納得のいくカーテンを見つけられない日々

小さい頃から大工の父親に影響され、建築の道に進んだリオさん。建築の仕事を辞め、母親のカーテンショップを継いだ彼女は、毎年毎年、新しい生地が「流行」と言ってどんどん出てきては、2年後には廃盤になっていく大手メーカー商品に疑問を感じていました。

その頃リオさんは自分の家を建築していました。カーテン屋にも関わらず、納得のいく生地が見つからないので、高窓や塀を使い、カーテンをかけなくていいような設計をしていたそうです。自宅で使う資材探しに各地を巡っていたある日、とある織り元さんを紹介されました。

運命の生地との出会い

ノコギリ屋根の織り工場を訪れると、機械は止まっていました。「なぜ織らないんですか?」と聞いたところ、国内生地の需要が減り、注文が溜まってからでないと織らなくなったそう。日本の産業の衰退を垣間見ました。

そんな工場に、雑然と積まれ置いてあった小さいハギレの中に「これだ!!」と一目惚れした生地が。それはガーゼになる前の薄生地でした。この薄生地を2枚か3枚重ねて反物にしたものがいわゆる「ガーゼ」と呼ばれ出荷されます。1枚の生地は、木材で言うならば製材する前の木。本来カーテンには向かない生地で、目が粗く、技術がないと縫えない素材でした。

それは、扱いの難しい生地でした

織り職人さんは昔気質のおじさん。「この生地でカーテンなんて無理無理。」と相手にされず、なかなか売ってくれません。それでも食い下がり「この生地でカーテンをつくってみせます」となんとか売ってもらった3mを持ち帰りました。

試作品は、縫い目はガタガタ、裾はヨレヨレ。それは、とてもカーテンとして販売できるような状態ではありませんでした。職人さんに見せると「こんなもの売るなんて素材に対して失礼だ」と、こてんぱんに怒られたそうです。

織りやすいよう、生糸にのりを付けて織り上げた生機(きばた)は、のりを落とすため洗いにかけて使います。洗うことで目地がキュッと縮み、良い雰囲気の自然なしわが現れます。(写真参照)しかし、しわしわな状態での縫製は困難。でも、縫ってから洗うと糸やフックを付ける芯地と収縮率が合わず歪みやよれがでてしまうのです。

試行錯誤から生まれました

それでも諦められず、もう一度3mを売ってもらい、試作しました。今度は、染め物に使う糸を使ったり、収縮率の合う芯地を探しました。ひとりでは難しい問題も、社内で縫製に携わる仲間に知恵を借り、技術を頼り、解決できました。

織り職人さんに報告し、縫製は合格。「今度は洗いを気をつけてみろ」と課題がでました。諦めないリオさんを、まるで弟子のように試しているかのようです。 試作のカーテンは、確かに白く色落ちしていました。「生機のままの色が出したいのに。。。」

そこでリオさんは、化学に詳しいお兄さんに相談しました。空気による化学変化を知り、干す時の天気で色が変わる事に気づきました。乾燥した晴れの日に洗うと色落ちせず、喜び勇んで職人さんに報告すると、「あんた、晴れた日にしか仕事しないんかい?」と言われ「あ、そりゃそうだ。。。」と落胆。すると今度は「水の温度と洗剤を考えろ」と、職人のおじさんは少しずつヒントをくれました。

それから、洗う水の温度と洗剤を、何度も何度も試行錯誤のうえ、半年の研究を経て、ついに生地職人さんに認めてもらえるカーテンが出来たのです!

  • この変色と極端な縮みは、最初の「のり落し」の時だけなのでご安心ください。

しかし、更なる試練が、、、

やっとカーテンが販売できると喜んでいたのはつかの間、問題がもうひとつ。工場を訪れ最初に聞いた、あの件でした。織り工場は、需要が減った問題で、一度に何万メートルも織らないと燃料とのコストが合わず、閉業においやられそうな状況。売ってもらうには20,000メートル購入する必要がありました。一窓に使う生地が約6mだとすると、、、ものすごい数です。ビジネスとしては販売前に大量の在庫を抱えるのは大きなリスク。それでも、どのくらい売れるのか見込みは無いが、やるしかないとリオさんは決断しました。自分の人生を変える出会いだという確信があったから。

そのカーテンは、自然の「しわ」が外からの目線を程よく遮り、優しく風をはらみ、太陽の光を柔らかくお部屋に届けます。肩肘はらない、自分らしい暮らしを楽しむ人にちょうどいい。やっと出会った、 理想の生地。この良さをたくさんの人に伝えられたら、日本の産業の衰退にも貢献できるかもしれません。toolboxで、少しでも、そのお手伝いが できたらと思います。

(竹沢)

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