古いものを活かして新しい空間をつくるアプローチに惹かれた

一杉:
アトリエ兼住居として使う物件を探していた時、最初からリノベーションすることは前提にしていたんですか?

JUJUさん:
もちろん!リノベーションをしたいと思っていました。

私は直島で2軒の宿の運営もしていて、そこも民家をリノベーションしたものだし、パリに住んでいた時も、手を加える必要がある物件に好んで住んでいました。

最初から完成されたものを手に入れるより、自分の好みに合わせてつくっていきたい。その過程を含めて好きなんです。

ダルマを使ったアートやコラージュ作品などを制作しているJUJUさん。今回構えたアトリエ兼住居の近くに、ご家族と暮らす家があります。

矢板:
studyroom#1』は、「東京R不動産」で販売物件として紹介されていたのを見つけてくれたんですよね。

JUJUさん:
不動産サイトを見るのが好きでよく見ていて、中でも「東京R不動産」は日常的にチェックしていました。日本の家はフェイク素材が使われていたりして、私の好みとは違うことが多いんだけど、『studyroom#1』の写真を見た時は驚きました。よくある日本のマンションの部屋と全然違うし、かといってアメリカンだとかヨーロッパテイストなインテリアというわけでもない。どんなスタイルにも当てはまらない雰囲気が気になって、これは見に行かなきゃ!って。

実際の空間を見てすごく気に入ったけど、私にはちょっと狭くて。そうしたら、同じマンションでより広い部屋が売りに出ていることを知ったんです。ただ、広さは十分だったけど、内装は好みじゃなかった。『studyroom#1』をとても気に入っていたので、同じようなリノベーションができないかな?と思って、toolboxに問い合わせしました。

JUJUさんとの「ReMake」な空間づくりのきっかけになった『 studyroom#1』。(撮影:中村晃)

矢板:
JUJUさんは『studyroom#1』のどこが気に入ったんですか?

JUJUさん:
日本では、魅力的な古い家があっても、壊されて、どこにでもあるような味気のない家が新しく建てられる。そういうのを見ると、悲しい気持ちになります。

でも、『studyroom#1』は違いました。もともとの空間の活かせるところは残して、新しい要素を加えてつくっていくやり方。そのアプローチに惹かれたんです。

夫のマークもそれには共感してくれて、今回のアトリエ兼住居づくりは、私に任せてくれました。

JUJUさんのアトリエ兼住居づくりを担当したツールボックス工事班の矢板(左)と一杉。

その時代ならではの特徴や面白さを、壊してしまうのはもったいない

一杉:
JUJUさんは、日本の昭和レトロなパッケージデザインを使った作品を作ったりもしているけど、日本の古いものに惹かれ始めたきっかけはあったんですか?

JUJUさん:
夫の仕事の関係で日本に住み始め、日本各地や東京の街を巡るようになってから、少しずつ興味が深まっていきました。その時代ならではの特徴であったり、面白さがあるものだったら、壊してしまうのはもったいないなと思うんです。

古いと言ってもヴィンテージにこだわりがあるわけではなく、どの時代のスタイルにも良い点があると思っていて。特に惹かれるのは、日本の1960年代のデザイン。

一杉:
東京オリンピックの開催とか新幹線の開通とか、日本が高度経済成長のさなかにあった時代ですね。偶然だけど、今回JUJUさんとリノベーションしたこのマンションも、1960年代に建てられた建物。

JUJUさん:
フランスのものについても、1960年代や1970年代のデザインに興味を持つことが多くて。だからかな、日本の同年代のものにも惹かれやすいみたい。

ホールには日本生まれのものたちを素材にしたコラージュ作品がずらり。北斎に鉄腕アトムにコンビニのロゴも!

一杉:
とはいえ、「古いもの全部をそのまま活かしたい」というわけではありませんでしたね。以前も聞いているけれど、今回リノベーションした部屋については、JUJUさんはどんなところを活かしたいと思ったんですか?

