左から、toolbox石田・IMA:ZINE岩井さん・スタンダードブックストア中川さん。トークセッションは、大阪ショールームが入居する西田ビルB1階部分にある「ハイパー縁側」で行いました。

大阪ショールームオープン記念トークセッションでは、大阪・心斎橋に店舗を構えていた名物書店「STANDARD BOOKSTORE(スタンダードブックストア)」(現在はオンラインとイベント出店で営業中)の店主・中川和彦さん、元雑誌「CAZI CAZI(カジカジ)」編集長で、大阪ショールームと同じ、大阪・中津に店舗を構えて7年のアパレルショップ「IMA:ZINE(イマジン)」代表・岩井祐二さんをゲストに迎え、toolboxブランドディレクター・石田が聞き手になり、お話を伺いました。

トークテーマは、「編集」。toolboxは、2010年に「自分の空間を編集するための道具箱」というコンセプトではじまりました。普段から「編集」という目線で世の中をみているお二人の対談を通して、家づくりにおける編集のヒントを探ります。

大阪ショールームでは、中川さんに選書していただいた本を販売する「STANDARD BOOK BOX(スタンダードブックボックス)」が誕生。そのラインナップは、建築から大阪・愛情・カレーなどなど、テーマは多岐にわたり、新刊・古書も入り混じっています。トークでは、その独特な選書理由も明らかにされました。

大阪ショールームで書籍を販売する「STANDARD BOOK BOX(スタンダードブックボックス)」。

登壇者プロフィール

中川和彦/1961年、大阪府生まれ。1987年、25歳の時に父親が経営していた、百貨店の書籍売場を運営する会社を引き継ぐ。2006年心斎橋に「本屋ですが、ベストセラーはおいてません。」をキャッチフレーズに、雑貨販売やカフェを併設した『STANDARD BOOKSTORE(スタンダードブックストア)』をオープン。2020年、天王寺に移転。2023年6月に店舗を閉じ、現在新しい店のあり方を模索中。

岩井祐二/1977年、京都府生まれ。2002年、交通タイムス社に入社し、関西発のファッションカルチャーマガジン『CAZI CAZI(カジカジ)』編集部に配属。2005年から『CAZI CAZI』編集長に就任し、2012年からは複数の雑誌を束ねる編集局長に。2017年に独立後、仲間と共にセレクトショップ『IMA:ZINE(イマジン)』をオープン。瞬く間に、関西のみならず、日本中から注目を集めるショップへと成長を遂げる中、自身は今もなお編集者として様々な媒体に携わる。

石田勇介/1981年福島生まれ。映像ディレクター、アパレルブランドを経て、2015年『toolbox』に入社。リノベーションや新築戸建の企画・内装デザインをはじめ、東京・大阪ショールームのディレクションも務めるtoolboxブランディングディレクター。

「編集」との付き合い方

石田

toolboxは「空間を編集する道具箱」をコンセプトにしています。今回は「編集」をテーマにお話をしていきたいと思います。また、今はいろんな情報が溢れていて、建材・パーツもたくさんあって、編集するとは言っても、軸がなかなか定まらなかったりとか、決めたはずがぶれてしまったりみたいなことが多い現状をよく聞くようになってきました。

編集という視点で世の中を見てこられたお二人のお話を伺いながら、ヒントが得られたらと思っています。それぞれどういった道を歩みながら編集と付き合ってきたのかお聞かせいただけますか。

土曜の昼間、toolboxオリジナルビールを飲みながらラフな雰囲気で始まりました。

中川さん

最初に断っておきますと、気軽にトークを受けたものの編集なんてやったことありません。皆さんがもしいわゆる編集者というものを期待してこられてるんやったら最初にごめんなさいと言っておきます。

石田

編集といっても、自然に編集というような行為をしている状態もあると思います。

中川さん

料理も編集とか言うけど、いちいち編集と思ってやってる人いてないと思うし、まさにスタンダードブックボックスで販売する書籍の選書が編集かもしれないんですけど、要は自分の好きなもんを置いてるんです。

例えばスタンダードブックストアで言うと、出会いとか発見があった方がいいなと思うんです。だから、スタンダードブックボックスにも、あんまり(家づくりに)関連した本を実は置かない方がいいのかなとは思っています。

石田

意外ですね。

中川さん

編集って言うと美しいグラデーションのように、文脈がある本屋を想像しますよね。僕はそれが割と不得意な人間で。見ても「ああ、なるほどな、やっぱりこれか」としか思えないことが多いから。突拍子もないものが出てきた方がいい。

