「見せる、つくる、暮らす」を叶えるリノベーション
「一目見て、この棚にダルマを並べたい!と思ったんです」そう話すのは、日本のダルマに独自の視点を加えて、アート作品を生み出している、フランス出身の日本在住アーティスト・JUJUさん。
これまで有名ファッションブランドのディスプレイを生業にしてきたJUJUさんの美的感覚と、フランス人として日本を見る視点、過去を大切にする価値観が合わさって生まれた空間は、素材や新旧が混ざり合った目新しさがありました。
「作品や材料が本当にたくさんあって家が手狭になってきたので、アトリエとして使えるスペースを探していました。この空間は広さは十分にあるから、今はアトリエに加えてショールームとしても使えるし、将来夫婦で住むアパートとしても使えると思いました」
二人で暮らすにも十分な面積を備えた築50年のマンションは、下階に玄関がある約74㎡のメゾネット住戸。東京の街を一望できる、開けた眺望が魅力です。
メインとなるショールーム兼リビングは、障子や縁側といった和室の要素と、ファイバーパテで仕上げたリノベーションならではの質感の床、カラフルなダルマアートと、新しい素材と色が絶妙なバランスでミックス。
「とにかく収納とディスプレイのスペースが欲しかった」というJUJUさん。素材は混ざりつつも落ち着いたトーンでまとめられた空間に、カラフルなアートがびっちりと飾られています。
アールがかった右手の棚は、代表的な作品であるダルマアートのサイズに合わせて、JUJUさん自らスケッチして造作。カラフルなダルマが良いバランスで配置された、ポップで楽しげな一角です。
アトリエとリビングを仕切る壁にも、ダルマアートが並びます。既存の壁仕上げを剥がして出てきた間柱に棚板をつけたシンプルな棚は、既存の間柱がダルマのサイズにぴったりで、「完璧」というほどJUJUさんのお気に入り。
「物件を探していた時に見た物件にこういう棚があって、『ここにダルマを並べたい!』と直感的に思い実現しました。実用的でシンプルなんだけど、素材感が残っていて、そこがすごく気に入っています」
二面の大きな窓と、アートが並ぶ象徴的な二面の壁。全方位から刺激を感じるリビングルームになりました。
モノとシティから刺激を浴びる
「特にアトリエで作業しているときは気持ちがいい」と話すJUJUさん。
「私は刺激がないとインスピレーションが湧かないんです。もちろん、ひとりで創作するのは好きですけど、同時に刺激が必要。だからこのアトリエが大好きなんです。一人だけど、窓から街の景色が見えて、エネルギーや生活感を感じられる。それが私のものたちを通して伝わってくるんですよね」
インスピレーションを感じたものをとにかく収集しているため、アトリエには和紙からお菓子のパッケージ、カプセルトイまで様々なものが集まっています。中でもカラフルでポップなデザインが好み。アトリエのデスクは、カラフルな小さい置物やキャラクターものが集まっていて、どこか子ども部屋のような雰囲気もあります。
どうやって材料を選んでいるのか聞いてみると「選んではいないんです」とJUJUさん。「『こうしたい!』という明確なイメージを最初から持っているタイプではなくて、どちらかというと、布や和紙、オブジェ、ステッカーなどを見て、そこからインスピレーションを得る感じ。本当に何でも作品に取り込んでしまうんです。和紙ひとつとっても、季節やお店によって変わるし、常に新しい色や素材があって、選択肢は無限。だから大変だけど飽きないし、私はこの活動が大好きなんです」
アトリエの壁には、可動棚と和紙がかけられるラックを取り付け、フロートタイプの収納も造作。既存の押入れも材料の収納として活用しています。
たくさんの材料が一同に集まるアトリエは、これまでJUJUさんが感じてきた刺激の宝庫なのでした。
そうして生まれた作品たちは、リビング以外にも至る所にディスプレイされています。ホールには、額やボックスの作品がずらり。アトリエを訪れて階段を上がると、カラフルでポップ、だけど少し懐かしい、JUJUさん独特の世界観に一気に引き込まれます。
「エントランスは、面積は小さいけど展示にすごく使える。最初に人が見る場所だし、すごく気に入っています」
