10周年を迎えたtoolboxを支えてくれている職人さんたち。センス溢れる職人さんたちは、どんなこだわりをもって道具を選んでいるのか。

前編に続き、今回は4人の職人さんの愛用の道具を紹介していきます。今回は、電気職人、家具職人、ガーデンプランナー、左官職人の4名が登場です。

TOOL04「人力で鋼管を曲げるためのワイルドツール、ハイヒッキー」

toolboxの照明などの商品写真には、鋼製配管と呼ばれる金属製の電線管で配線を施した事例写真が多くあります。それらの写真をみたお客様から、よく質問をいただくことがあります。

「この配管部分も売っていますか??」

残念ながら、答えは「NO」。

なぜなら、配管は現場で柱や壁の形状に合わせて1本1本曲げていく必要があるので、あらかじめ曲げてある鋼製配管は売っていないんです。

鋼製配管を曲げるためにはハイヒッキーと呼ばれる道具を使用します。なんと人力で、固い鋼製配管を曲げていくのです。

柔軟なヒザ使いがポイント。テコの原理で力を掛け曲げていきます。

toolboxがよく電気仕事をお願いする見田諭さんは、鋼製配管を施工するのがとても上手。

電気工事をする日の朝に現場で集合して、実際の壁や天井を一緒に見ながら、どのように配管を巡らせていくのか、15分程度でパパッと打ち合わせ。

その後は壁や天井の形状に合わせて、配管を切ったり曲げたりしながらあっという間に配線工事を完成させていきます。

見田さんの使い慣れたハイヒッキーは、社長が現役時代に使っていた、年季ある道具。今も昔も変わらない方法で配管を曲げていきます。

昔は鋼製配管をできる電気屋さんがたくさんいたけれど、最近は樹脂製の配管が多く、鋼製配管を施工できる電気屋さんは少なくなってきているんだとか。

ちょっと無骨なテイストがワイルドでかっこいい鋼製配管。実はそれを人力で曲げていく職人さんとその道具たちも、とてもワイルドでかっこいいのです。

[電気職人]見田諭

好きな差し入れ:コンビニの淹れたてホットコーヒー「やっぱこれです」

TOOL05「庭づくりには欠かせない、小ぶりの片手鍬(かたてぐわ)」

造園・外構業を主とし、フランスのアンティーク家具・雑貨を販売するショップ「BROCANTE(ブロカント)」と造園スタッフが常駐して、庭の楽しみが広がる商品の販売をしているショップ「seeding」の運営を行う有限会社ブロカント。そこの若い女性スタッフ、三次真綾(みつぎまあや)さん。

造園業というと、鯉が泳ぐ日本庭園で凛々しい松があるお庭をつくる力仕事というイメージがあるかもしれませんが、テイストも多種多様。ブロカントは、住宅同様、お客様の生活や好みのテイストに合わせた、日々のテイストに馴染む庭づくりを目指しています。toolboxの「ウッドフェンス」の施工パートナーでもあります。

横浜・都筑のオフィスのお庭にて 右から三次さんとボスの松田さん。

三次さんは、暮らしに関わること、生活必需品ではなくても、それがあることで暮らしが楽しくなるような仕事をしたいと、新卒で男性が多い造園業の世界に飛び込みました。

ボスの松田さんはじめ、スタッフの先輩たちがみんなやさしい目をしていて、「植物に触れているからなのかな?こんな大人になりたいな」と思ったのだとか。

三次さんは、2021年時点で、入社5年目。お庭のデザイン、提案から、実際に現場で職人さんたちをとりまとめる現場監督として一緒に作業することもあれば、週に1回は自由が丘の店舗に立ち接客をする日々を過ごしています。

そんな三次さんの愛用の道具は、「小ぶりの片手鍬(かわてぐわ)」。堅い土を掘る際に便利なアイテムです。

ホームセンターで見かけるのは、全長で1M以上あるような、大きく振りかざして使うサイズ感のものですが、三次さんには重過ぎて自由に使いこなせないと、小さいものを探し求めたそう。