JUJUさん:
まずはキッチン。特にピンクが好きというわけじゃないんだけど、このキッチンのピンクは特別感を覚えたの。ディテールもかわいくて、活かしたいと思いました。

一杉:
1970年代から製造され続けてきた、タカラスタンダードのシステムキッチン「エマーユ」ね。先日、ついに製造終了しちゃったんだよね……悲しい。「あっ、コレが気に入るんだ!?」ってびっくりしたけど、僕ら的にもこのキッチンのデザインはいいと思っていたから、その感覚が共有できたことは、心理的距離が縮むきっかけになりました。

JUJUさんも工事班も「これは活かしたい」という気持ちが一致したレトロなシステムキッチン。

JUJUさん:
あと、ピーコックグリーンのバスタブも気に入っていたアイテム。この部屋のバスルームを見て思い出したのは、フランスの祖父母の家のバスルーム。イエローのバスタブに、ブルーのタイル、ブラックのタイルも使われていました。当時の流行りだったんでしょうね、そのポップな雰囲気が好きだったんです。この浴槽を活かして、祖父母の家のバスルームの雰囲気を取り入れたいと思ったんです。

一杉:
『studyroom#1』を一緒に見た時も、JUJUさんは、和室の折り上げ天井が良いとか、間柱現しの壁が良いとか、既存を活かしたアレンジを気に入ってくれていましたよね。

ゼロからつくるのではなく、すでにあるものに手を加えて変える「ReMake」という手法は、「ダルマ」という既存のフォーマットに手を加えて新しいものにする、JUJUさんの作品づくりにも通じるなと思ったんです。そういう共通点があったことも、JUJUさんが『studyroom#1』に惹かれた理由の一つだったのかも。

『studyroom#1』を見てJUJUさんが取り入れたいと思っていた間柱現し壁には、ダルマアートを陳列。

アイデアを出し合いながら、「思い描く空間」をつくり上げていった

矢板:
空間づくりを進めていく中で、大変だったことはありますか?

JUJUさん:
ツールボックス工事班が最初にプランを提案してくれた時、どのプランも良くて、「この人たちと一緒にやれば絶対にうまくいく」と思いました。ただ、私は本当に「選ぶ」のが苦手で……。「こうしたい」はあるんだけど、決断するのに時間がかかるというか……。

一杉:タイル選びで苦戦してましたよね。

JUJUさん:
そう、タイル選びは大変だった!白いタイルを使おうとは決めたものの、白いタイルって、いっぱいあるんですよね(笑)。サイズ、形、質感も色々あって、すごく迷いました。

リノベーション中の思い出話に花が咲く。

一杉:
最終的に選んだのは、艶ありの白タイル。滑りやすいけれど、「それでもいい」ということで、これに決まりました。JUJUさんが希望したオレンジ色の目地も、水がかからない場所用のものだけど、水が直接かかった場合に色落ちするかもしれないリスクや、防カビ剤が入っていないことを理解してもらった上で、採用することにしました。

JUJUさん:
直島の宿をリノベーションする時も、オレンジの目地材を使いたかったんです。でも、工務店に採用できないと言われてしまって……。今回、工事班に「やってみましょう」と言ってもらえてすごく嬉しかった。

ピーコックグリーンのバスタブとオレンジ目地の組み合わせが鮮やか。ケロリンの風呂桶も効いてる。

矢板:
そういうアイデアは、どうやって閃くんですか?

