小さなくぼみに、いざなわれ
森の中に建つ、小鳥たちのさえずりがBGMの、木漏れ日が差し込む家。回遊性のある空間で、コーナーを曲がるたびに、印象的な色の引き戸が出迎えてくれました。
やわらかなベージュトーンに差し込まれる、異なる色合いを纏った一枚板のような引き戸たち。そこに飾られたアートやグリーンとともに、それぞれのコーナーが絵になっていて、まるで美術館を回っているような気持ちに。
戸の前に立つと、秘密の部屋への入口のような、小さな凹みが目に留まります。
とても小さなパーツなのに、ほのかに光る金属の表情にいざなわれ、そっと指を掛けて戸を引くと、次の部屋への景色がゆっくりと繋がっていく。
日々の暮らしの中で、無意識に、“引く”行為のきっかけをつくりだす。その、小さな丸い手掛けーそれが『メタル小手掛け』です。
仕切りのデザイン
空間の中で特に印象的だったのは、リビングと廊下をつなぐ、天井いっぱいのボルドーの一枚戸。フルハイトの引き戸は、それ一枚でアートピースのような存在感があり、開閉するたびに、空間そのものが表情を変えていきます。完全に引き切った時には、床と天井がすっとつながり、ただのソリッドな開口のように見える潔さ。
その佇まいと、ゆっくり開閉していく様は、引き戸だからつくりだせるものだと感じました。
2mを越える縦長の戸に対して、この小手掛けは、遠くから見ると、わずかに姿を確認できる程の控えめな存在感。実際、10円玉くらいの小ささですが、戸の目の前に立つと、「ここを触って」と、小さな声でささやかれているようなんです。
誘い込まれる造形美
素材は真鍮とアルミニウムの2種類。
円柱状の金属の塊を、旋盤により浅いテーパーを付けて削りだし、円錐状のくぼみになっています。戸の前に立った時に、自然にいざなわれると感じたのは、この金属の素材そのものの質感と、光の当たり方によってほのかに光を湛える造形ゆえなんだなと、パーツをじっくり眺め、腑に落ちました。
あえて素地のまま仕上げているので、使い込んでいくうちに、少しくぐもった落ち着きが出て、空間のトーンに静かに馴染んでいきます。
戸の前後から貫通させて穴に挟み込むだけのシンプルな設計で、一般的な戸厚に対応可能です。
引き戸の魅力にみせられて
この小手掛けは、その小ささゆえ、複数使いで並べてつけてもうるさくなりません。クローゼットの扉、リビングのキャビネット収納にも使えるかも?なんて、可能性を感じます。
また、トイレなど、ロックが必要な場所に、特に枠無しで納める場合は、頑丈な受けを付けるより、軽く引掛って止まっている程度のさりげなさが、この引き戸には似合いそうです。
かつては、大きな襖絵が部屋の設えを担っていたように、引き戸もまた、使いどころや見せ方次第で、空間の印象や繋がりを形づくる存在になります。
この「メタル小手掛け」が、そんな引き戸を静かに引き立て、空間に絵のような一場面をつくりだしてくれるでしょう。