正面と右側の壁はJUJUさんのアイデアで、画鋲で刺せるようにコルクシート仕上げに。ホワイト拭き取り塗装で、カラフルなアートを引き立てる上品な仕上がりになりました。
残すことで美しくできるもの
ダルマを飾った間柱現しの棚の参考にしたのは、ツールボックス工事班が手掛けたリノベーション物件「studyroom#1」でした。「studyroom#1」は、既存の内装を極力壊さず“素材”として活かした、実験的リノベーションプロジェクト。間柱現しの棚は、視覚的に抜けをつくりつつも、床・天井は壊さない方法を模索して生まれたアイデアでした。
「ただベニヤ板を一枚剥がしただけで、美しいディスプレイが完成する。わざわざ何かをつくる必要なんてない。もともとここにあったものが、もうすでに素敵なんです」
そんな既存のつくりを素材として活かしたリノベーションのアプローチに共感したJUJUさん。ツールボックス工事班をパートナーに、既存内装のどこを活かすか、意見を交わしながらリノベーションを進めていきました。
リノベーション前は綺麗な状況ではあるけれど、フェイク素材が多用されていて、「仕上げは全部やり直す必要がある」と思っていたJUJUさん。ですが、一部の建材には可能性を見出していました。
浴室は、「フランスの祖父母の家のバスルームと似たものを感じた」という既存のバスタブを活かして、白タイルにオレンジの目地を合わせて印象をアップデート。
白いタイルは、何種類もある中から苦労して選びました。「私、本当に選ぶのが苦手で、提案があればあるほど悩んでしまいます。形や質感で迷いましたが、最終的にはシンプルに、全部白、同じサイズ・同じ色に統一しました。結果的にすごく満足しています」
いつか使ってみたかったというオレンジ色の目地が合わさり、実家のお風呂を思い出すような色のバスタブとケロリンの桶という“ザ・昭和”っぽい要素が、不思議とJUJUさんらしいスタイルにまとまっています。
「昭和のスタイルって、フランスの60年代・70年代のスタイルとすごく似ているんですよ。祖父母の家とか、家具のデザインとか、けっこう共通点が多くて。60年代のフランスって、どこもタイルがたくさん使われていたんです。トイレも、バスルームも、キッチンも全部。だから、日本の昭和の家に懐かしさを感じるのかもしれません」
既存のキッチンは、1970年代から製造され続けてきた、タカラスタンダードのシステムキッチン「エマーユ」でした。この独特な扉を気に入り、キッチン本体はそのまま残すことに。カップボードは、ラワンの造作棚に、エマーユの面材を取り入れる形でリメイクしました。
「私はピンクが特に好きなわけじゃないんですが、このピンクは特別な感じがしたんですよね。 素材も面白くて、なんか残したくなった。残しておく価値があると感じました」
「私は、過去の要素を残すことがすごく大事だと思っています。私たちは過去から学べることがたくさんあるし、そこに何かをプラスしていくこともできる。たとえばキッチンの扉を見て『このデザインいいね』とか、そうやって受け止める。古いからと丸ごと捨てて新しいものを買うのではなくて、むしろ“残して、再利用する”ことに価値があると思います」
ツールボックス工事班とのコミュニケーションにおいてキーワードになったのは「mottainai」という言葉。それは環境保護的な側面だけではなく、捨てることでこの世から価値が消えてしまうことへの「もったいない」なのだと感じます。バスタブもキッチンも、住宅が新しくなっていくにつれて古いからと捨てられていけば、いずれ存在しなくなってしまう。
「残すことで美しくできるものって、たくさんあると思うんです。でもみんながその可能性を見ているわけではない。だから壊してしまう人も多い。職業柄、私はそれを見つけることに長けているのかもしれません。例えば、普通の人なら『これはもうダメだな、終わりだ』って思うような、何もない場所があったとして、でもそこにタイルとかオレンジ色の目地とか、そういう要素が入ると、突然その空間が輝きを持つようになるんですよ」
惚れ込んだダルマに、自分の感性をのせて
自分の目でモノの価値を見つめて、新しい価値を生み出していくJUJUさんのアトリエづくり。日本の素材に、自分の感性を加えてアートを生み出していくアーティストとしての姿勢と重なります。