JUJUさん:
よく見ているのはPinterest。すごくインスピレーションが刺激されます。あと、いろんなところに行って、建物やものを観察するのが好きですね。東京の建築って、よく見るとすごくスタイルが豊かで、いろんなアイデアが浮かんできます。

一杉:
IKEAのアイテムもよくチェックしてましたよね。洗面台やダイニングの収納に取り付けた取っ手は、JUJUさんが見つけてきてくれたIKEAのもの。「フェイク素材が好きじゃない」と言っていたから、自然素材とかにこだわりがあるのかと思ったけど、そういうわけでもなくて。

「◯◯テイスト」と呼べるようなものを目指しているわけじゃないし、「こんな空間がいい」というJUJUさんの中のイメージを具現化していく作業が必要だったから、「こういう素材は?」「こういうパーツがあったんだけどどうかな?」と、提案し合いながら、一緒に探っていきました。

JUJUさんも、僕らも、既存のものに自分の感性を加えてアレンジしていくのが好きなんだと思います。

洗面台の把手は、JUJUさんが見つけてきたIKEAの白い把手を塗装。

ピーコックグリーンに塗ったのは一杉のアイデア。

JUJUさん:
大変だったことじゃないけど、内部にベッドが収納されている小上がりは、つくりたいなと思っていたけれど諦めたんですよね。アーティストの友人のスタジオで、デスクの下にベッドが収納されるようになっていて、そのアイデアが気に入って。今でも「やりたかったな」と思うけど、良い感じのソファベッドを見つけたのでOKです(笑)。

一杉:
当初はそれを反映した小上がり付きのプランもあったんだけど、予算の制約もあったから、何を優先するか調整していく中で、なくなったんですよね……。どんな空間づくりでもそうだけど、やりたいことと予算とのバランスを取るのが、大変でした。

土間床も、コスト調整の面で試行錯誤した箇所。既存の床仕上げを撤去して出てきたコンクリート床をそのまま活かすのが、「ReMake」というテーマ的にもコスト的にも合理的だと思っていたけど、出てきた床が荒すぎて……。出てきた床の表情を活かしながら、コストもかかりすぎないやり方を塗装職人さんと思案して、行き着いたのが下地調整材のファイバーパテで仕上げるという方法。これは、JUJUさんの要望がなければ出てこなかったアイデアでした。

間柱現し壁に取り付けたラワンの腰壁も、付ける・付けないについてJUJUさんとずいぶん話し合った箇所。

矢板:
JUJUさんと僕らツールボックス工事班、それぞれのやりたい表現を、突きつけ合いながらつくっていった感じですよね。

今回のJUJUさんとのプロジェクトでは、一杉が間取りやデザインを決定する監督的な役割で、僕が取りまとめと進行管理の役割、という形で進めていきました。JUJUさんもクリエイターだから、JUJUさんと一杉、それぞれのつくり手としての意図や感性を踏まえながらまとめていくのは正直、大変でした(笑)。

でも、だからこそ、僕らだけでは辿り着けない空間が出来上がったと思います。

一杉:
細かな部分の感覚の違いを感じることもあったけど、アイデアを出し合って一緒に考えてつくれたのは良かったし、僕らも楽しかったよね。

お互いの「感性」と「アイデア」を重ね合わせて出来上がった空間

矢板:
出来上がったアトリエ兼住居に対しての感想を聞かせてください。

JUJUさん:
今回のリノベーションでは、昭和と現代、日本的な感覚とフランス的感覚のフュージョンがすごく面白かった。私は、スタイルや文化を融合させたものが好きなんです。

一番好きな場所は、バスルーム!ショールーム兼リビングも、気に入っています。私は以前、シャネルでビジュアル・マーチャンダイザーをしていたから、見せ方にはこだわりがあるんです。ここに訪れた人が最初に見る空間であるホールも、展示のしがいがある場所になりました。コルクの壁の質感も好きですね。

JUJUさんの作品と「ReMake」がフュージョンした空間。

一杉:
ここだけの話、「こうしておけばよかったな」と思うところはあったりする……?

