SPIN-OFF第2弾は、建築家の造作木製サッシの商品化
建築家住宅でときどき見かける、佇まいの美しい木製サッシ。その雰囲気を、室内用のインナーサッシ=二重窓というかたちで叶えるのが『木製インナーサッシ』です。
断熱や防音を目的とした機能重視の二重窓は、すでに広く普及しています。けれど私たちが目指したのは、性能以上に「窓辺で心地よく過ごしたくなるか」ということ。
こだわった内装や家具の背景となるような、サッシそのものの佇まいの良さ。手に触れた時のやわらかな無垢の木の質感。寒さを和らげ、窓の近くにいたくなる。
そんな窓辺のあり方を変えてくれる存在を目指しました。
木製サッシは本来、設計士が詳細な図面を引き、信頼できる建具屋に依頼してつくるもの。その分、予算も時間もかかり、建築家に依頼しない限り手に入りにくい存在でした。それが今回、WEBからオーダーできるようになりました。
開発のきっかけは、2022年秋に始動した「SPIN-OFFプロジェクト」。建築家が設計した家から生まれた「誰かのためのデザイン」を、商品として広く届けたいという試みです。『天井スリットファン』に続く、第2弾となります。
アイデアを応募いただいたのは、東京を拠点に活動する建築家の清水忠昭さん。
実は、「天井スリットファン」と同じタイミングで応募していただいていたのですが、発売まで3年もの月日がかかりました。今回共同開発を担当したtoolboxの椎野将志とともに、その奮闘の日々を振り返ります。
当初の応募アイデアは「木製網戸」。コロナ禍での打ち合わせスタート
SPIN-OFF プロジェクトの応募アイデアを拝見して、はじめて清水さんに会いにいったのが、2022年の12月7日。いまから約3年前です。
当初応募いただいた「木製網戸」が納められている、ご自身で設計された都内の新築戸建てのご自宅を訪問しました。
テラスに面した、水平のラインが美しいガラスの開口部。その内側に取り付けられているのが、今回応募いただいた「木製網戸」です。外部サッシの内側に設置することで、外部用のサッシを隠しつつ、意匠的にも美しい佇まいに。木の四角いフレームが、さりげないアクセントになっています。
- 清水忠昭さん(以下、清水さん)
-
独立前に設計事務所に勤めていた時から、toolboxのサイトは見ていて存在は知っていました。「SPIN-OFF」は、Instagramで応募の情報を見かけたのがきっかけです。
僕、“納まり”が大好きなんです。全体を見るより、細部を追いかける方が性に合っている。商品開発にも興味があったので、「何か応募してみようかな」と思いました。
日々、各住宅メーカーの建材カタログを見ていると、住宅業界にはまだ掘れる余地があると感じています。選択肢を増やすことで、建築業界全体がもっとよくなるのでは、という思いもありました。
- 清水さん
-
前の設計事務所でも、よく手がけていました。ただ、網戸を木で組むこと自体は、他の建築家の方も個別にやっていることだと思います。
網戸は、外部サッシの外側に設置されるのが一般的。でも、それだと建物を外から見た時に格好悪いよね。というのが、前の事務所の当たり前の共通認識でした。
- 清水さん
-
「木製網戸」は、やってみたいと思っても、サッシと枠の取り合いが複雑で、経験がないと図面を引いて建具屋さんに発注するのが難しいアイテムです。
大手メーカーがあまり手を出さない、少し難しくて、でもニーズがありそうという点が、このアイデアを応募しようと思ったポイントです。
網戸からインナーサッシへラインナップを拡大。既存サッシの対応検証
toolboxのお客様には、リノベーションに取り組む方が多くいらっしゃいます。特に中古マンションでは、外部サッシが共用部扱いとなるケースが多く、気に入らなくても手を加えられないことが少なくありません。
この木サッシなら、そこにアプローチできるかも⋯⋯商品開発担当の椎野は、「木製網戸」のアイデアを見た時から、そんなことを考えていました。
- 椎野
-
最初の打ち合わせで、「木製網戸」だけだと間口が狭いので、「木製サッシ」もやりませんか?と、こちらから提案しました。率直にどう思われましたか?
