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100%の理想通りに固執しない。ハプニングさえもを楽しむ家づくり

toolboxの商品をお使いいただいた事例写真を、
壁に“ピンナップ”していくようにご紹介します。

2020.10.09
インタビュー

100%の理想通りに固執しない。ハプニングさえもを楽しむ家づくり

長屋を改装した温室のような店舗兼住居。ベテラン大工さんと自身のDIY施工による、ハプニングもポジティブに受け入れる家づくりの過程を取材してきました。

スカイツリーが出来て、駅前の雰囲気は新しくなったものの、まだ所々に下町の雰囲気が残る、東京・京島。そんな京島のまちを歩いていると、長屋の一部にアバンギャルドなガラス張りのファサードが突如現れます。

ここで住居兼グリーンのリースショップを営む、小川武さんにお話を聞いてきました。

photo:Masanori Kaneshita
以前から京島に住み、古家を友人たちとシェアして、改造しながら住んでいたという小川さん。その家が道路拡張に伴い取り壊しとなるというタイミングで、同じ大家さんから相談を受けたのが、この長屋でした。4軒のうち、真ん中の2軒が空き家に。両サイドの店があるので取り壊しもできず、長年放置されていました。


before:表からは分かりづらいが、4軒のうち真ん中の2軒は、室内の奥はほぼ朽ちているような状態だった
ちょうど、10年勤めた会社を退職しようかと悩んでいたタイミングでのこの話。小川さんはこの場所を改装し、ご実家の家業であったグリーンのリースショップの東京支店という形で、京島のまちに拠点を構えることを決意します。

美大出身の元プロダクトデザイナーで、空間デザインへの造詣は深かった小川さん。学生時代からボロアパートを改装して住んでいたりと、DIY経験も豊富でしたが、今回は自分でイメージをつくり、知り合いの建築士に構造計算を依頼。店舗部分は家具職人と、住居部分は地元のベテラン大工をパートナーに迎え、自身が施主であり、デザイナー、現場監督、施工スタッフも兼ねる、一人4役で家づくりが始まりました。

取材に応じてくれた小川武さん

脱・暗い長屋。とにかく明るい家を求めて

ファサードは南西向きなものの、奥に長い長屋であるため、暗いことがネックでした。これまでもずっと暗い家に住んできたという小川さんの、明るい家への憧れは人一倍。グリーンを扱う場所になることも踏まえ、考え出した改装のテーマは、「温室」。奥まで光を届けるため、透明な材で建物を仕切ることを決め、改装に着手していきます。

下町に突如現れる映画のロケセットのような外観
外観は、2軒分の古い外壁を取り壊し、実家で約40年間使われていなかった温室のフレームパーツを再利用して、ガラス張りに。ガラスは一枠一枠、コーキングして自分たちではめ込みました。

古い町並みに馴染むよう、フレームパーツに付いていたサビはわざとそのままにしたそう。エイジングされた華奢なフレームがいい具合です。

photo:Masanori Kaneshita
室内に入ると、グリーンが生き生きと葉を広げる気持ちのよい空間が広がっています。
店舗部分は開放的な2層分の吹き抜け空間にし、5mはあるという背の高い椰子の木を始め、季節ごとのグリーンが生い茂っています。ガラス張りの外観から一日中日差しが注ぎ込む、まさに温室のような空間に。

そして、この光をさらに奥の住居空間に送り届けるために、小川さんは、半透明の材で室内の空間を仕切ることを思い立ちます。選ばれたのは、屋根材として流通している折板材。これを1階と2階をつなぐ吹き抜け沿いの壁として立ち上げることにしました。

photo:Masanori Kaneshita
店舗から住居部分への入口は、折板の扉をガレージ扉のように跳ね上げる仕様。正面がダイニングキッチン。奥に、洗面とお風呂があり、裏の勝手口につながっています。

before(左)同じ角度で撮った店舗から住居部分をみたところ(右)住居側から店舗側を見たところ

江戸っ子気質なベテラン大工さんとの共同作業

今回の施工パートナーは、大家さんが紹介してくれたベテランの大工さん。「図面なんていらねぇ、その場で直していくんでぇ」という江戸っ子気質ゆえ、小川さんは現場に張り付き、基本はその場で指示をしながら一緒に手を動かすことにしました。