小ぶりながら、地面に深く張った雑草を根から撤去したり、砂利などの堅いものが混じった土でも簡単に掘り進めることができます。

お庭の施工事例。

現在のお仕事は、個人邸8割、店舗2割。お庭のサイズも、小さいものから大きなものまで、バラバラ。

三次さんが得意とするのは、ちょっとラフな雰囲気の親しみやすいお庭。ただ見て楽しむだけでなく、花が咲いたらそれを乾燥させてお茶としても楽しめますよと教えてくれたり、植物がある暮らしの提案をしてくれます。

アケビのカゴに剪定はさみを入れて。ブーツは、ブランドストーンを愛用。

愛用の道具や身に付けているものたちは、家でも使いやすそうで、どこで買えるんですか?と、思わずマネしたくなるものばかり。日々植物に触れ、その魅力を語る三次さんのまなざしが、かつて彼女が憧れた会社の先輩たち同様、すごく優しい雰囲気なのが印象的でした。

[ガーデンプランナー]ブロカント 三次真綾

好きな差し入れ:フルーツジュース「頂くことは少ないのですが、作業後には必ず飲んでいることに気付きました…」

HP:https://brocante-jp.biz/
Seeding:https://seeding.tokyo/

TOOL06「豊富なバリエーションをトランスフォーム、ミルウォーキーの工具セット」

木の手摺」や「造り付け本棚」などの制作パートナーである家具職人の瀬尾洋介さん。東京・戸越に拠点を構え、工房の他に、「瀬尾商店」という雑貨屋を経営しています。

愛用しているのは、真っ赤なボディが目印の「Milwaukee(ミルウォーキー)」の工具セット。工具の入るコンテナ、ビスなどが細かく入るパーツケースから、充電器パーツ、掃除機パーツ、ライトパーツなど、バリエーション豊かで、専用キャスターに載せてタワーのように組み上げて収納・移動できるのが特徴です。

全部積み上げゴロゴロ移動。スロープもすいすい。

造作家具屋さんは、工房である程度カタチにした造作家具を、現場に持ち込み、現場に合わせた加工をしつつ取り付けるのが、一般的な仕事の流れ。

「造り付け本棚」を取り付けているところ。

ただ造作家具の取り付けだけなく、タイルを貼ったり、建具を取り付けたりと、他の仕事を一緒に受けることの多いマルチな瀬尾さん。世界各地のホームセンター巡りが大好きな道具マニアでもあります。その日の現場ごとに、それぞれの作業に必要な道具を詰み出動することが多いのです。

そんな時に、大活躍なのが、この道具の入れ替えがしやすいコンテナタワー。工房から道具を積んで出発!バラして車に詰め込み、現場へ移動。

愛車に積載した様子。ぴったり納まり気持ちよい!

赤いミルウォーキーの工具セットたちは、現場でも目立ちます。持っていくと注目を集め、他の職人さんたちも興味津々。道具愛が高まり、このミルウォーキーを大量に仕入れ、回りのプロたちに売ってあげる機会も増えているのだとか。

自分で職人として現場で使ってるからこそ、レビューも適切。楽しそうに各パーツの説明をしてくれた瀬尾さんは、自慢のおもちゃを紹介する少年のようにキラキラしていました。

[家具職人]瀬尾洋介

好きな差し入れ:セブンのコーヒー「缶より淹れたてが好き」

TOOL07「音楽・電話もこれ一台、現場のお供なハンズフリースピーカー」

横浜の山手の奥、周囲には米軍住宅の残るようなエリアに、自らも左官職人として手を動かし、工務店の代表もつとめるT-plaster 水口泰基(みなくちたいき)さんの拠点があります。

水口さんは、元々空間をトータルでつくる仕事がしたいという思いがありましたが、仕事としてはじめに目をつけたのが左官職人でした。

伊豆の長八など、エリア的に左官が有名な静岡県三島出身。

おじいさんも左官職人で、その仕事ぶりを見て育ったバックグラウンドもありつつ、「部屋の中で一番面積を占める壁や天井を、クロスや板仕上げと違って、お客さんごとに違う表現ができる。なり手が少ない中、センス一つで上り詰めていける。一番、職人としての個性をだしてアウトプットができるから」と左官の道を選んだ思いを教えてくれました。