- 清水さん
-
正直、「本当に売れるのかな?」とは思いました(笑)。ガラスが入ると価格も上がりますし、安い方が買いやすい。ただ、網戸1枚だけを選ぶ人がどれほどいるのかと考えると、同じシリーズでガラスと網戸の両方がある方が、選択肢は広がると感じました。
現在の家が完成するまでマンションに仮住まいをしていた時期があって。アルミサッシは寒く、どこか殺風景。だからこそ、リノベーションの際に内側に木サッシを付けるイメージが自然と浮かびました。
そこからは、木製のインナーサッシと網戸の2種類で商品化する前提で、世の中にあふれる既存サッシの研究が始まりました。
掃き出し窓、腰窓、出窓、一部FIX窓のあるパターンなど、メーカーごとに幅も形状もさまざまです。ただ、売り方はできるだけシンプルにしたい。オンラインでサイズを入力し、塗装を選ぶだけ。その仕組みを成立させるため、椎野の試行錯誤が続きます。
- 椎野
-
室内の間仕切りとして使うことを想定した『木製ガラス引き戸』は枠なし販売ですが、窓辺の「インナーサッシ」として展開するなら、枠は同じ樹種で、セットで用意した方がいいと考えました。
枠無し、枠有り、4方枠・3方枠のセット売り、ばら売りなど、さまざまなケースに対応できるようにしています。
- 清水さん
-
不特定多数の現場に入ることを想定しました。建築家の現場なら枠なしで納めることも多いですが、リノベーションの現場では壁の不陸も出やすい。枠がセットになっていれば、よりきれいに納まるだろうと考え、ディテールを詰めていきました。
- 清水さん
-
前の事務所では、「木製網戸」を設計する際の共通の納まりルールはありましたが、框のサイズは案件ごとに担当者が決めていました。樹種も、案件のテイストに合わせてさまざまです。
以前試した“100mm”という幅は、少し太い印象があった。そこで、自宅を設計する際は、どれくらいまで細くできるかを工務店、建具屋さんと相談して。
とはいえ、細くしすぎると反りやすくなる。70mm前後が安全な数字というところから、最終的に65mmにしました。
- 椎野
-
この寸法決めについては、本当に清水さんの経験に委ねました。僕も前職は設計事務所でしたが、インナーサッシを設計する経験は多くなかった。もし一人で進めていたら、踏ん切りがつかず、開発にもっと時間がかかっていたと思います。
試験導入として、いくつかの現場に採用してもらいましたが、太すぎず、細すぎず、それでいて存在感がある。この見付寸法は、本当に絶妙だったと思います。
- 椎野
-
横桟を入れれば、ガラスのサイズが小さくなって価格を抑えられるというメリットはありました。ただ、今回は見た目のすっきりさを優先しました。
試験導入では、さまざまな形状の窓に取り付けさせてもらいましたが、特に印象的だったのが、都心の高速道路沿いにある、大きめワンルームの部屋でした。
- 椎野
-
太めの横桟が入った、年季のあるアルミサッシで、バルコニーも室外機や給湯器のためにあるような、決して気持ちのいい窓辺とは言えない場所でした。
写真だけを見ると、「既存サッシが隠れていない」と感じるかもしれません。でも、存在感のある木サッシが内と外の境界をつくることで、既存のアルミサッシは室外機などと同じ“外側のもの”として意識が切り替わる。
一方で、「木製インナーサッシ」はフローリングやお気に入りの家具の延長線上にある、“自分の家側のもの”。その感覚が、とてもよかったんです。
- 清水さん
-
手掛けは、表に出ると意匠のポイントになりすぎてしまう。そこで、側面に小さな金物を掘り込み、必要最低限の仕様にしました。
断熱性能を最優先したプロダクトではありませんが、できる限り気密性を高めつつ、見た目の良さも保ちたい。上部にはLアングルをできる限り横幅いっぱいに通して、気密性を確保しながら、側面からの見た目も整えています。戸車も静音タイプを選ぶなど、細かな部分まで気を配りました。
タイミングよく二重窓を検討されていた、TBK(ツールボックス工事班)のお客様宅に試験導入した際には、サーモカメラで、どれくらい断熱効果があるのかを検証しました。