半透明の折板壁の奥の住居空間は、後からビスを打ったり塗装をしたりと、手を加えやすいように、ラーチ合板でベースの壁をつくり、ところどころに「見せ場」をつくっていくという方針に。

2F部分。友達を呼んでくつろいだりする、リビング的なスペース
ただ、小川さんも毎日現場に朝から晩まで張り付けるわけでもなく。ちょっと現場に行く頻度が落ちると、せっかちな大工さんがよかれと思って、施主である小川さんの確認を取らず、勝手に進めてしまう事態が多々発生。

さらに、仕上げの材料は小川さんが決めたいのに、決めるのに時間がかかっていると、江戸っ子気質な大工さんが、親切心から自分がいいと思った材料をどんどん調達してきてしまうのです。

そうして現場では、予想外の事態が次々起こっていくものの、それを解決するための掛け合いも楽しんでいくという、寛容な家づくりスタイルが出来上がっていきました。


基本的に、「見せ場」とする場所の仕上げや設備機器は、小川さんが選んで施主支給。キッチンカウンターの奥には、壁付けの『ミニマルキッチン』がすっきり浮いています。

最初のハプニングが起こったのは、このキッチン取付け時でした。

収納も脚も付いてないキッチンを初めて見たという大工さん。こういうものだと説明しても理解されず、キッチンの下部にものすごい頑丈な木の補強材が追加され、全く違う見た目のものになっていたのだとか。(『ミニマルキッチン』は、壁の下地に付属のブラケットで固定していただければ大丈夫です。ご安心を)

結果、キッチン周りの壁仕上げは、あとからDIYでやり直し。壁一面をクリーム色の左官で仕上げています。

photo:Masanori Kaneshita
奥の洗面は、小川さんチョイスで、キッチンと合わせて『ミニマルシンク』を。ラフな雰囲気に似合う、ステンレスのタフガイです。
水栓は『ニッケルサテン水栓』。端材で浅い棚を付けて小物置きにしています。


トイレの壁は、腰高までを『レトロエイジタイル』のブルーで貼り上げました。

photo:Masanori Kaneshita
このタイルのサイズに合わせて、細長いシンクを現場で造作。タイルと一体になったデザインがかっこいい。狭いスペースにもジャストフィットしています。このシンクは、小川さんのアイデアを元に、店舗部分を担当した家具職人さんが作ってくれたのだとか。

そして、このトイレでも大工さんの親切心によるハプニングが発生。

左官で仕上げられたトイレのドア
ある日現場に来たら、toolboxから選ぼうと思いつつまだ決めていなかったトイレの扉が、大手メーカーのシート張りのものになっていたのです。

「え、なんでこれつけちゃったの…」と、普通はここで一悶着ありそうなところですが、今回は、小川さんは施主であるけれど現場監督でもあります。モノが決まらなければ施工も進まないという、工程上の事情もわかるし、早く決めなかった自分にも落ち度がある。

工事中:右奥がトイレ部分。まだ荒れた現場にここだけピカピカの新品扉が。
普通は、工務店の現場監督がコントロールして、モノが決まっていない部分は設計担当や施主をつついて、工事が遅れないように調整してくれるのですが、今回は施主も現場監督も自分。その責任は自分に掛かってきます。

ということで、ま、しょうがないと受け入れ、どうしても気に入らない部分は、必殺「あとからDIYで塗りつぶす」作戦に。

奥がトイレの扉。手前の味のある引き戸も元は大手メーカー品です。
トイレの扉はその上から左官を施し、扉枠のチリ部分も丸鋸で削って、すっきりした見た目に。精度は荒いけれど、頑張った分、愛着もひとしおだとか。

2階の住居部分から折板壁でふさがれた店舗側を見る。折板壁を貫通している梁がワイルド。
2階は、半透明の壁面から光が入り込み、一日中明るい場所に。店舗側の背の高い椰子の木のシルエットが折板壁越しに見えます。

