天井スリットファン」は、キッチン上に54cm角のスリットが入っただけの、フラットな天井を実現してくれる埋め込み型換気扇に整流板がついた商品です。建築事務所のHoribe Associates(以下、ホリベアソシエイツ)のアイデアをtoolboxと共同で開発しました。

天井裏に換気扇本体が埋め込まれていて、天井側からは、2cmのスリットと整流板のカバーが見えてくるだけという構造。

見た目は、キッチン上空を遮る物が何もなくすっきり。確かにこれはいい!と思いつつも、実際お料理する方が気になるのは、その機能面とお手入れ事情ですよね。

今回は、ホリベアソシエイツの設計したお家に住み、実際に導入しているお料理好きのユーザー宅を2軒訪問。商品化前の天井スリットファンを使用して5年の実態を見せてもらいました

1軒目 築5年、料理好きの共働き、お子さんのいるSさんファミリー

家の概要説明

竣工:2018年(取材時、住んで5年目)
家族構成:大人2人、子供2人、犬1匹
料理頻度:毎日3食自炊、揚物週1
キッチンスペック:IH3口、天井高2400mm、コンロ上から天井までの距離1500mm
天井仕上げ:クロス

「天井スリットファン」のプロダクトストーリー冒頭にも登場するこちらのお家。
ご夫婦と小学校と保育園に通う2人のお子さんのいるファミリーです。夫は、ボルダリングと料理が大好き。妻は、建築関係の仕事をしていて、最近は在宅勤務多めという状況だそう。

玄関入ってリビングドアを開けるとすぐこのキッチンカウンターがお出迎え。天井高さは2400mm。左横に吹き抜けがあります。

ー ー設計者へのキッチンのオーダー内容は?
Sさん妻

掃除がしやすい、すっきりしたキッチンにして欲しいと、堀部さんにオーダーしました。キッチン背面の木目の大きな扉の中は、食器や電子レンジ置き場、パントリーとなっています。料理中は開けっ放しです。

Sさん夫

妻が掃除のしやすさから絶対にIHがいいということで、IHにしました。自分は元々ガスで鍋をふるいたい派だったんですが、いまでは慣れましたね。

IH3口コンロ。奥には自家製スパイスが並ぶ。煙が沢山でて吸い込みを確認できるように!と大量のタマネギを炒めたカレーを作ってくれました。

コンロ左の袖壁に他の天井照明と合わせて「天井スリットファン」のスイッチを設置しています。料理をする時にスイッチオン!

ー ー普段の料理について、頻度や作るものは?
Sさん夫

平日昼間、子供たちは学校と保育園ですが、在宅で仕事をしているのでランチも含め3食ほぼ自炊しています。すぐ近くの畑で野菜を作っているので、野菜はほぼ自給自足。料理好きで、週1で揚げ物もしていますね。

ー ーこのキッチン空間、レンジフード無しの生活について
Sさん妻

天井高さもあまり取れないなか、この間取りを提案され、確かに、玄関から部屋に入ってすぐの、目の前にレンジフードがあったら邪魔だなと。既に堀部さんは、埋込み換気扇の導入実績もあったということで、「天井スリットファン」の採用に迷いはなかったですね。

Sさん夫

慣れすぎちゃって、もう当たり前って感じです。むしろ、ここにレンジフードが来ることの想像がつきません。料理を振る舞うことが好きで、来客も多い方だと思うのですが、まぁ普通の人は「あれ、レンジフードがないね!」なんて、違いに気がつきませんね(笑)。

ー ー実際の使い勝手、吸い込みはどうですか?
Sさん夫

料理をしていて部屋中が煙でモクモクするようなこともないですし、普段別に吸ってるかなんて意識してないんですが……特に困ってないから吸ってるんだろうなと。

ー ーお掃除事情について
Sさん夫

しっかり掃除をするのは、半年に一度くらいで、普段は何もしていません。掃除をする時は、キッチンの上にのって、まずは蓋を拭きます。ベタベタしたままだと手が滑るので。そこから、蓋を外し、セスキ水で中を拭き上げています。内側は油汚れにほこりが少したまったりはしてますが、そこまで汚れ溜まりは気になりませんし、周囲の壁がベタベタしてるとかもないですね。

ということで、実際のお掃除手順を見せてもらいました。
ちなみに、今回はお掃除取材をしたい旨を以前からお伝えしており、半年は手付かずの状態です。

キッチン天板から天井までは1.5m。キッチン天板の上に立ち上がり、中腰で作業していきます。まずは油汚れで手が滑らないよう、整流板の縁を拭いてから、スリットに指をかけて整流板をはずします。

