毎回テーマに沿ったゲストをお呼びし、toolboxスタッフと対談形式でテーマを深堀するYouTube番組「toolbox channel」。第5回のゲストは、建築設計事務所ブルースタジオの石井健(いしいたけし)さん。リノベーション創世記をつくりあげ、20年強、さまざまな家づくりを通して私たちの視野を広げてくれたブルースタジオ。「設計者のコミュニケーションで施主の本質的な思いを引き出すには」をテーマに語っていただきました。

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コラムとしてもお伝えしたいと、今回の内容を前編、後編に分けて振り返ります。

ゲスト:株式会社ブルースタジオ 執行役員 / クリエイティブディレクター 石井 健(いしいたけし)

1969年生まれ。建築・内装設計、不動産商品開発を中心業務としつつ、関連するマーケティング、ビジネスモデル開発、ITプラットフォームの設計などにも従事。株式会社ブルースタジオで日本のリノベーション・シーンの創成期から手がけてきた。
「カンブリア宮殿」(テレビ東京系)でも「古い物件の家賃を倍にする不動産集団!」として紹介される。「郷さくら美術館」(東京・中目黒)を始めグッドデザイン賞6度受賞。「FURNITURE半身浴」を始めリノベーションオブザイヤー7度受賞。著書『LIFE in TOKYO』(エクスナレッジ)。

対談相手:toolbox ブランディングディレクター 石田 勇介(いしだゆうすけ)

toolboxの定額制パッケージリノベーション「ASSY」や「SETUP」のデザインなどを手がける。

学生時代にグラフィックデザインを学んでいたという石田(社内のあだ名はイッシー。石井さんと石田で似ているので以下イッシーでいきます)。

ブルースタジオとの出会いは、学生時代。インテリアに詳しい先輩がいて、訪れたその先輩の家がブルースタジオが設計したものだったとか。先輩は賃貸で借りていたそうですが、ブルースタジオの初期に手がけた物件だったようです。

そこではじめて、ブルースタジオの名を知り、「かっこいい空間をつくる集団」というイメージが植え付けられたそう。約20年後にこうしてお話して対談するようなことになっているとは!と感慨深げでした。

司会:toolbox PRチーム 来生ゆき

動画の目次

00:00  | オープニング
03:24  | リノベーション黎明期 ブルースタジオのはじまり
09:55  |  自由な住まい方の広がりと妄想をカタチにするアプローチ
25:26  |  妄想の着地点
32:34  |  リノベした家に長く住んでから2回目の改装へ 部分リノベ実例
39:34  |  ローコストではなくスモールバジェットという考え方
48:47  |  Q & A
56:51  |  おわりに

構造エンジニアから、身近な住まいを考えるリノベーションの世界へ

リノベーション黎明期 ブルースタジオのはじまり

1998年創業の株式会社ブルースタジオ。

日本で「リノベーション」という言葉が雑誌などを通して世にではじめたのは、2000年前後の頃からですので、実質それ以前から活動を開始していたことになります。当時はどんな思いではじめたのか、そして、いまに至る変化などをお聞きしました。

1999年発行「SD」東京リノベーション特集(鹿島出版会)雑誌に「リノベーション」という単語が出始めた頃。

石井さん

創業メンバーは、大学時代の同級生3人。元々、代表はグラフィックデザイン、大島(芳彦)は組織事務所。彼はその前は海外に留学もしていて。わたしは、大学卒業してから構造エンジニアでした。半分くらいは、著名な建築家の構造設計をやっていて、途中6年間くらいはずっと海外で発電所の開発事業を……

イッシー・司会

意外なバックグラウンド!

石井さん

そこから、ブルースタジオをはじめたのが31歳とか。

イームズ人気をはじめとした、最初の家具ブームだった2000年代初頭

イッシー

(学生だった)当時からインテリアが好きで、インテリアから入って、いまこうして空間に携わるような仕事をしているわけなんですけど。2000年ちょっと前くらいからイームズとか、インテリアの大きな盛り上がりとかあって、それに僕も感化されて。「こういう内装があるんだ」って気付いたりしたんですよね。

石井さん

最初の家具ブームの頃ですよね。

2001年9月発行「Casa BRUTUS」みんなのイームズ!特集。

石井さん

「デザイナーズ家具を買ったけど、その家具を家の中に置くところがない」そんな(要望の)お客さんが多かったですね。

世界では、中古住宅のリノベーションって当たり前じゃないですか。

創業メンバーの3人は、それぞれ建築、デザイン関係をしていて、なんで日本には、(デザイナーズ家具が似合うような、リノベーションされた空間が)ないんだろうってところがはじまりですね。