せやけど、それをただの違和感にならないようにどうするかっていうのは、僕は法則とか分からないんで、置いてから眺めて「違うな」って現場で合わせる感じですね。

石田

スタンダードブックボックスをつくりたいと最初にお話させていただいた時から、スペースも限られている中でどうしていこうかと悩まれてましたもんね。

中川さん

(toolboxのお客さんは)やっぱり家に関することに興味があって来はるから、「建築論」とか置いたけど、今考えると「実はいらないんかな」とは思いますしね。

まだ今日オープンしたとこやから分からへんけど、どういう反応があんのかなと、これからを楽しみにしてます。

「STANDARD BOOK BOX(スタンダードブックボックス)」では、中川さんに選書していただいた多ジャンルの本を販売しています。

石田

今後も手を加えていきながら変わっていくということですね。ありがとうございます。

岩井さんは「CAZI CAZI」の編集長やられたあとに、セレクトショップの「IMA:ZINE(イマジン)」をつくられているわけですが、編集からセレクトショップへのつながりはどういった形なんでしょうか。お店も編集されているのかなと思うのですが。

岩井さん

僕も中川さんと同じで、「これが好きな人にはこれ」という、AmazonとかiTunesのレコメンドみたいな予定調和が、何か押し付けられてるように感じて、あんまり好きじゃなくて。僕がやりたいのは、あえて逆のことを提案したりとか、脳が右から左に、左から右に動いたりするようなこと。

月刊の紙媒体でやっていたことをリアルで体験できる場がつくれないかなと思って、2017年に「IMA:ZINE」をオープンしました。

IMA:ZINE店内の様子。レイアウトは頻繁に入れ替わる。(写真提供:IMA:ZINE)

岩井さん

店では、文脈がわかる並べ方はしていません。例えば「こういうシンプルなのが好きな人にはこの上質な靴下」みたいな提案は他の店でもいっぱいされてるので、僕はそういう服を探しに来た人に違う扉を開ける役割をせなあかんなって。そういう意味の編集をしています。

実は僕ら、セレクトショップという言い方をやめていて、エディトリアルストアって言ってるんですよ。

昔は情報が少なかったんで、新しいものを見つけて販売する、で良かったんですけど、今はお客さんの方が詳しかったりするんで、セレクトショップっていう業態はもう時代的にあんまり合わへんかなと思ってて。

僕らなりにストーリーをつくったりとか、僕らが知ってる価値観をのせたりとかしながら、お客さんに違う価値を届けていくことを編集という形でやっています。

スタッフには、「全員がエディターの気持ちでやって」「集めるって書いて編集やけど偏って集めるのも偏集やから」みたいな話もしながら、いろんなことをみんなで考えながらやってるお店ですね。

「いいものが溢れる時代」にどうあるべきか

岩井さん

洋服で言ったら、今の時代、かっこいいもの・いいものが溢れていて、悪いものってそんなにないんですよ。ファストファッションにしたって、いいものつくられてます。お金を出すのは、その背景とか、物語だと思うんです。「せめて僕たち届ける側がそれ以上の思いを持ってないと、お店としてやる意味がないよね」っていう話をよくしていますね。

中川さん

それは何をお客さんに与えようとしてやってるの?

岩井さん

(IMA:ZINE)ディレクターの谷(元ビームスのバイヤー)ともよく話すんですが、「新しい扉をノックする」っていうのをテーマにやっているんです。

例えば、うちのお店は2階がギャラリーになっていて、アート展とか写真展やったりするんですけど、服好きな人ってアートとか写真とか全然買わない人たちなんですよ。そういう人たちが写真を、例えば5万、10万で買う。それだけでもう一気にその人の新しい扉開いちゃうんですよね。

梅田とか心斎橋でぶらぶらして入る店とは違う、中津っていう場所にわざわざ来てもらっているので、他とは違う体験をしてもらえないと、ここでやってる意味もないので。

中川さん

服を買いに来た人が写真やら買うわけ?

岩井さん

めっちゃありますよ。このコートとこの写真どっちにしようって悩まれてたりとか。

中川さん

買ったことないっていうことは、写真集とかも見てないし、写真家の名前もほとんど知らないってことだよね。そういう人らが買うっていうのは、IMA:ZINEがセレクトしたからってこと?