油を切る役目のある換気扇オプションの金属メッシュ「グリスフィルター」には、それなりに油がたまってました。ちゃんと効いてるってことですね。

内側は、スリットの奥の油汚れにうっすらほこりがついて、黒っぽくなっています。ファンの外側、天井クロスはまったく汚れていませんでした。

換気扇付属のよくある樹脂製のカバーがついてる状態で、セスキ水をつけた雑巾で拭き掃除。(商品化前の仕様なので、点検口はありません)

樹脂製のカバーを外して中を拭き取ります。外せるものは、シンクで水洗いして乾かします。

レンジフードと違って換気扇は、内部のファン部分の分解掃除は出来ないので、基本はこの状態で拭き上げるだけです。換気扇の羽には特殊な塗装が施され油汚れが付きづらくなっています。

今回、客観的な意見が聞きたいと同行依頼した建築家の清水忠昭さん。「本当だ……全然ベタついてない」と入念に触ってチェック中。

お掃除を見せてもらう直前。どんどん出来上がるカレーを見ながら、話し込む皆さん。左から施主のSさん、清水さん、商品の生みの親で設計のホリベアソシエイツの堀部直子さん、圭一さん、toolboxの椎野。

キッチン横に設置された横長の高窓部分もベタベタすることはないそう。

視界を遮るレンジフードがないことで、コンロ回りにみんなが集まって会話する一体感は心地よいものでした。

「IHだと上昇気流が抑えられるということなのか……それにしても、こんなに料理してて、5年も経ってるのに、こんなにキレイとは……」

と、汚れ具合チェックとしては、良すぎる結果に勝手に不安が募る一同。ただ、掃除としては、キッチンの高いところにのぼって蓋を外して、と足腰が悪くなった高齢の方には厳しいかと思いました。

お次はガスコンロ使用という、2軒目のお家に向かいます。

2軒目 築5年、料理好きの共働きHさんご夫婦

家の概要

築年数:竣工2017年。住んで5年
家族構成:大人2人、犬1匹
料理頻度:平日朝コーヒーのみ、昼は在宅時は作る、夜毎日
キッチンスペック:ガスコンロ3口、天井高2300mm、コンロ上から天井までの距離1350mm
天井仕上げ:クロス

続いて向かった先は、大型犬を飼い、夫はアウトドアが大好きという共働きのHさんご夫婦。高齢になってきた飼い犬のために、バリアフリーの家をつくりたいとホリベアソシエイツに設計を依頼。大きな切妻屋根が印象的な戸建て住戸です。

取材日は、阪神の優勝パレードがあった大事な日でした(笑)レンジフードがないことで、吹き抜けのあるリビングの中にキッチンが置かれているという一体的な印象が高まります。

ー ー設計者へのキッチンのオーダー内容は?
Hさん妻

前の家はキッチンが独立していたのでリビングでTVを見ながら料理したい、料理しながら会話ができるようにしたいなということでアイランドキッチンを希望しました。素材は、メンテナンス性重視で、ステンレスのシンプルなものが好きという話はしましたね。見た目も好きなんですけど、拭いてあげるとちゃんとキレイになる感じがいいなぁと思って。

Hさん夫

釣りをするので、魚を捌けるようシンクと作業台のスペースは大きくしたいとお願いしました。料理が大好きなので、コンロは絶対火力の強い「プラスドゥ」でと。

プラスドゥの火力話で盛り上がるHさんご夫婦と椎野。

キッチン後ろの木の扉の奥がパントリーになっています。 

ー ー普段の料理について、頻度、作るもの
Hさん妻

私はほぼ毎日出社、夫はリモートで週半分くらい家にいます。朝は平日はコーヒーだけ、昼は家にいる時はつくって、夜はほぼ毎日つくってという感じです。炒め物はほぼ毎日ですね。唐揚げが結構好きなんで、週末とかは、ほぼ唐揚げですね(笑)。

ー ー実際の使い勝手、煙の吸い込みについて
Hさん夫

ハードな料理というと、餃子も好きなんですが、水を入れた瞬間、ぐわっと水蒸気が上がりますね。あと、コンロで焼き鳥作ったり。でも、ガスで直進性があるのか、まっすぐ昇って吸ってますし、周りにもそんなにはねないというか、ベトベトにならないです。

ー ーこのキッチン空間、レンジフード無しの生活について
Hさん夫

設計をお願いするタイミングで、堀部先生の設計したお家を結構見て回ったんですよ。で、もう先生の手掛ける住宅は、レンジフードがないのが当たり前くらいに思ってました。

Hさん妻

夫は最初からすっきりしていいとノリノリでしたが、私は、最初レンジフード代わりに換気扇を埋め込んでいると聞いたとき、やっぱり、それで大丈夫?と思いましたね。汚れ具合も気になりました。ただ、訪問したお家が、何年か経っててほぼこの状態ですっておっしゃってて。お住まいの方が汚れが気にならないってことは、キレイなんだろうなと。実際使っている方がいるということが、最終的に採用を決断できたポイントでした。当時は、そんなに揚物をつくる予定もなかったので(笑)。

