「studyroom#1のようなリノベーションがしたいんです」
「ReMake」をテーマに掲げ、既存の内装を極力壊さず、手を加えることで空間を変える。そんな実験的リノベーションに挑んだ『studyroom#1』。背景にあったのは、昨今のマンション価格の高騰と、リフォーム済み物件やリノベーション済み物件の流通の増加。すべてを壊してつくり変えるフルリノベーションではない、新たな手法を探るべく取り組んだプロジェクトでした。
その完成から数ヶ月後、ツールボックス工事班の元に、一通のメールが届きました。
「studyroom#1と同じような方向性でリノベーションしたいんです」
連絡をくれたのは、日本在住のフランス人アーティスト、JUJUさん。フランス人のご主人と子供たちと暮らす自宅にアトリエを構えて創作活動をしているけれど、「作業するスペースも、作品を展示するスペースも足りない。アトリエ兼ショールームとして使いつつ、将来的には住居としても使える場所が欲しい」ということで、物件を探していたそう。
東京R不動産に掲載されていた『studyroom#1』の物件情報を見て、実際に内見。内装は気に入ったけれど、希望よりもちょっと狭かったので、同じマンションのより広い部屋を買ってリノベーションしたいというお話しでした。
『studyroom#1』を気に入ってくれたんだ!といううれしさと同時に、浮かんできたのはいくばくかの不安。
『studyroom#1』は自社購入物件での実験だったから我々TBKの意向だけでつくれたけれど、「お客さんの物件」となると、「こんな間取りがいい」とか「こういう機能が欲しい」とか「こういう素材を使いたい」とか、住まい手側の叶えたいことがある。それと「ReMake」というテーマを両立できるのか?どこまで「studyroom#1と同じようにしたい」のか……?
さらにJUJUさんが普段使っているのはフランス語で、日本語はほとんど話せず、英語が少々とのこと。言葉の壁がある中で、しっかりと相互理解をしながら空間づくりを進められるのか?という不安もありました。
とはいえ、まずは詳しく聞いてみないと、ということで、「自宅のアトリエを見に来て欲しい」というJUJUさんのお誘いもあり、JUJUさんのご自宅へ伺いました。
ちょっとした緊張感を抱きつつの訪問だったものの、気づけば「家のこと」以外の話で盛り上がっていました。
「ダルマ」を題材にしたアートを作ったり、日本の昭和レトロなものを収集しては、それらを素材にした作品づくりもしているJUJUさん。家の中は自身の作品やコレクションだらけで、「これ好きなんだね」「このパッケージかわいいよね!」「こんなものも集めてるの?」などとやりとりしているうちに、「外国の方」という壁はすっかり消え去り、「JUJUさんをもっと知りたい、一緒にものづくりをしてみたい」という気持ちが生まれていました。
何を残す?どう活かす?相互理解を深めたキーワードは“mottainai”
そうして、JUJUさんとツールボックス工事班のコラボレーションによる空間づくりがスタート。
JUJUさんご夫妻が購入した物件は、『studyroom#1』の舞台にもなった築57年のマンション。約74㎡の2DK、下階に玄関があって上階に居室があるメゾネットタイプの住戸でした。
この部屋をリノベーションするにあたっての、JUJUさんの主な希望は以下。
・アトリエ兼ショールームとして使いたい。
・寝泊まりできるようにしたい。将来的には住居としても使う想定。
・アトリエ部分は仕切りたい。
・ベッドルームはリビング兼用でいい。
・収納と飾れる場所がたくさん欲しい。
・昭和デザインのものを活かしたい。
・素材は自分でも選びたい。
アトリエ兼ショールームを持つのはJUJUさんにとって初めてのこと。さらに生活機能も持たせたい、ということで、各要素のボリュームのバランスや、どういった動線で繋ぐかについては、JUJUさん自身もビジョンが見えていなかったので、プラン案を見せながらディスカッションを重ねて、決めていきました。
最終的には、現状の間取りは活かしながら、制作と素材ストックの場としてのアトリエ、リビングと寝室を兼ねるショールーム、ゲストと歓談できるダイニング、キッチン、ギャラリーも兼ねるホール、という必要要素を当てはめていくという方向に定まりました。
間取りを大きく変えるとなると、壁を壊すことになり、付随して床や天井も壊す必要が出てくる。そうすると、新たな造作や仕上げが必要になって、壊す分のコストも新しくつくる分のコストもかかってくる。すべてを壊してつくり変えるのではないリノベーションのあり方を提案する「ReMake」な空間づくりでは、既存の「間取り」をどう活かすかも肝心!なのです。
