撮影:佐藤陽一

昔ながらの小さな喫茶店で、新聞を広げる人や、静かに本を読む人、常連同士で井戸端会議をしている人。それぞれが思い思いに時間を過ごしている、そんな空間の中にいると、ほっとした気持ちになります。そうした情景を、10坪という限られた空間に描き出したのが、『珈琲 こ虎』。

『珈琲 こ虎』は、昔ながらの商店街が賑わう街、東京・中延にある、10坪10席の小さな喫茶店。大学生の時から「コーヒーに携わる仕事がしたい」と思い続けた若き店主が、その夢を叶えたのがこの店です。

撮影:佐藤陽一

「純喫茶のようなクラシカルな雰囲気、少し閉ざされたような空間が好き」という店主の好みと、「一人でもふらっと立ち寄れるおおらかさが欲しい」という想いを叶えるために、HandiHouse projectのメンバー・AMPの森川尚登さんが設計したのは、“二面性のある空間”。

お店の入り口側は、高い天井が開放的な、明るい空間に。天井は奥へ向かって低くなっており、奥のスペースはおこもり感を味わえる空間にしました。

撮影:佐藤陽一

奥へ行くほど下がっていく天井は、質感のある塗装で仕上げました。

あえて塗りムラを感じる表情にすることで、下がり天井による圧迫感を心地よいものにしています。

撮影:佐藤陽一

お店の奥、もっとも天井が低いスペースは、壁を板張りにして、親密な雰囲気をつくりました。

壁に貼った板は板幅の細いものを使って、木のあたたかみを感じさせながらも、洗練された印象に仕上げています。

撮影:佐藤陽一

床に貼った炭色のタイルも、クラシカルなカフェを思わせるポイント。幅の違うタイルを馬貼りする手法は、小さな空間にリズムと奥行きを生んでいます。

テーブルだけを照らすように、あえて絞った明かりも、静かで親密な空気感をつくっていて、いいですね。光を受けて揺らぐコーヒーの波紋を、じっと眺めていたくなりそう。

撮影:佐藤陽一

外から明るい光が入る入口側も、質感のある壁がほどよい陰影をつくっていて、落ち着いた雰囲気があります。

写真では仄暗い印象ですが、照明は細かく明るさを調整できるようになっており、天気によって違う外の明るさや店主の気分に合わせて、その時々で変えているのだそう。

撮影:佐藤陽一

手仕事を感じる塗装壁は、塗りlabo・工藤文紀さんの手によるもの。この空間のためにオリジナルで作った塗料を使っているのだそう。

撮影:佐藤陽一

おおらかな「くの字」に曲がったカウンターの下部は、錆びた鉄板のような表情をしています。これは、本物の鉄片を含んだ水性塗料で仕上げたもの。

長い時間を経たような風合いが、店主のステージとなるカウンターに存在感を与えています。

撮影:佐藤陽一

店主がコーヒーを淹れるカウンターの照明も、最低限に。カウンター席に座り、スポットライトのような明かりの下、じっくり丁寧にドリップされるコーヒーを眺める——そんな過ごし方も、乙な楽しみ方です。

そんな店主の背後で、明かりに照らされている『オヨンミンつまみ』を発見!

ラワンで造作した吊り戸棚の把手に使われていました。光を受けて、その彫刻的な造形が際立っています。

撮影:佐藤陽一

お店の入口に添えた看板とメニュー表は、サインライター・KAZUSIGNSの手仕事によるもの。

お店づくりでは、お店の名前やロゴデザインが先に決まっていることが多いものの、『珈琲 こ虎』の場合、店名が決まったのは内装をつくり始めてから。

撮影:佐藤陽一

「ロゴを先に作ってしまうと、そのイメージに縛られてしまうかなと思った」と店主。結果、レトロクラシックな匂いを感じさせる内装とシンクロした、手書き看板が生まれました。

撮影:佐藤陽一

設計を手掛けた森川さんと店主の出会いは、音楽イベント。当時は、森川さんが建築の仕事をしていることも、店主が喫茶店をつくりたいと思っていることも、お互いに知らなかったそうです。音楽や本、サブカルチャーなど、好きなものが似ているという共通点をベースに、二人でカフェや喫茶店を巡り理想のお店のイメージを膨らませていくところから、二人三脚で店づくりを進めていきました。

そうして完成した、店主の10年越しの夢だったお店。喫茶店を愛する店主自身にとっても心地よいことを大切にしてつくられた空間は、訪れる人それぞれの時間を、静かに受け止めてくれそうです。

珈琲 こ虎

営業時間/11:00-19:00(LO18:00頃)
定休日/木曜、第2第4金曜
大井町線中延駅から徒歩2分
東京都品川区中延4-4-1
https://www.instagram.com/coffee_kotora/

サインライター・KAZUSIGNS
https://www.kazusigns.com

塗りlabo+工藤文紀
https://www.r-toolbox.jp/pro/list/1885/

AMP  森川尚登

AMP 森川尚登

内装設計と施工を手掛ける内装デザイナー。建築家集団・HandiHouse projectのメンバー。

HandiHouse project/ハンディハウスプロジェクト

HandiHouse project/ハンディハウスプロジェクト

合言葉は『妄想から打ち上げまで』。
家づくりが趣味になれば暮らしも豊かになる。
そんな思いのもと、設計・デザインから工事のすべてにおいて、施主も一緒に参加する空間づくりを提案している、建築家集団です。

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テキスト:サトウ