとても綺麗に住まわれている。そう思ったSさんは“既存を生かす”方向性でいくことを決意。美想空間もその考え方に賛同してくれました。

 

このお話を聞いていて、物件探しから設計施工までワンストップで依頼するいちばん大きなメリットは“リノベ前提で物件探しができること”なんだなと感じました。「こんな空間にしたいな」という妄想を実現するためには、その物件の状況を正しく理解することがとても大切。とはいえ、自分たちだけで内覧しても、壁の中や屋根裏などは専門的で見えない部分も多いのも事実です。そんな時、頼れるプロのパートナーが並走してくれる心強さ……まさに百人力!

「間取りの制限があるからこそ、僕らには合っていた。新築だったら決めきれなかったかも」

この物件は壁式構造のため、大きな間取り変更ができないという点は確かに少し不安だった、とSさん。イメージを膨らませるために事例を探すも似たような事例は少なく、どのような空間になるのか想像がつきにくかったといいます。それでもこの物件は“磨けば光る原石”。珍しさも含めて唯一無二だと感じました。

 

「この解体した時に出てきた天井の躯体を見て、『ここは見せよう』とプランナーさんと決めました」キッチンはホワイトタイル・木面材・ステンレスと素材感のあるものをセレクトしつつ、それらをグッとまとめ上げてくれる梁の凹凸。より印象的なキッチンダイニング空間に仕上がっています。

「toolboxのパーツ、めっちゃ使いました!」ととっても嬉しいお言葉!

また壁式構造で間取りが変更できない分、刷新する部分は大胆に。このキッチンも元々は和室でしたが、大きく水回りを移動させました。二型配置のキッチンはもっともこだわった部分のひとつだそうです。奥様の一番のこだわりポイント!

「二型キッチンの実現」は、お二人の中でも優先度高め。海外製の食洗機もバッチリ!

拝見していく中で、リビングと繋がる壁の躯体にはなんともカラフルな落書きが。「どこでも書いちゃだめだけど、この壁だけは落書きしてもいいよ、にしているんです」娘さんの成長とともに、この壁もどんどん変化していくのでしょうか。おうちの中のウォールアート、娘さんの新作が楽しみです。

落書きしていいよ、なんて場所があるのがうらやましい。娘さんの手によって躯体も彩られていきます。

洗面はウォークインクローゼットの手前に配置。ここは新規で立てた壁なので、天井付近を抜いています。こうすることによって、光や空気が通り、空間の広がりを感じることができます。「このアイデアはプランナーさんから。壁が抜けているかどうかでグッと印象が変わりますよね。やってよかったなあと、本当に思います。」

スイッチの場所はあえてミラー近くに下揃えで配置。実はサイズの違う2つのスイッチプレートの違和感を目立たせにくくしました。

見所満載なお宅ですが、個人的にいいなと思ったポイント。各場所につながる廊下の交差点なのですが、既存を残した建具や枠、新しく貼り上げた床材など、カラーも素材も仕上げ方もバラバラ。でも、なんだか不思議と違和感がない。統一感がなくても気にならないのは、この物件が持つ包容力ゆえ。既存を生かしたリノベーションの面白さは、ここにあります。

 

私自身も自宅のリノベーションを経験したとき、既存と新規が融合することによる難しさを感じた経験がありました。「ここが既存のままだと、このカラーだけ浮いちゃうかな?」と心配して白塗装を選択することも。また実際、ショールームのお客様の中でもそういった心配をされている方をお見受けします。もちろん、目指す空間のあり方によっては新しくしたり再塗装する方がよいこともありますが、「既存を受け入れる」という眞木さんの考えを体現する場所だなと思います。

床材も、巾木も、建具もバラバラ。奥に見える型板ガラスの建具がなんともキュート。

「ここは砂ちゃん(プランナーさん)のイチオシポイントなんです」と教えてくださったのは、廊下に面するパントリー。元々は引き違い戸の収納だった部分をオープンタイプのパントリーに転用するため、開口部を狭くすることに。その際、既存のこってりした木壁材を再現することは難しいし、とはいえこの今の意匠を生かしたい。そこで、引き違い戸部分を再利用し壁の一部としたとのことです。このアイデアは、なんとお施主さまからの提案だそう。

(Before)元々は引き違いだった収納の扉を利用して……

(After)オープンタイプのパントリーへ!このアイデア、脱帽です。

「満足度満点!」な信頼できる施工パートナーとの家づくり

既存利用する部分と、思い切って一新する部分の切り分けはどなたが主導でされましたか?

 

「うーん、本当に半々かもしれないですね。やっぱり壁式構造だからこそ、解体してみてはじめてわかる部分も多くて。元々この辺りに住んでいて、現場も近かったので結構頻繁に通うこともできました。「ここは残したい」という要望はお伝えしつつ、空間全体のデザインはなかなか想像しきれなかったところもあるので、最後の細かい設計の納まりは美想空間さんにお任せしました」

 

新築やリフォームを計画するとき、細かいところまでこだわって調べたり選んだりすることの楽しさ、ワクワク感。それと同時に沸き起こる「本当にこれが正解?」「1つ1つは好きでも、空間でみたらチグハグだったりしない?」という漠然とした不安感……家づくり経験者なら誰しもが共感できるのではないかと思います。そんな時に頼りたいのは、やっぱりプロのパートナー。Sさんは、自分たちに合ったパートナーとの家づくりに非常に満足しておられました。

 

「実際に住みだしてからもう1年ほど経ちますが、今のところ不満は全くない。満点です」この言葉は、最初から最後までしっかりと考え抜いたSさんの「やりきった」という気持ちと、お任せできるパートナーとの家づくり体験が合わさった結果生まれた言葉だと感じました。

 

これから娘さんがどんどん成長していくにつれ、家族の形だけでなく、家もまた変化するタイミングがいずれくるかもしれません。そうなったとしてもきっと大丈夫だと思える、とっても素敵な空間でした。おじゃまさせていただき、ありがとうございました!

娘さんが見せてくれた「ブロックのおうち」。隙間が窓になってて、そこから海が見えるんだよと教えてくれました。

株式会社美想空間

美想空間が得意にしているのは、戸建てリノベーション。毎日のふとした時間に豊かさを感じられるような、日常の余白=「あそび」を楽しむことができる、「あそび」のある暮らしを提案します。また、自社で運営するリノベーションのショールーム複合施設『KLASI COLLEGE(クラシカレッジ)』では、そんな「あそび」のヒントになるような普段の暮らしがちょっと楽しくなるワークショップやイベントを開催したり、美想空間のスタッフ自ら選書した本コーナーを展開しています。

担当:ナイトウ

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