間取りのないハコの家

以前にコラム「間取りのない家、販売開始!」にてご紹介した「西荻窪の家」プロジェクト。

天井は剥き出し、壁も合板のまま、内装どころか間仕切りもない。用意されたのは無垢フローリングと設備だけ。生活する上で最低限のリノベーションだけが施された「未完成」の家の内装は、住まい手となる購入者さんに編集してもらい、toolboxはその空間づくりのサポートと施工を行います、というものでした。

販売時の家の状態。フローリングと設備以外は何もない素のハコ。

理想とした内装づくり

購入後に内装工事をすることが前提の、前代未聞のこのプロジェクト。目指したのは、住まい手に合わせて自分で暮らし方を編集できる、内装づくりのしくみを構築することでした。

寝室の位置や個室の有無、飾りたい本や隠したい荷物の量、つけたい照明や手に触れるパーツの質感など、暮らしに求めるものは実に十人十色。ただ、ゼロからイメージを組み立てるのはやはり難しいうえ、費用がいくらかかるかもわからない。組み合わせや優先度は自分で決めるけど、ある程度のガイドは欲しい。ということで、あらかじめ100種類以上のおすすめ内装メニューカタログをご用意し、自分でコストとイメージを見比べながら優先度をつけることがしやすいようにしました。

工事費込みの内装カタログ。部位毎の内装工事がカタログ化されている。

自分に必要なものだけを

この実験的な販売方式の中古戸建てをご購入されたのはSさん。30代のご夫婦に男の子の計3人家族です。驚くことに、内見で初めて訪れたその日にご購入を決断されたとのこと。

左が内見時の状態。ちょうどスマホとアプリのように、素のハコに必要な内装だけをインストールしていく発想。

即決の理由としてはずばり、構造補強や断熱といった建物性能向上のリフォームが既に成された素の状態に、自分にとって必要なものだけをインプットしていけば良いというシンプルな考えの販売方式。

当初Sさんは、新築戸建てや、中古戸建てを購入してからのリフォームを検討していたものの、一般的な新築のツルツルとした素材感や真新しさ、せっかく購入したものを一度壊して新たにやり直すといった煩雑さがなかなか受け入れられずにいたそうです。

左がbefore、右がカスタマイズ後。白い壁と、木製ガラス窓と、白いドアをインストールして寝室に。

そんな時に出会ったこの家は、まさにSさんの理想通り。剥き出しの天井や合板の壁も、好きな時に手を加えればいい、失敗しても受け入れてくれるような寛容な空間に映ったとのことでした。

取捨選択を自分で

このプロジェクトでは、toolboxが専用の内装メニューカタログをご用意していました。カタログには、toolboxで販売している素材以外にも、収納や壁といったアイデアを工事の金額と共に明示しました。そのため、設計や工事のプロが不在でもコストとイメージを見比べながらやりたい工事の内容をシュミレーションすることが可能でした。

そして、Sさんがご自身でコーディネートした理想の内装がこちら!

Sさんが理想の内装づくりの際に描いたスケッチ。

自分たちの暮らしをイメージしてカタログの中から選んだ、寝室の位置や空間の仕切り方、収納の量とその方法、使用する素材やパーツが細かに設定されています。

正直なところ、サービスを提供した僕らの方が驚くほど、Sさんなりの生活のあり方がしっかりと設計できていました。しかもこの図が登場するまで僕らとの打ち合わせはゼロ!間仕切りのないまっさらな平面と、内装メニューカタログだけでここまでできてしまいました。

最終確認は現地で

初回の打合せで既に工事の内容とコストが決定していたため、その後の打合せは内容の確認に十分時間を費やすことができました。

初回の打合せではtoolboxのショールームにて内容の確認と、使用する素材の確認を。2回目の打合せでは現地でのサイズ感の確認や色決め。3回目は現地でのDIY部分のレクチャーと最終確認、そしてご契約。計3回の打合せでしたが、確認にあてる時間を多く取れたこともあってか、Sさんも十分ご満足いただけたとのことでした。

初回打合せで既に工事内容が確定しているので、あとは素材や寸法の確認をするだけ。

自分で編集した家

予算調整等もあり、Sさんの考えた初回の理想図に少々の変更を加えて、最終的な工事内容は以下の通り。DIYも取り入れて、簡単な取り付けや塗装はご自身で行っていただくことが決まりました。

ただこれが初回の打合せで確定してしまったわけで、通常のフローで考えると信じられないスピード感です。

赤字部分に工事を入れ、青部分をDIYする選択をされました。

カスタマイズの内容は以下。

1Fの玄関横スペースは、木製ガラス窓を付けた間仕切り壁を設け寝室に。寝室内にはオープンクローゼットを。1Fの広いスペースはオープンスペースとして残して多目的なスペースに。引戸付のクローゼットを設けてストックに。なお、玄関には足場板で作ったオープンな靴置きとしましした。

2Fの小部屋スペースはリビングを見渡せるオープンな書斎スペースに。壁面いっぱいの本棚を作って飾りを兼ねています。キッチンの背面にはカウンター収納を設置。お子さんの遊び場兼アクセントとしてハンモックも吊るしました。

駐車場としても利用ができた外部のスペースは、ライフスタイルを振り返って車よりもお庭を優先され、木製のフェンスで囲いました。ご自身で芝を植えられ、プライベートなスペースとなりました。

自分が必要とする機能と素材を、自分でインプットする。

自分で決める住まいづくり

自分で内装を編集することで、理想とする暮らしに近づけることができる。何事もそうですが、自分で判断し決断をしたものには納得感があります。

住まい方や暮らし方は実に十人十色。人にとっての不自由は、自分にとって何ら問題ないなんてことはよくあります。何を大事にするかの優先順位は、実際に暮らす人にしかわかりません。

また、この度このしくみをご活用いただいたSさんは、自分たちの暮らし方、あり方が非常に整理されていたことが印象的です。

自分は何を大事にするのか、その優先度の整理ができていたから、決断に迷いがなかったのだと感じました。

イメージした見た目と使い勝手が、必要な箇所に望んだ内容の通り実現させたい。

シンプルで簡単なことのように思えますが、建築工事というものは非常に複雑で、一般の方には馴染みがないこともあって理解しづらい。toolboxはその間に立って、自分なりの決断をしやすくするサポートをしたいと思っています。

最後に、奥様が自分で取り付けをされた真鍮のペーパーホルダーを指して、「今はピカピカの真鍮とともに、これから一緒に育っていこうと思います」と言った言葉が忘れられません。

今回のしくみはまだまだ実験的なものですが、今後より多くの方にご利用いただけるようにと考えています。

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toolboxが企画から協力する戸建て販売プロジェクト。内装をカタログから選んで自分好みにつくる事ができます。

株式会社リビタ

「くらし、生活をリノベーションする」をコンセプトに、既存建物の改修・再生を手がける会社として設立。
「次の不動産の常識をつくり続ける」を経営ビジョンに掲げ、一棟、一戸単位のマンションや戸建てのリノベーション分譲事業やリノベーションコンサルティング事業、シェア型賃貸住宅や商業施設の企画・運営、PM・サブリース事業、ホテル事業を手がけています。

株式会社スピーク

不動産のセレクトショップ「東京R不動産」を運営。
建築・不動産の開発・再生プロデュース、建築・インテリアの設計・デザインも行っています。

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