記憶の中にある「ドア」
オーセンティックバーに、老舗の紅茶専門店。バーバーサロンに暖炉のある邸宅……店舗や映画で一度は目にしたことのある木の扉。
実はヨーロッパでは18世紀にはすでにつくられていたと言うのだから、その歴史は想像以上に長い!レイズドパネルと呼ばれる、浮き彫りのパネルによって構成される形も当時のまま引き継がれています。
その凹凸によって生み出される影が印象的で、扉自体が建物の装飾としても機能する。長く変わらず使われ続けている理由は、そんな扉一枚が持つ美しさにあるのではないかと思います。
伝統的な形状を引き継ぎ、海を渡ったアメリカで工業製品として進化を遂げた『トラッドパネルドア』。その場に一枚あるだけで、空間のイメージを決めてくれるような、力強い存在感を持ったドアです。
伝統を日常に
重厚感のある見た目ゆえ、敷居が高いものと身構えてしまいそうですが、アメリカでは汎用性のあるドアとして、ホームセンターにも並んでいるものをセレクトしました。
また、そのつくりも気候の変化で割れや反りが生じにくいよう、ケアされたものに。
風格のある木の扉を手に入れたいと思うと、アンティークの一点ものや、特注でつくる無垢の框戸を視野に入れることも多いですが、それなりに費用がかかったり、とても重かったりと扱いも難しいもの。
量産品ならではの価格と、日常使いのものとして気軽に付き合える工業製品としてのドア。店舗や邸宅だけでなく、ニューヨークのアパートやアトリエまで広く普及しているのも納得です。
取り入れ方についてもあまり難しく考えることはありません。
例えば、躯体現しのつくり込みすぎない空間の中に一枚。それだけで、その場一帯をあらたまった印象に寄せていくことができます。メリハリをつけた空間づくりの主役として迎えてみると良さそうです。
塗って、磨いて、愛情かけて
「トラッドパネルドア」は無塗装の状態での提供。塗料の色味や質感で、仕上がりの印象がガラッと変わります。
時間の蓄積を感じさせるような、格式高い表情を引き出すためには、色味だけではなく艶感が重要なポイントです。今回は試しに、イギリスのアンティーク家具のメンテナンスに使われる塗料を使って仕上げてみました。
樹種は「レッドオーク」と「ヘム」の2種類。オイルを塗って際立つ、木目の出方が異なります。
木目がはっきりとした「レッドオーク」は、塗装をすることでさらに豊かな木の紋様が味わえます。これぞ木製ドア!という力強い様相は、無垢材を使った家具のように、長く使い込んで行きたいと思わせてくれます。
一方、北米産の針葉樹である「ヘム」は、木目が真っ直ぐで、模様も穏やか。パネル部分に施されたモールディングの曲線によって生まれる陰影が分かりやすく、よりエレガントな雰囲気です。
床と違って頻繁にメンテナンスが必要な場所ではないものの、数年に一度、乾いてきたらオイルを重ねていくことで、綺麗な飴色に育っていきます。
設置して終わりではなく、自分で手を掛けながら、使い込んだ先にどんどん魅力が増していく。そんなドアとの付き合い方もいいですね。
詳しい塗装の手順については、別記事にて紹介しています。挑戦してみたい方は、ぜひ参考にしてみてください。
扉の顔をつくる、もう一つの要素
ドア本体を選んだら、ノブと枠のセレクトもお忘れなく。
オプションのドアノブ・ハンドルは、存在感のあるパネルとバランスが取れるよう、丸座に厚みがあり、ボリュームのあるパーツをセレクトしています。
枠にモールディングの装飾を加える「ケーシング」も選択いただけます。ケーシングを合わせるとさらに奥行きが出て、気品のある雰囲気に。
空間を隔てる・繋ぐという本来の役割を超えて、壁面の絵をつくってくれるドア。「このドア使いたい!」と一目惚れから始まる空間づくりもありかもしれません。