今までのセオリーに捉われない機転と発想

「図面通りにつくる」「計画通りにやる」それはそれで正解ですが、出来上がりが思っていたイメージと違うことや、工事途中の予期せぬ出来事で変更を強いられることも少なからずあります。そんなときに、どうするか。

例えばこちらのマンションリノベーション事例。

HandiHouse projectメンバーのご自宅。

和室だったところの畳を取り払って現れた、予期せぬ段差。当初は全面を同じ高さのフローリング床にするつもりだったそうですが、その段差をあえて活かし、リビングを一段下がったスペースに。フローリング続きにしていた場合とはひと味違う、変化のある空間になりました。

杓子定規にとらわれず、想定外の出来事にも柔軟に対応できるプロ。今回はそんな「臨機応変・アドリブ力」を持った『HandiHouse project』にインタビュー。実際の事例を拝見しながら、どんなふうにお客様と空間づくりを進めているのか、伺っていきたいと思います!

後方支援型で施主の家づくりをサポートする「HandiHouse project」

間取りのプランニングから素材選び、工事までと、全てのプロセスに住まい手となる施主を巻き込んで、自分たちの「手」で家づくりをする建築家集団『HandiHouse project』。

総勢22名の建築家集団。toolboxでも「DIYサポート」サービスを一緒にやってます。

HandiHouse projectの誕生は2011年。渋谷のハロウィンパーティーで偶然知り合った4人のメンバーが意気投合し、活動をスタートしました。

「建築は出来上がるまでのプロセスも面白いのに、施主が入り込む隙がない。家づくりの設計や施工のプロセスに施主を巻き込んだら面白くなるんじゃない⁉️そう思ったことが始まりです」

そんなHandiHouse projectの合言葉は「妄想から打ち上げまで」。施主はただお金を払って出来上がったものを買うのではなく、「自分にとっていい家とは何か」を考えるところから始めて、実際に自分で作業して完成させて、最後に乾杯! というところまで一緒にやろう、という考えです。

お施主様の子どもが電動ドライバーを握って、ウッドデッキの設置工事。

「予期せぬ出来事が起こってもそれを楽しむこと。特にリノベーションは、壊してみないとわからないところがあるので、現場でいろいろな予想外のことが起こり得ます。そうしたことにも一緒に向き合って、一緒に答えを考えていく。僕らとの家づくりは、『お互いの感性を楽しむ』くらいの感覚で楽しんでもらいたい」

お客様と一緒に家づくりをするHandiHouse project。お客様のアイデアを受け止める柔軟性、そして現場で起こった出来事への判断や、それをどう空間づくりに取り込んでいくかをその場で考え形にしていく、臨機応変さとアドリブ力が彼らの強みです。

相互理解が醸成した先にある最高のパフォーマンス

HandiHouse projectとの家づくりの進め方は、物件ごとに一人の担当がつくスタイル。施主との打ち合わせから、見積もり、設計、現場管理や施工まで同じ人が担当していきます。

打ち合わせや現場ではいつも同じ担当と一緒にいることになり、自然と会話をする時間が長くなります。そうすると、お互いへの理解が深まり、相談しやすい環境が出来上がっていきます。結果、お施主様からは意見が出やすくなり、HandiHouse projectもこのお施主様にはこうしたほうがいいといった閃きが起こりやすく、いい仕上がりや判断に繋がっていくんだそう。

そんな施主との関係づくりがあったからこそ出来上がった空間事例を見てみましょう。

即興で決まった偶然の産物

ご夫婦と二人の娘さん。理想のキッチンスペースをお施主様も関わって作り上げました。(撮影:佐藤陽一)

神奈川県茅ケ崎市にある築18年の中古戸建住宅。お施主様は建築会社にリノベーションをすべて任せてしまうのではなく、自分たちも家づくりに深く関わりたい、参加したいという強い思いがあり、HandiHouse projectに依頼することを決めたそう。

お施主様が自分たちのイメージを写真や手書きのスケッチにして、それをHandi House projectが実際に流通している材料で具体化するという進め方で、空間づくりが進んでいきました。