無垢の木は樹脂サッシよりも熱を通しにくく、ガラスもシングルながら一層重なる状態。果たして結果は⋯⋯。
設置前の状態では、サーモカメラの画像で室内側と窓の色が違い、温度差がありました。設置後は室内と窓の色が変わらないという結果に。実際、設置前と比べると、窓全体の温度差が明らかに小さくなっていました。
冬場の窓枠って冷たくて、極力触れたくないものですが、木枠は触れても冷たくない!「ヒヤッとすることなく、心地いい」。これなら、窓辺に長居する場をつくってもいいなと、暮らしのレイアウトも変わってくる。その変化は、数字以上に大きな意味があります。
カタチにしてくれるのは、信頼できる建具パートナー
今回、制作パートナーとなってくれたのが、『木製ガラス引き戸』の開発パートナーでもある建具屋さん。夫婦で職人さんを抱え、工場を切り盛りしています。
- 建具屋さん
-
注文が増えた時に、パンクせず、それでいてちゃんと丈夫なつくりであるように意識しました。
例えば、見た目がシンプルな框のサッシでも、工場によって納め方が違います。大きく分けて3パターンくらいは、やり方があると思う。特殊な納め方をせず、うちの工場でなくても、誰でも出来るようにしようと思いました。
コーナー部の納め方を、「すっきり納まり」にするか「かんたん納まり」にするか。建具屋さんは、当初の発言の通り、誰でもつくれるを優先して「かんたん納まり」を提案してくれましたが、材による色の個体差が目立つ懸念も。ここは、清水さんが、強い意思で「すっきり納まり」に。
建具屋さんの方でも、見えない箇所の納め方を工夫し、何人かの職人で試して、これなら誰でもつくれるというやり方をみつけてくれました。
ヒノキは色が乗りづらいは、業界の常識。ヒノキとの対話がはじまる
今回、「木製インナーサッシ」に採用したのは、国産のヒノキ材。「ヒノキ」は、昔から建築家の名建築にも建具として使われてきた良い材ではありますが、油分が多くて塗装がのりづらい材でもあります。
実は、元々は違う輸入材を選定して進めていたのですが、戦争の影響で供給が不安定に。別の材を選んでも、1年後にその材があるかも読めないこのご時世。国産材でいかせて欲しいという、建具屋さんからの提案でした。
ウッドショックからの、輸入材の供給の不安定さについて、「先代の時は近所の材料しかなかった。そこから、外国のいろんな木が入ってきて、最近また国産材に戻ってきてる。ぐるっと回っている感じはしますね」と話していたのが印象的でした。
材料を仕入れている倉庫にも同行して、材を選ぶところを見せてもらいました。ここは、ヒノキと杉だけの特化した倉庫です。
建具屋さんレベルになると、見た目でこれは重い、これは軽いと、わかるそう。なんとなく、いい材=どっしり重いイメージでしたが、建具で使うには、節がないものが軽くて良い材なのだとか。
- 建具屋さん
-
少し節がある、色が違うといった欠点のある材料も、うまく使っていきたい。貴重な材だから、余すところなく使いたいんだよね。
- 椎野
-
『ヒノキ卓』とか、他の商品で、ヒノキに色が乗りづらいというのは経験済みだったので、塗装屋さんにアドバイスを求めたり。本当にあらゆる木部用塗料を取り寄せて試しましたね。
もうヒノキとの対話の世界。
- 清水さん
-
いい材ではあるのですが、雰囲気が黄色っぽくなるなという懸念はありましたね。前の事務所でも、ヒノキは着色に向かない。使うなら「クリア」のみ、という認識でした。
あと、toolboxは、ラワンの商品が多いので、赤ラワンっぽい色がなくていいのかな?とは思いました。ただ、椎野さんが、それだとヒノキっぽさがなくなると。
- 椎野
-
塗りつぶして濃い色にするのは、ヒノキである意味がなくなる。木目とかは感じられるよう、染色はするけど、ヒノキのポテンシャルは残したいと思って。とにかく色々試しましたね。
同じ材でも、サンプルで小さなパーツを塗ってみているのと、本番用に2m弱の長物を塗るのでは、ムラの出方、見え方も異なります。
toolbox側で試してよかった塗料と色の組み合わせを決めて、工場でも試してもらったら、ものすごく色ムラが出て、サンプルでうまくいったのは、たまたまだったというようなことも。