「既存内装のどこを活かす」は、実際に現地で空間を見ながら話し合っていきました。
「昭和デザイン好き」を自称するJUJUさん。既存の内装に使われていた障子やガラス入りの木製建具は、「活かしたい」というご要望。一方、フカフカのクッションフロアやペカペカの木目調シートについて、「フェイク素材は好きじゃない」とのこと。そうした感覚や「残すべき」と思う要素たちを確認することは、お互いの価値観を理解していく上で重要なステップでした。
なかでもJUJUさんが気に入ったのが、ピンク色のシステムキッチン。40年以上の歴史を持つロングセラーキッチンで、「実家のキッチンがこれだった!」という人も多いのではないでしょうか。 また、ピーコックグリーンのバスタブもJUJUさんの琴線に触れた箇所。障子やガラス入りの木製建具、キッチンやバスタブなど、JUJUさんの心に響いた要素は、できる限り活かす方向で計画を進めることになりました。
どこまで「studyroom#1と同じようにしたい」のかも、JUJUさんに確認したかったポイント。
JUJUさんの思い描いている空間イメージを掴むために、「studyroom#1のどこが好き?どこは好きじゃない?」を聞いてみると、「間柱を現しにした壁や、土間、タイル使い、障子や和を感じる天井も好き。コンクリートの躯体現しは、面積が多すぎるのはあまり好きじゃない」とのこと。
「新しいものと既存のもの、端正なところとラフなところ。そのバランス感がよかった」と話すJUJUさん。実際、『studyroom#1』をつくっている時は、その点にも気を配っていたので、こだわりどころを汲み取ってもらえたことが、とても嬉しかった。
そんなふうにJUJUさんとやりとりを進める中で、出てきたのが「mottainai」という言葉。
『studyroom#1』のテーマや意図を説明する中で僕が発したその言葉に、JUJUさんが「Exactly, mottainai!(そうそう、もったいない!)」と食いついてくれて、見た目の好みだけの話じゃなく、「ReMake」のテーマそのものに共感してもらえているんだ、と実感できた瞬間でした。
「mottainai」は、その後のやりとりでも度々登場する、重要なキーワードになりました。かといって、JUJUさんも全部をリユースしたいわけじゃない。残すことが合理的な部分と、機能の面でしっかり更新したいところを見極めながら、プランニングを進めていきました。
現場でセッションを重ねて進めた、施主とプロが一緒に考える空間づくり
スケルトンからつくり直すリノベーションであれば、打ち合わせのメインは、平面図やイメージパースをもとにしたプラン検討になるでしょう。けれど今回は、「既存を活かし、手を加えて変えるリノベーション」。
『studyroom#1』の時もそうでしたが、「これは残そう」「ここはこう変えよう」と決めても、解体してみて初めて「こうなってたか!」と分かることもある。JUJUさんはマスタープランの決定後も、度々現場に足を運んでくれて、現場の状態を見ながら「どうするか」を一緒に考えていきました。
通常の案件ではここまで頻繁にお施主さんに現場に来てもらうことはないけれど、「ReMake」というアプローチにおいては、このやり方が合理的だったなと思います。たまたまJUJUさんが現場の近くに住んでいて、来やすかったということも大きいけれど。
現場で一緒に決めていったことのひとつは、ショールーム兼リビングの天井の仕上げ。
『studyroom#1』でも挑戦した、「既存天井の真ん中だけ切り抜いて、折り上げ天井にする」リメイクを採用しようとなり、天井を切り欠いてみたら、出てきたのは躯体とモルタル仕上げのツートーン天井。どうやら、かつてここは2部屋に分かれていて、部屋ごとに天井仕上げが違っていた模様。
僕ら工事班的には「これはこれで、活かしても面白いのでは?」と思ったけど、「端正さとラフさのバランス」にこだわるJUJUさんは、「うーん、ちょっと……」なリアクション。いろんなやり方を話し合ったけど、最終的にはモルタル部分をはつって、躯体を見せることに着地しました。
床も、解体して出てきた既存の状態を見てから、話し合いを重ねた部分。
『studyroom#1』の土間をJUJUさんが気に入っていたこともあって、アトリエとショールーム兼リビングの床は、既存フローリングを下地ごと撤去して、コンクリート床を出すことにしました。が、出てきたコンクリート床の表情が、思っていた以上に粗い!!