代表的な作品は、目を瞑ったカラフルなダルマアートです。日本に来てからダルマの形や、“幸運”や“忍耐”といった意味合いに魅せられつつも、厳格な表情が自分には少し厳しすぎると感じて、自分のためのダルマを生み出すようになったといいます。
「私の作品のダルマの意味合いは、日本のダルマと変わりません。ただ、「やりなさい!」みたいに強く言われるのはあまり好きじゃなくて。時に守り、時に導いてくれるような母のような優しさが見た目にあったらいいなと思ったんです。閉じた目は瞑想、まつ毛は、私が以前の仕事(ファッション業界)で扱っていた要素でもありますが、ファッション的なポジティブな気持ちや美しさ。でもあくまでまつ毛は私のサイン的な要素で、伝統への敬意は忘れずにいたいと思っています」
他にも、懐かしいアニメキャラクターや大手コンビニのロゴ、お菓子のパッケージ、はたまたカップラーメンの空き容器など、日本のあらゆるところで目にする日常的なものたちをモチーフにアート作品を生み出しています。
「フランスにいてもあまりインスピレーションは湧かないんですが、日本にいると「これつくろう!」って、すごくアイデアが浮かぶんです。日本に住んでいるあなたとは感覚が違うかもしれません。私自身は12年も日本に住んでいますが、それでも日本のパッケージデザインにはいまだにすごく刺激を受けるんです。『わあ、かわいい!』と思って、色を組み合わせたり、いろんなものを集めたり」
過去を受け止めて、今をつくる
JUJUさんがほぼ全てといって良いほど、自分の作品に日本のエッセンスを取り込んでいるのはなぜか。そこには、JUJUさんの過去の記憶に結びついた“懐かしさ”がありました。
「私たちが子どもだった頃、フランスの子ども向けテレビ番組はすべて日本のアニメでした。だから実際、私の世代のフランスの子どもたちはみんな日本のアニメで育ったんですよ。『シティーハンター』とか、『アタックNo.1』、『キャプテン翼』とか観ていましたし、すごく有名でした。だから、初めて日本に来た時も、すでに日本を知っていた感覚だったんです。サンリオのばつ丸くんが好きで、グッズを集めたりもしていました。私の両親はホテルを経営していて、日本人のお客さんが多かったことも影響しているかもしれませんね。とにかく、子どもの頃は常に日本が身近にあったんです」
フランス人から見た日本という新鮮な目線だけではなく、幼少期から日本に慣れ親しんだ目線をもつJUJUさん。日本に暮らしながら、懐かしさと新しさの両方を日々感じています。
「私がつくるものがミックススタイルになるのは、そんな幼少期の記憶からきているかもしれませんね。過去はとても大切なものです。私たち自身“過去”によって形づくられている存在じゃないですか。だから、過去と現在をミックスする。そしてそこから生まれる“新しさ”が本当の意味での“今”なんじゃないかなって思うんです」
過去の記憶を通して見極めた価値に、自分の感性や新しいアイデアをフュージョンさせる、JUJUさんのアプローチ。だからこそ、長く愛されてきたものが消えていく現状には心を傷めています。
「日本に住んでいて、都市開発のために古民家がどんどん壊されていくのを見るのは本当に悲しいです。日本は私の国ではないけれど、それでも守りたいと思ってしまいます」
瀬戸内海に浮かぶアートの島・直島で、古民家をリノベーションして宿を2棟運営しているJUJUさん。自分の軸で価値があるものを見極めて、可能性を見出し、消えないように守っていく。ダルマアートに込めた芯の強さと優しさを、JUJUさん本人からもひしひしと感じるのでした。
フランス人で、アーティスト。自分とは遠い存在の空間づくりのように聞こえるかもしれませんが、自分の目で価値を見極めること、自分の記憶に向き合うこと。自分らしい家づくりのヒントが、JUJUさんの力強い言葉に詰まっているような気がします。
そんな彼女の審美眼が存分に発揮された空間づくりのプロセスはこちらの記事からご覧いただけます。
ツールボックス工事班|TBK
toolboxの設計施工チーム。住宅のリフォーム・リノベーションを専門に、オフィスや賃貸案件も手がけています。ご予算や目的に応じ、既存や素材をうまく活かしたご提案が特徴です。
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