引っ越し前は都内に住んでいたお施主様は、リノベーション工事が始まってからは週末に時間をつくってできる限り家族で参加。時には友人も呼んで一緒に壁を塗ったりタイルを貼ったり、まだ幼い娘さんも粉まみれになって一緒に家づくりをしていきました。

貼り直す予定だった天井を、急遽、現しにすることに。(撮影:佐藤陽一)

工事中、ある想定外のつくりが生まれました。

もともとは、耐震補強の関係で、天井は剥がして貼り直す想定で進めていました。でも、天井を剥がして木の梁や天井が剥き出しの状態になったとき、それを見たHandiHouse projectの担当者は、「そのままのほうが空間のアクセントになって、趣深い雰囲気をつくる天井になるのでは」と考えつきました。

ダイニングの上は天井現しで、リビングソファの上は白天井。(撮影:佐藤陽一)

早速、その場に一緒にいたお施主様にそのことを提案。天井を剥き出しのままにするなんて想像すらしていなかったお施主様でしたが、現場で仕上がり具合など確認しながら、結果的に、天井の半分は仕上げを貼り、半分は構造体を見せる空間になりました。

これは、ここに至るまでのお施主様と担当者とのコミュニケーションがあったからこその産物。家づくりを一緒に進める中で、お施主様の「未完成な状態も良し」「住みながらアップデートをしていく」「予算はできる限り抑えたい」といった好みや想いを汲み取っていたからこそ実現したアイデアでした。

材料に寛容になるほど新しいスタイルが出来上がる

「建築はクレーム産業と昔から言われています。プロセスを開示することのほうが、住まい手も作り手にとっても、得をする部分が多い気がするのに、プロセスを閉じているから、クレームが発生するのではないでしょうか。例えば、流通している材料を見ても、プロ側に対してクレームリスクがない、施工がしやすい、そこを狙った安全な商品が多いように思います」

住まい手となるお施主様がもっと家づくりのプロセスを知って素材の特性への理解や寛容が生まれると、プロも安心して提案する素材の幅を広げられます。そうすると生まれるのは、クレーム回避の安全思考ではたどり着かない、その住まい手だからこその“面白いもの”。既製品では存在し得ない理想の形を、面白く楽しい発想で実現することができます。続いて紹介するのは、お施主様が主導者となるHandiHouse projectとの家づくりだからこそ実現したキッチン事例です。

既成概念を取っ払った工作的キッチン

キッチンの部分リフォームをHandiHouse projectに依頼したお施主様。調理師であるお施主様は、キッチンの使い勝手に関して明確なイメージを持っていました。それを実際のキッチンの形に落とし込んでいく作業をHandiHouse projectが担当しました。

ラフで工作的キッチンなキッチン。「これで十分」という発想。

『オーダーキッチン天板』を載せる台に使ったのは、お施主様が以前から気になっていたという「花ブロック」。花ブロックを積み上げていくだけでは理想の天板高さにならなかったので、現場で生まれたアイデアが、高さ調整材として木材を挟み込むこと。

また、花ブロックは天板としっかり固定する予定でしたが、真ん中のブロックは天板の下に差し込むだけで倒れることはなさそうだったので、天板の下に置くものに応じて左右に移動することもできるようにしました。

花ブロックに棚板を通してフライパンやレンジフードの収納棚に。

出来上がったのは、使いたい材料と自分だけの使い勝手で構成されたキッチン。収納は引き出しではなく積み重ねられるコンテナを使い、真ん中の支えのブロックを動かせばオーブンレンジの買い替えにも対応できます。

『古窯タイル』の中に同じサイズのトグルスイッチも差し込むさりげないおしゃれ。

図面もなければ、取扱説明書もありません。お施主様の「これで十分。これでいいじゃん。何かあったら手直ししていけば良し」という寛容な姿勢を、プロであるHandiHouse projectも理解して受け入れているからこそ、お施主様の感性がそのまま活かされたキッチンが出来上がりました。

なんでも言える関係性だから成り立つ家づくりの進め方

従来の建築は縦の流れが当たり前。お金を払う施主が一番上にいて、その代理人として設計士がいて、工務店が仕事を請けて、下請けの専門業者がいて、さらにその下に実際に現場に出る職人がいるという“縦の関係”でつくられているのが、これまでの家づくりの在り方です。