JUJUさん:
もっと壁をつくっておけばよかったなぁ、と思うことはあります。作品を飾る場所はとにかくたくさん欲しいから。でも、本当に必要だと思ったら、工事班に相談して、今後もチューニングしていけばいいし。予算次第だとは、思うけど(笑)。

一杉:
お互い母国語ではない英語でのやりとりだったから、細かなニュアンスまで表現しきれなかったし、救いきれていない要望もきっとあったと思う。そこはちょっと悔しい。

JUJUさん:
でも私は、工事班とのコミュニケーションはとてもよかったと思ってますよ。

私も英語は完璧ではないし、日本語はほとんど話せない。だから直島で宿をリノベーションする時は、工務店の人とやりとりをするたびに、日本語がわかるマークに通訳してもらう必要がありました。でもマークも忙しいし、建築に詳しいわけでもないから、やりたいことを伝えるのが難しくて。

それが、今回は、私が直接工事班とやりとりして、空間づくりを進めることができた。とてもやりやすかったし、自分のプロジェクトとして自分でやり切れたこともすごく嬉しかった。

フランスと日本だとリノベーションの進め方も違うところが多いのだけど、工事班とのやりとりはとてもスムーズで、まるでフランス人と一緒に仕事をしているようでした。みなさんとてもフレンドリーで、ユーモアのセンスもあって、楽しくプロジェクトができました。

「ツールボックス工事班はみんなフレンドリーで“お堅くない”のが良かった」とJUJUさん。

一杉:
今回は、実際の空間を見ながらどこをどうするか話し合って決めていくスタイルだったから、それも良かったんだと思います。実物を見ながら、こっち?どっち?と確認し合って、感覚的なところを共有していくことができた。これが、「ReMake」な空間づくりの醍醐味なのかもな、と思いながら取り組みました。

JUJUさん:
日本でリノベーションをする時、「こういうことをやってみたい」とアイデアを出しても、工務店に「できません」と返答されて終わり、ということも多かった。

でも、工事班はアイデアを伝えると、「やってみましょうか」と言ってくれるし、何か問題や課題が出てきた時も、「どうします?」じゃなくて「こうすればできます」と、何かしらの解決策を提示してくれました。それがすごく心強くて、自分で考えて空間づくりをする楽しみを感じられました。

一杉:
JUJUさんは、「あなたはどう思う?」「あなたはどうしたい?」と度々聞いてくれましたよね。つくり手としてリスペクトしてくれていることを感じて嬉しかったし、光栄に思いました。

JUJUさん:
誰かとプロジェクトをする時、私はいつも「あなたはどう思う?」と意見を聞くようにしているんです。自分が正しいかどうかを確認するためでもあるし、プロの意見があると、視野が広がるから。ツールボックス工事班とは、とても良い関係性が築けたと思います。

一杉:
僕らも、JUJUさんからアイデアをたくさんもらえました。一緒にリノベーションができて、とても楽しかったです。アフターリフォームの必要があれば、またお声がけください!

最後にみんなで記念撮影!

入居後の詳しい様子とJUJUさんの暮らしぶりは、近日公開予定の「マイホームインタビュー」でレポート!そちらもぜひ、ご覧ください。

それではまたいつか、どこかの現場でお会いしましょう。

ツールボックス工事班|TBK

toolboxの設計施工チーム。

住宅のリフォーム・リノベーションを専門に、オフィスや賃貸案件も手がけています。
ご予算や目的に応じ、既存や素材をうまく活かしたご提案が特徴です。

 

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※毎週水曜日の13時から15時まで、東京・目白ショールームに施工チームがいます。工事に関するご相談も承っておりますので、この時間もご活用ください。

“アーティストの感性”と“既存を活かすリノベ”が融合してできた、アトリエ兼住居
“アーティストの感性”と“既存を活かすリノベ”が融合してできた、アトリエ兼住居
フランス人アーティストのJUJUさんとツールボックス工事班による、築57年のマンションを舞台にした「ReMake」な空間づくり。既存内装を“素材”として活かしながら、JUJUさんの感性によるアレンジを加えてつくり上げた空間を、工事班・一杉がレポートします。
テキスト:サトウ