この空間は、梁を見せようと天井を高くした分、壁の施工の難易度もアップ。でも、大工さんはささっと室内に足場を組み、ものすごいスピードで壁が完成したそう。ひどかった雨漏りも、助っ人の職人さんを呼んで、瞬く間に穴を塞ぎ、見事なチームプレイで天井を仕上げてくれました。このあたりは、さすがベテラン大工さん。頼りになります。

photo:Masanori Kaneshita
奥の寝室部分の床はシマシマ模様。これは、小川さんが材料調達を安く済ませようと、リフォーム屋さんから余って捨ててしまう材をもらってきたのだとか。樹種もバラバラで、量が揃わなかったため、DIYでわざとミックス貼りに。「お恥ずかしい」と恐縮する小川さんですが、これはこれで、ありですね。

ベッド周り。ベッドサイドには、小川さんの趣味のカセットコレクションがぎっしり。

100%理想通りにつくるのは、むちゃくちゃ難しいこと

ハプニングが多々起きても動じず、それをどう解決するかを考える作業をも楽しんでいたようにも見える小川さん。

元プロダクトデザイナーという経歴もあり、分野は違えど、人一倍こだわりも強そうなのに、なぜ、こんなに柔軟に家づくりに取り組むことができたのか、聞いてみました。

小川さんの学生時代の作品。スケボーの座面に付いた脚は、なんとブランコのチェーン部分。
「本当に理想通りのものつくるって、むちゃくちゃ難しい作業だと思うんです。以前の仕事で作っていた小さいプロダクト、インテリア小物ですら、100%自分の意見が反映されたモノにするのは難しい。建築でもそれは痛感しました。

僕の目指す理想は頭の中にあるけれど、やっぱり完璧にはならない。だから、重要なところだけずれてなければいい、という心持ちでした。例えば、折板を使いたいとか、ここは自分の好きな左官材を使おうとか。そしたらあとは、まぁ別にっていう(笑)。

大工さんが張った合板とか、なんでこんな張り方?とか、思うところはいっぱいありましたけど、大工さんとも仲良くなっちゃって、楽しかったんですよね。ラフな方が僕の性格には合ってるなとも思って」

奥へ行く開口部の左上の一部だけ、端材で色が違う。こういう継ぎはぎのラフさもご愛嬌。
「使いながら、変えていけばいいや、というのもあります。
予想と違うことが起きても、それをポジティブに捉えるというか、許せない!という負の気持ちでいるよりよりは、解決する糸口を見つけるほうがいい」

と、聞いているこちらの気持ちも洗われるような、ポジティブな回答。
人間、自分の思い通りにいかないと、怒ったり落ち込んだりしまいがちです。特に家づくりでは、入念に計画してきたことでも、いざ現場が始まったら、物理的な制約でできないという場面も多々発生します。それを、悲観したり諦めたりせず、「じゃあ、どうしよう」と、施主、設計、工務店がチームで知恵を絞り、解決していく。そんなスタンスで臨めたら、家づくりの過程で起きる困難も、前向きに乗り越えられそうです。

1階の折板壁越しに店舗側のグリーンのシルエットが見えアートのよう。
現場での予想外への対応だけでなく、日々の暮らしの変化にも柔軟な小川さん。
カーテン代わりに程よく日差しを遮ってくれるグリーンは、その成長や、季節ごとの日差しの角度によって、遮光具合も変化していきます。暗くなりすぎだなと思ったら、グリーンの位置を動かしたり、枝葉を剪定したり。自然との共存も楽しんでいます。

リース用と販売用が混在する店舗のグリーンたち
そんな小川さんのお宅は、toolboxカタログ2020-2021冒頭の、事例紹介「妄想を実現した人たちの家づくり」にも登場します。小川さんの妄想をイメージして、イラストレーターの舞木和哉さんが描いてくれたイラストは、「グリーンマン」なる同居人と楽しく日光浴する姿。

舞木さんは、hiphop映画「wild style」に掛け、温室でもワイルドに生きたいぜという思いを描いたそう。
小川さんの家づくりは、toolboxの10周年の節目に発売した書籍『マイホーム 自分に素直に暮らしをつくる』でも、ご紹介しています。ぜひ、書籍も合わせてご覧ください。

(来生)



>小川さんのお店はこちら

Green thanks supply

東京都墨田区京島3-42-8
HP:http://greenthankssupply.com
Instagram:@greenthankssupply

個人向けのグリーンも販売中。現在は、週末をメインに営業してます。
緑のご相談、お気軽にご連絡下さい。


植物をモチーフにしたシルクの作品も売られています

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