「縦の構造だと、誰も本音を言いにくい。お施主様は設計士や工務店に任せるものだと思ってしまうし、設計士は図面を描いたら工務店に任せてしまう。だから、その関係を横一列や丸にして、自分たちがものづくりの現場を楽しみたいのと同じように、施主も一緒に作れる現場にしたいと思っています。

そんなふうに家づくりを進めてきて、ある時、お客様に言われたんです。『施主ではなくプロジェクトオーナーって呼ぼうよ。施主と呼ばれると同じチームにいないと感じてしまうと言われて。それから、お施主様のことをプロジェクトオーナーと呼ぶようになりました」

お施主様が家づくりの現場に深く関わっていくと、今まで気にもしてなかった材料の質感や家の構造に興味を持つようになってくのだそう。そうしたお施主様が自分自身で素材を選んでいく際のサポートにも、HandiHouse projectらしい工夫がありました。

二人三脚で作り上げた憧れのセルフリノベーション

好きなタイルや壁紙をお部屋のアクセントになるキッチンに。

神奈川県横浜市にある集合住宅のリノベーション。「仕事で海外に行った際、当たり前のように自分の家は自分で作り、住みながらDIYする文化を目の当たりにしました。自分も家を買ったら、家づくりに積極的に関わりたい」そう思ったことが、お施主様がHandiHouse projectへ依頼をしたきっかけだったそう。

各地から集めたタイルサンプルの数々。

「この家のプロジェクトオーナーは、好きな材料を集めて、好きな色や柄を組み合わせて貼っていきたいと考えていました。

でも、タイルをどう組み合わせていったら良いのか、オーナーだけでイメージするのはなかなか難しい。普通は、図面に割り付け図を描いて用意したりしますが、HandiHouse projectではモックアップを用意して、その場で組み合わせをイメージをしながら話し合って決めていきます。

その方が、『これはここ?』『もうちょっとこっち』というように、家づくりを初めてする人にとってはやりやすかったりするからです」

床にタイルを並べて、プロ目線でアドバイス。

「オーナーからは『悩む時間をいっぱいもらえて、時間かけて相談しながら作っていけたのが良かった』と言っていただけました。

僕らは設計から施工まで、全てを行っているので、いつどの部分を決めていったらスムーズに進むのか、悩む余裕がある段階はどこなのかということを、把握しやすいんです」

モックアップで配置を決めて出来上がったタイルの壁。

家づくりの素人であるお施主様が参加する工事でも、完成のクオリティは大事にしていると話すHandiHouse project。

「施主はここまで、ここからはプロ」と家づくりを分断してしまうのではなく、お施主様が最初から最後まで家づくりに携わり、自分自身で家をつくり上げてもらうために、プロとしてしっかりアドバイスや舵取りをしてフォローしていると言います。

即興で”最高の満足”を作り出してくれるプロ

どんなに雑誌をスクラップしてイメージをしても、それを具体化していくことは簡単ではありません。また、どんなに準備をしていても、現場で思い通りにいかず、急遽判断を迫られる状況が訪れることもあります。そんなときに、HandiHouse projectなら、住まい手をバックアップする形で一緒に家づくりに向き合ってくれます。

pro list(プロリスト)

toolboxでは、商品を使ってくれたり、imageboxに空間づくりのアイデアを提供してくれる全国の家づくりのプロを「pro list(プロリスト)」で紹介しています。

toolboxの「pro list(プロリスト)」の特徴は、「スケルトンで魅せる」「DIY歓迎」「築古得意」など、各プロの長所や得意技を示す“ユニークタグ”で検索できること。

(「pro list(プロリスト)」については、コラム「家をつくるパートナーはユニークに探すべし!」もご覧ください。)

株式会社 HandiHouse project / ハンディハウスプロジェクト

合言葉は『妄想から打ち上げまで』。
設計・デザインから工事のすべてにおいて、施主も一緒に参加して作っています。
家づくりが趣味になれば暮らしも豊かになる。そんな思いで活動している建築家集団です。