岩井さん

そうですね。そこで僕らが何でいいと思ってんのか、これを買うことで何が生まれるのか、どんな扉が開くのかみたいな話を延々としたり。

中川さん

怪しい売り方や(笑)

岩井さん

(笑)

でも、違う体験を求めて来てくださっていると思いますよ。

IMA:ZINE2階のギャラリー。アーティストのエキシビジョンや写真展などを開催する。(写真提供:IMA:ZINE)

どう出会うかで見え方が変わる

中川さん

スタンダードブックボックスの本も、お客さんがあんまりこういう本見ないけどって、手に取ってもらえたらありがたいですね。

本って、新刊なら基本的にどこでも同じ価格で売ってるんでね。うちの店で「これってあんまり置いてないですよね」って言われんねんけど、「おそらくジュンク堂行ったらあると思いますよ」っていう話をするんです。でもあんだけ広い中で置いてんのと、うちの店で置いてんのとまた全然見え方が違うから、俺らもやっていけてると思って。

心斎橋に店舗を構えていたSTANDARD BOOKSTOREの店内。(写真提供:STANDARD BOOKSTORE)

中川さん

でも、あんまり流通してない本を置いている本屋さんは今は増えてるからね。ポイントは人かな、って。その店の雰囲気というかその空気。なんとなく“なんか行きたくなる”ってことがすごい大事で、もちろんそれは人とその空間。建物っていうのもあるかもしれへんし、本とかが全部混ざった総合的な話やからね。商品だけとっても、なかなか言えないことですよね。

雑貨屋Tシャツ、文房具なども販売。カフェも併設していました。(写真提供:STANDARD BOOKSTORE)

石田

同じものでもお店だったり、出会い方で見え方が変わりますよね。僕も本を買う時、本屋さん行くんですけど、ネット注文して届くよりも“買って帰りたい”と思わされることが、本との出会いによってはあるなと思いながら聞いていました。

toolboxでは一般的に流通している建材も扱ったりするんですけど、建材を裏側からだったり、普段は見ない角度から写真を撮ったりしています。普段見慣れているようなものでも、意外と買っていただいたりとか。

中川さん

同じような素材・商材使って同じように置いてるように見えても全く変わるんでね。そこが面白いところで。

toolboxも東京と大阪に2つショールームあるわけやけど、面積が違うとかそういう問題ではなくて、いてはるスタッフが違うからそもそも同じではないよね。なんか大阪ショールーム心地いいなみたいな感じで。置いてるもんはほとんど一緒かもわからへんけどスタッフの人で変わると思う。

ここ(大阪ショールーム)はいろんなパーツがあるじゃないですか。お客さんに、「これはこういう風に使った方がいいんですよ」とかそういうヒントを与えたりとか、相談にものるところなの?

石田

そうですね。基本、何でも聞いてくださいという形です。

本来の使い方と違う使い方をしたいという方には、もちろん「危険がある可能性もありますよ」みたいな話はするんですけど「使っちゃダメです」とは言わないんですよね。「ご自身の範囲の中で、別の用途で使っても全然問題ないです」っていう話もしますし。

中川さん

こう聞かれたらこう答えるっていうマニュアルはないんだ。「こんだけ過重かかったらあかんで」っていうのはあるとは思うけど。

石田

そういう基本的な情報は共有してるんですけど、僕もショールームに立って思うのは、メンバーによって説明の仕方が全然違うんです。それぞれ思い入れがあったりとか、お客さんに合わせて話す内容自体がどんどん変化していくようなショールームだとは思いますね。

中川さん

なんかその方がいいよね、誰に当たるかも運やから。

石田

toolboxのショールームは割とそういう意味でムラがあるというか。

中川さん

それがいいよ。みんな一緒やったら気持ち悪いもん。

お客様をご案内するショールームスタッフ。スタッフによって、好きなテイストもバラバラです。

「ただただ好き」が面白さを生む

岩井さん

さっき上(大阪ショールーム)でスタンダードブックボックスを見させてもらって、ちょっと思い出しました。

僕、インタビューとか取材で、過去に何百軒とクリエイターの家とか事務所を訪れたと思うんですよ。第一線で活躍する洋服のデザイナーとか建築家とか。

いつも本棚が気になってよく見さしてもらうんですけど、まあぐちゃぐちゃなんすよ。理路整然と何か並べてる人なんてほとんどいない。本人の中にはもちろん何かあるんですけど、基本的にそこに文脈とかは、普通の人が見たら分からない。

インテリア取材とか行っても一緒で、結局綺麗に整頓されすぎてるのはあんまりこうぐっと来ないというか、写真の撮り所が分からない。引きの絵で終わるっていうのが大体のパターンなんですよ。