以前は、金属のフィルターを外して掃除するタイプの一般的なブーツ型のレンジフードを使っていました。レンジフードがあるのが普通だと思ってたので、それがないことでこんなにすっきりするんだなと、いまは実感しています。それまでは、当たり前にあるものだから、気にもしてなかったですが。

「多分どこよりも唐揚げをつくってる自信がある」というHさん夫。タフに使いこまれても、片づけすればすっきりのステンレスキッチン。

ー ーお掃除事情について
Hさん妻

3ヶ月に一度くらいですね。3段の脚立を使ってのぼっています。
油取りフィルターを自分で入れているので。(オプションの1軒目で使っていたグリスフィルターは知らなかった)このフィルターを付け替えて、周りと縁を拭いて終わりって感じですね。中性洗剤を薄めたもので拭いています。

前の家のブーツ型を使っていた時は、金属のフィルターを外して重曹に浸けて洗ってとかやってましたね。でも、いまこっちの方が楽かも。

ここで、日々唐揚げをつくりまくったことによる汚れ具合をみせてもらいました。

掃除前の様子。3ヶ月ぶりのお掃除です。寄ってみると、縁に油汚れがついているのが見えます。整流板の表面にもうっすら油のテカリが。

まずは、整流板を外します。(※商品化されたものは、整流板落下防止にワイヤーがついています。)

Hさんのお家では、金属のグリスフィルターの存在を知らず、使い捨ての油取りフィルターを使っています。かなりの油の染み込み具合!

使い捨ての油取りフィルターを外して。

1軒目と違って、スリットの内側にもそれなりに汚れが貯まっていました。

中性洗剤を薄めたもので拭き掃除していきます。Hさんは使い捨てのシートで拭き取る派。

1軒目のSさん宅と比べて、分かりやすい汚れ具合。炒め物又は揚物をほぼ毎日という料理っぷりに加えて、ガスコンロなのでIHと比較して、上昇気流が発生しやすいということも影響があるのかもしれません。ただ、掃除をしてしまえば、すっきりキレイにリセットされますし、Hさんご夫婦は、毎日すっきりした視界の抜けを享受できるところを良しとされているので、そこは気にならないようです。

1軒目同様、みんなで「天井スリットファン」を見上げながら談笑。

ー ー今回、「天井スリットファン」が使われる様子をはじめて見た建築家の清水さん。客観的に実際、使っている様子を見てどうでしたか?
清水さん

事前の段階では、興味と期待はありつつも、正直、機能面、汚れ、清掃面など不安の方が大きかったです……でも、実際問題なく使えているのを拝見して、あぁなるほどと。

今まではレンジフードが極力目立たないようにキッチンのレイアウトを検討し、お施主様へ提案してましたが、この製品が出てくることで、その呪縛から逃れられる。自由にレイアウトを提案できますね。

このような製品は、既製品として世に出ていないため、(お客様によっては)受け入れがたいとは思いますが……世の中に認知されていくと、キッチンの常識を覆す商品になっていくと思います。

取材を終えて

今回は、「毎日お料理をがっつりされているお家を取材したい」「掃除前の状態を見せてください」という無茶なお願いにも関わらず、Sさん、Hさんファミリー、取材にご協力いただきまして本当にありがとうございます!

広い空間にポツンと置かれたアイランドキッチンは、壁付キッチンに比べ空間の気流の変化を受けやすいもの。また、今回の2軒はIHとガスで火元の種類も違いますし、1軒目のお家は、キッチンのカウンター部分にL字の立ち上がりがある、2軒目のお家は天板があるだけでオープンだがガスなのでIHに比べ上昇気流が発生しやすいと、レイアウト条件も異なります。

お料理の仕方も異なるため、純粋にガスだから汚れが目立つ、IHだから汚れづらいとは厳密には比較できませんが、それぞれの住まい手の方が、「掃除をすればキレイになるし、数ヶ月に一度の高いところにのぼっての掃除も慣れた。何よりこのすっきりさが使わない時の存在感含め、気に入っている」と同じ感想を述べられているのが、印象的でした。

この2軒の他、ホリベアソシエイツがこれまで手掛けられた10軒以上のお家で「天井スリットファン」は、使われているという実績はあります。とはいえ、「天井スリットファン」は、換気扇であって、レンジフードではありませんので、元々のファンのパワーも異なります。しっかり煙が排気されることを重視したい、手の届くところで掃除もしやすい方がよいという方は、レンジフードを購入いただいた方がよいと思います。

元々、目の上に来るレンジフードの存在が邪魔だなと思っていた方。料理もするけれど、このコラムを読んで、いけそうと思ってくださった方は、開発者のインタビューコラムも合わせてご覧ください。煙捕集試験をした際の動画なども参考にしていただきつつ、設計の方とご相談の上、採用を検討くださったらうれしいです。

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テキスト:来生