photo©STUDIO SEN Yuki Seshimo

このガレージハウスを企画したのは、全国でロードバイクショップを展開するオーナー。
なぜ山中湖なのか?と伺うと、実はここ、山中湖は、東京オリンピックのロードレースの舞台にも選ばれた地なのだそう。(恥ずかしながら、、私はそのとき初めて知りました)

富士山を望む湖畔には、ぐるりと一周できるサイクリングロードが整備され、雄大な自然の中を駆け抜けられる人気スポット。そんな特別な場所に、「日常を離れ、仲間と自分の別荘のように過ごせる拠点をつくりたい」そう思い立ったことから、このプロジェクトははじまりました。

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「愛車とともに泊まれる」をコンセプトに、オーナーが何よりもこだわったのは、“車でそのまま入るリビング”をつくること。

ソファに腰掛け、愛車を眺めながらお酒を飲みたい――車もバイクも自転車も愛するオーナーらしいリクエストでしたが、「傾斜地という条件下で、なかなかハードルの高いお題でした」と、設計を担当した根本さんは、笑いながら振り返ります。

ガレージ側は強度を確保するためRC造に。構造を切り替えることで強度と軽やかさを両立。(photo©STUDIO SEN Yuki Seshimo)

試行錯誤の末にたどり着いたのは、ガレージ部分をRC造、居住空間を木造にして大屋根でまとめる“混構造”という答えでした。

異なる構造を組み合わせたことで、傾斜地にありながらも水平に広がる大らかな空間が誕生。森にせり出すように浮かぶリビングが完成しました。

この二重梁を挿入したことで、窓やウッドデッキをはじめとした建物の方向性が自然と決まっていったのだそう。(photo©STUDIO SEN Yuki Seshimo)

天井を斜めに走る「二重梁」が印象的な室内。

構造を支えるためのラインが、訪れた人の視線を自然と窓の向こうへと導き、景色を一層際立たせます。

森の景色を映し込みながら空間に静かにとけ込む、ステンレスのキッチンとレンジフード。(photo©STUDIO SEN Yuki Seshimo)

キッチンは対面式にして、料理中でも景色を存分に楽しめるように。

床とひと続きになったウッドデッキは、窓を全開にすれば、森に開かれたアウトドアダイニングに。木々の香りやそよぐ風、鳥のさえずりを感じながら、まるで空中に浮かぶような心地よさを味わえます。

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さらに、デッキにはバレルサウナと、富士山の天然水を使った水風呂を完備。外気浴をしながら富士山を望む、これ以上ない贅沢な時間を過ごせます。サウナでの整いと森に浮かぶデッキ。二重の浮遊感に包まれて、至福のリラックスタイムを楽しめそう……。

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明るいうちはダイニングで景色を楽しみ、夜はリビングのソファで愛車を眺めながらくつろぐ。

RC造と木造の境界で家具のトーンを切り替え、ひと続きの空間に“昼の顔”と“夜の顔”が共存しています。

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ガレージにはテーブル型の暖炉とレコードプレーヤーを設置。炎のゆらめきとアナログ音源の温かな音色に包まれながら、仲間と愛車を肴に語らう――そんな光景が目に浮かびます。

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森に開かれた上階に対し、地階の主寝室は半分地中に埋め込み、土に抱かれるような安心感のある空間に。

照明には『フラットレセップ』を採用し、壁にほわっと広がる光が穏やかな空気をつくり出しています。

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上階にあるもうひとつの寝室には、ベッド正面にラワンの壁を設けました。素朴な木の質感が借景と呼応し、まるで森とつながるような感覚を生み出します。

合成写真?かと思わず疑ってしまうほど鮮やかな富士山の景色。(photo©STUDIO SEN Yuki Seshimo)

プランニングで意識したのは「富士山との出会い方」。

アプローチから、ガレージから、ウッドデッキから、そして最後にキッチンから。動線に沿って、段階的に富士山と出会えるよう設計されています。

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キッチンに立った景色がこちら。目の前に雄大な富士山が広がる、まさに特等席です。

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大きな屋根に包まれた建物は、まるで森に羽を休める飛行機のよう。

便利な日常から少し離れて、不便さすら楽しむ贅沢な時間。オトナのロマンがぎっしり詰まった空間がここにはありました。

株式会社mast一級建築士事務所

生活を楽しく豊かにするための「問い」を立て、その答えとなる空間を丁寧に形づくる設計事務所。
家具や照明器具などの手に触れることが多い部分を丁寧に、新築の住宅やホテルの大きな空間を緻密に設計することを得意としています。 オリジナル照明器具を製作するmononの共同代表も務めています。

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