その後、建具屋さんの方でも、膨大な量のサンプルを、塗り方含め、あらゆることを試してくれました。
- 建具屋さん
-
仲間のところに、ハーゲンダッツを手土産に持っていって話を聞いたりしました。
答えは出なくても、「なんで木に色がつくのか。木の繊維の中に染み込むのと、上に乗るのがある」とか、一緒に考えてくれて、ペーパーの当て方も変えてみたり。
一度表面にベルトサンダーをかけて着色したら、キレイに色が入り過ぎて、木目シートみたいになったり。
もうヒノキ研究所だなと。23年やってきたけど、知らないことってまだまだある。
夜な夜な、いろいろな方法を試しました。途中の失敗の過程をSNSに載せたら、みんなも色々な失敗を経験していて、こっそりアドバイスをくれたり。SNSは、自慢話、手柄話じゃなくて、みんなと痛みを分け合うのにもいいんだなと(笑)。
最終的に行き着いたのが、ある木部用塗料で、一度クリアを塗ってから、次に着色用の色を塗っていくという方法。2回目、3回目と塗る色を変える、塗り方も工夫することで、ヒノキ特有の黄色っぽさを抑えた理想の色に行き着きました。
- 椎野
-
もう、本当に最後の方は色々試し過ぎて、自分でも何がいいのかよく分からなくなっている状態でした(苦笑)。
ただ、最終的に決めた色をみて、建具屋さんが「血色がよい、でも見たことのない、ヒノキの風合いになったね」と言ってくれて。求めていた、ヒノキらしさは残しつつ、使いやすい色が出せたと思っています。
無垢材である以上、木目の個体差は避けられませんし、製材した材をサイズオーダーに合わせてカットし、組み上げ、塗装は最後の仕上げ。そこでムラが出れば、すべてが台無しです。
材の選定の時から気を使い、木目をみて、表裏を見極めながら組み上げる。塗装を施し、丁寧に梱包して出荷します。
精度の高い技術はもちろんのこと、無垢の材を扱うということ、ヒノキという樹種に敬意を持って接して、その良さを損なわず、カタチにする。
他の商品にも共通することですが、今回あらためて工場に何度も足を運び、デザイナーの意図を汲み取り、カタチにする職人たちの心意気を実感しました。
- 建具屋さん
-
椎野さんは、探求心がすごい。あの情熱がなかったら、こっちも途中で諦めてやってなかった。最後は、椎野さんを納得させようという一心だったかな。
そして、清水さんも、ぶれない!最後まで、椎野さんの好きでいいよとならなかった。
途中、ヒノキという難しい材料に変更したので、全員が納得いくところまで持っていけたのはよかったです。
- 椎野
-
いやーもう、そこは本当に、お2人の協力あってこそですね。
開発期間が長くかかりすぎて、清水さんとは、移動中とか含め、すごい色々話す仲になりましたね。他の案件の相談もしたり。
- 清水さん
-
正面からみて、四角い木が組んであるだけのようなシンプルな見た目。手掛けも側面にあって、他の風景を邪魔しないような建具になっていると思います。
ぜひ、他の設計者の方の手掛ける現場にも採用してもらって、建築家に家を頼むと、こんないい家が出来るんだという、選択肢が広がるきっかけになると嬉しいです。
清水さんの「建築家に家を頼むポテンシャルを知って欲しい」という言葉。「天井スリットファン」の生みの親である堀部アソシエイツの堀部さんもインタビューの中で同じようなことをおっしゃっていたのが印象的でした。
3年に渡る開発期間を経ての商品化。今回は、建築家の清水さん、建具屋さん夫婦が、「無垢の木材」という個体差がある自然素材に対して、1本ずつ、安定して供給できるよう寄り添ってくれ、完成に辿り着くことが出来ました。
「木製インナーサッシ」は、窓辺との距離を近くする、窓辺に居心地のよい空間をつくりたくなる商品です。全国で、色々な窓辺の新しい風景、居場所が生み出されることを楽しみにしています!
関連記事
清水忠昭一級建築士事務所
東京都杉並区を拠点に活動している設計事務所です。
「家づくりは自分や家族と向き合う大切な時間です。その時間を一緒に楽しみましょう!」