ReMakeな空間づくりの“既存を活かす”というコンセプト的には、そのままで空間を使えると合理的。しかしこの状態は、僕らとしても粗すぎる。さて、どうする?
土間にはしたい。じゃあ上からモルタルを打ち直す?でも凸凹がすごいから、しっかり厚めにモルタルを打つ必要がある。そうすると、工期が伸びるしコストもかかる。予算内に収まるように色々工夫してきたのに、それはなぁ……。ということで、とにかくひたすら研磨してみたり。
だけどもなかなか粗さが払拭できない。
そこで、『studyroom#1』で行った「既存フローリングを塗りつぶしてリメイク」に、一緒に挑戦してくれた塗装職人さんに相談。「凸凹を多少吸収しつつ、割れも起きにくい下地調整材を塗る」というアイデアに辿り着き、それを実行することにしました。果たしてどんな仕上がりになるのか。
一方で、解体したら出てきたものが想像していたよりも良くて、「活かそう」となったケースもあります。
階段とホールの壁は、元々の躯体壁にペンキが塗られていて、その上にさらにクロスが貼られているという状態。クロスを剥がしていったら、かつてのペンキが絶妙に残って、なかなか味わいのある表情が現れました。「かっこいい壁が出てきたよ!」とJUJUさんに見せたら、「Good!」の回答。「これは好きでしょ」と思ってた(ニヤリ)。
その後はクロスの下のペンキを“剥がしすぎないように”気をつけながら、スクレイパーを使って地道にクロス剥がしをしていきました。
「ReMake」な空間づくりでは、剥がし方や壊し方も、“仕上げ”なのです。
JUJUさん的には「そのままでもいい」けど、僕たち工事班的には「どうにかしたい」というところもありました。それは、浴室の中に備え付けられていた洗面台。
ユニットバスが普及する以前の古い時代のマンションでは、在来工法でつくられた浴室の中に洗面器が設けられたスタイルがよく見られました。1967年築のこのマンションも、かつてはそうした様式だったのでしょう。その後のリフォームで、収納付きの洗面台に交換されていました。
壁と床は、既存のタイルの上に新たなタイルを“増し貼り”してリメイクすることが決定。洗面台について、JUJUさんは「収納たっぷりだし、このままでもOK!」というけれど、僕はこのシステム洗面台の唐突感が、どうにも受け入れられず……。
既存の洗面台を活かしたまま空間との一体感をつくり出す方法を考えて、「既存の洗面台にも壁と床と同じタイルを貼る」というリメイクを提案。JUJUさんの「Good!」がもらえたので、洗面台も手を加えることにしました。
手を動かしながら、活かし方を考える。対話しながら、つくり方を考えていく。自社物件である『 studyroom#1』では、それを職人さんたちと一緒にやっていったけど、今回はそこに施主であるJUJUさんもジョイン。お互いの感性や、イメージする仕上がり、実現するための手法を探り合いながら、3者でプロジェクトを進めていきました。
それは、今そこにあるものから考えていく「ReMake」な空間づくりならではのセッションで、僕ら工事班にとっても、とても刺激的な体験でした。
次回は、完成したJUJUさんのアトリエ兼住居をレポートします!
ツールボックス工事班|TBK
toolboxの設計施工チーム。
住宅のリフォーム・リノベーションを専門に、オフィスや賃貸案件も手がけています。
ご予算や目的に応じ、既存や素材をうまく活かしたご提案が特徴です。
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※毎週水曜日の13時から15時まで、東京・目白ショールームに施工チームがいます。工事に関するご相談も承っておりますので、この時間もご活用ください。