壁とカウンターの左官仕事、古材のバランスがかっこいいバーの施工事例。

その後、工務店として成長を遂げ、左官と古材をふんだんに使った味のある空間を手掛けたり、モールテックスというベルギーの左官塗料の技術講師をしたり、自社で物件を仕込んで運営している「レインボー倉庫」というクリエイターのためのシェアオフィスを複数拠点運営していたりと、活動の幅を広げています。

そんな、水口さんの愛用の道具は、「BOSEのハンズフリースピーカー」。

左官の道具とかも、考えたけど、とにかくいろんなことをやってるし、一番いつも一緒にいるのはこいつだと、まさかのスピーカーをあげてくれました。

工房にて。出番を待つ古建具のストックがずらり。

充電式で防じん防水仕様、木屑などが飛び散る現場へも携帯可能。iphoneと接続すれば、音楽やラジオを聞くのはもちろん、電話としても機能するので、作業しながら手を止めずスタッフと会話をすることができます。一番電話の音がいいと、これを愛用しているそう。

T-plasterのスタッフは、現在16人。スタッフはじめ、取引先、お客様、日々いろんな人とのコミュニケーションをとるのに、このスピーカーが役立っています。

工房の上にあるシェアスペースの一角でワークショップをやっている様子。

職人さんって、自分で磨いた技は商売敵に気軽に教えないという勝手なイメージがあったんですが、水口さんは、ワークショップをやってプロの仲間にもその得意な技を惜しみなく広めています。

「職人の地位を上げる。仲間との関係性を強める」という強い思いを持ち、そんな人が選ぶ道具がこのコミュニケーション取るスピーカーというのがとても印象的でした。

[左官職人]T-plaster 水口泰基

好きな差し入れ:美味しいブラックコーヒー「スタッフには、ブラックとだけ指定して何をもらえるかで人間性みてます(笑)」

HP:https://t-plaster.com/
Onlineshop:https://store.t-plaster.com/

取材を終えて

取材を進める中で、最初に愛用の道具について話しを聞いたのは、各職人さんのこだわりやスタンスを知るきっかけとして一番分かりやすいかなと思ったから。

愛着のあるこだわりの道具たちは、職人さんたちの手に馴染むだけでなくテンションもあげてくれる存在だと、取材を通してひしひしと感じました。

次回は、「アジト探訪編」と「生態編」が続きます。今回改めて、普段は聞けないような面白い話、それぞれのこだわりを聞くことができ、これは、ぜひみなさんにも知っていただきたい!と、コラムを分けてご紹介することに。「道具編」に登場した職人さんたちの、お仕事事情やプライベート事情を深堀します。お楽しみに。

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見田諭 (有限会社本間電気)

toolbox工事でお世話になっている電気職人さん。
露出配管をきれいにおさめてくれるリノベーション工事の頼れるパートナー。

「スイッチ交換ひとつから、電気工事にお困りの際は、お気軽にご相談ください。」
mitatake※me.com  ※を@マークに変えてメールにてお問い合わせください

BROCANTE | ブロカント

外構造園業を主とし、庭にまつわる商品や植物を販売するショップの運営、およびwebメディア「seeding」で生活の中で植物への親しみをより一層感じていただけるような情報を発信中。
東京・自由が丘のショップでは、年に数回、フランスへ渡り家具や雑貨を買い付け、アンティークに加え、シーズンに合わせたインポート雑貨も取り揃えています。

瀬尾商店

toolboxの初期から活動を共にしてくれている造作家具屋さん。
家具が専門でありながら、リフォーム・リノベーションなど何でもオールマイティにこなしてくれる頼れる存在。
戸越では「瀬尾商店」という名の雑貨も買えるオーダー家具店を営んでいます。

T-PLASTER | 有限会社ティープラスター

「made with soul.」をコンセプトに、“素材へのこだわり”、“ずっと大切に使えるモノづくり”、“世代を超えて過ごせる空間づくり”を通じて、自然を守ることと、モノのあり方を追求したサスティナブルな暮らしを作る工務店。
古材や素材の良さを活かしたリノベーションをはじめ、無垢材家具の製作、美しさと環境への配慮を両立させたレジンプロダクトの製作、オンラインストア販売などを行っています。