よく「BRUTUS」とか見てても、面白い家の写真って結構引きの写真が少なくて、気持ちすごいよくわかるなと思って。この空間に「なんでこれがあるんやろ」みたいなのが、すごい面白い。ただ好きやから置いてはるだけやと思うんですけど、自分が気持ちいいかどうかだけを判断基準にしてはるのを見ると、見たことない価値観に出会えて勉強になるなって、いつも思っていて。

こないだトラベル誌の「TRANSIT」編集長の林さんと話す機会があって、家のお話を聞いたんですけど、とても面白かったです。世界中で集めたものが集められてるんだけど、例えば、アメリカ好きな人はアメリカっぽくしたりするじゃないですか。

石田

そうですね。なんとかスタイルみたいな。

岩井さん

ただただ好きなものを置いてたらこうなりましたって言ってるそのインテリアは、イランで買ったラグに、フランスで買ったアンティークが置いてあって、日本の古道具屋で買った花瓶があって……でもなんか整理されてて。ご本人はそれがとても心地いいとおっしゃってました。

ただただ好きなものを、その人にしかできへん集め方とまとめ方をすることが、編集ってことなんかなって僕はその時思って、久々にドキッとしたというか面白いなあと。それを中川さんの本見てて、なんとなく思ってました。

あとは、例えばミッドセンチュリーが好きで、どっかの雑誌で見たような形で完全にコピーした店とか家とかを取材で訪れたりすると、それはそれですごい気持ち良かったりしますよ。なんせその人が嬉しそうなんで、羨ましいなってなる。

真似が良くないっていうよりは、とにかく素直に好きなことへの熱量が大事かな。それが人を引きつけることかなって気はしますね。

石田

そういう面白さも確かにありますよね。

「自分を出す」が最重要

中川さん

その人しかできないっていうことはいいよね。それが多分1番根本やと思う。

昔、心斎橋のスタンダードブックストアで学生のフリーペーパーのコンテストをやったのね。みんなすごい上手にかっこいい雑誌つくんねん。でもね、あんまり心動かされない。大体どっかで見た、なんかBRUTUSっぽいとか、こぢんまりしたのばっかりで。

今、近畿大学でアサダワタル君が先生をやっていて、学生が本をつくる彼の講義を手伝ってるんやけど、そん時学生に言ったのは「もうとにかく何も恐れんと、自分が好きなもんだけやってくれ。全く人に見向きもされなくてもいいから、むちゃくちゃでいいから」って。

岩井さん

編集長時代には部下に好きにやってというんですが、奇をてらったらいいと思う人もやっぱ多いんですよ。でも狙っちゃうともうその時点でダメ。ほんまに好きかどうか、とにかく気持ちがいいかどうかが一番大切。音楽でも無理して聞いてても気持ちよくないと思うんです。自分の好きなもん聞くのが一番じゃないですか。

例えば、ミニマムですごく美しいブランドの服つくってる人は、勝手にピアノの音楽とか聞いてんのかなとか思っちゃうんですけど、本人の事務所行ったら思いきりパンクをガンガンに流してむちゃくちゃ綺麗なセーターつくったりとかしてるんですよ。面白いなと思って。みんな好きなようにやってんちゃうかなと思いますけどね。

特に家とか事務所なんて自分が一番いる空間なんで、もうとにかく自分が好きなもの、僕なんか目の前に阪神のカレンダー貼ってますし、好きなもん好きなように楽しめばいいのになって思います。どういう形で整理されていくのかは人それぞれかなと。

石田

特に自分の空間をつくるっていうのは、正解がない行為だと思うので、整理する手法も大事ですけど、自分がどんなものが好きなのかみたいなところからスタートしてみてもいいのかもしれないですよね。

中川さん

今、「古本屋台」っていうのをやろうと思ってて、俺は元々古書やってないから何しようかなと思ってたら「なんかかっこいいのがいいです」って言われて。かっこいいって何やろなと思った時に、自分の頭に浮かんだんが「SWITCH」という雑誌で。90年代ぐらいのやつは、表紙のアートディレクションが今と全く違う感じ。

出てくる人もロバート・デ・ニーロやったりパティ・スミスとか、それがめちゃくちゃかっこいいからもうこれで 行こうと思って。

石田

完全に中川さんのかっこいい軸ですね。

中川さん

そう。だから、「外れたら俺は知らんで」って感じやね。いや本当、見向きもされないかもわからへんねんけど、編集長の新井さんってやっぱすごいな、かっこいいな、と思って。そもそもこんなやつらになんでインタビューできんねやろっていうのもあるよね。ブルース・スプリングスティーンが載ってたりとかするわけね。ちょっとなんか例えに出してんのが古臭いか。今の人知らんか。

後編に続きます)

テキスト:庄司