当時は、40㎡のワンルームって、流通していないんですよね。(注:狭くても2LDKとか部屋数が多い方が募集上は良しとされている時代でした)スタイルもそうなんだけど、暮らし方含めて色々な可能性があるんだけど、(広い部屋にすることだって)自分でやろうと思えばできるけど、そこまで発想が及ばないじゃないですか。

自分たちの日々の暮らしの中において、それが関係してくるっていうのが、ブルースタジオに参画してから、もう一度改めて考えたことですね。

2003年発売のブルースタジオの著書「リノベーション物件に住もう!〜「超」中古主義にすすめ〜」(河出書房)は夢中になって読みました。

「一番いいことは、多くの人たちが住まい方に自由度があるって認識していること」

自由な住まい方の広がりと妄想をカタチにするアプローチ

イッシー

情報の集め方が今だいぶ進化していて、相談しにくる方の違いってあるのかなと思うんですけど、どうですか?

石井さん

変わったというよりは、住まいに対する考え方が高まってますよね。リテラシーも高まって、変わったというより多様化してきた。

時代背景も違うし、住宅に求められているもの、位置づけも違うと思うんですよ。

石井さん

最初の頃とか、補償がどうのとかいう人は、当然いないんですよ(笑)そこは優先順位低いから、やっぱり世の中で手に入らないものを手に入れたいというね。

今もそういう人たちがいないわけじゃないけれど、“それ以外”の人が増えてきた。

新築のディベロッパーのものと同等、(同等は無理なんですけど)同等に近いようなサービス提供を求める人とか、いろんな人たちがいる。

当然、知識の幅も広いので、自分の中で考えてくる人もいれば……ノーアイデアで来る人も多いですよ。「お家つくりたいんです。かっこいいところ住みたいんです。でも、どうしていいか分からないんですけど、大丈夫ですか?」みたいな人もいっぱいいるので。

石井さん

一番いいことは、多くの人たちが住まい方に自由度があるってことを認識していること。発想の違いっていうのは、ものすごくいいことなのかなって思ってます。

自分は何が好きなのか?自分ごとに近いレベルから相談を

妄想をカタチにするアプローチ

司会

選択肢が沢山あることも知ったけれど、インスタグラムなどで色々な情報が得られる今、逆に情報迷子になっちゃっている人も多いと思うんですけれど。

石井さん流の要望整理の仕方だったり、設計者の方に家を相談にいくときに、どういうことを事前に集めて、相談にいくと設計者の方もやりやすいのかというのを聞いていきたいです。

石井さん

一番大切なのは、自分が何が好きなのか。自分ですよね。

自分のためにやるんだから、「自分が何が好きなのか?」ということを、まずしっかり持つ。

「こんな暮らしがしたいんです」とか「何が好きなんです」とかを相談できるプロなりショップなりを見つけて。

相手との相性とかも大事なんですけど、自分ごとに近いレベルで相談する方がいいと思います。

かしこい人とか、勉強したい人は、自分と違う世界を学ぼうとするんですよ。例えば、自分(の仕事)は金融なんだけど、インテリアのことをまずは学んでからプロのところに相談に行きたい、みたいな。

でも、本来は、金融マンである自分視点で、「こんな暮らし」を見つけるのがいい。本当に自分が好きな……例えば、コーヒーが好きとか、時計が好きとか。

そういう「自分に近いところ」で、相手にアプローチするっていうのが絶対いいです。

リノベーションがうまくいく人の共通点は、「最初から出し惜しみしないこと」

石井さん

メディアでやってるリノベーションした人へのインタビューで、うまくいった人たちが言うのが「出し惜しみしないこと。特に、“最初の段階”で出し惜しみしないこと

そこから後は、相手がどう受け止めてくれるか。

多分それやると、すごいカオスなことになると思うんですけど(笑)

カオスなことを見たときに、プロが、「それってこういうことですか」とか「なぜ、こうなの?」ってコミュニケーションしていくことで、自分の中でも分かってなかったことが分かってくるだろうし。

「空間写真じゃなくていい」好きなことは、自分の慣れた手法で伝えよう

石井さん

画像イメージを考えた時に、プロダクトの写真ってそれ一つで完結するんだけど、空間の写真って色んなこと(要素)が入ってるんですよね。

司会

だいたい、海外の事例写真とかだと、天井が高すぎるってこともありますよね。日本とは根本的に違うという。

石井さん

一枚の写真の中に、情報がものすごく沢山あるんですよ。じゃ、自分が好きだって感じてるところはどこだろうって紐解いて行く。

プロと一緒に紐解いて行く。「そもそも窓のカタチが違いますよ」とか、「カジュアルに感じるのは、背景のタイルがそうなだけで、ここ隠したらそうじゃないですよね」とかね。

お互い自分の土俵で確認していく。そこで、ちゃんとコミュニケーションとって、共通認識をつくっていくということが大切ですよね。

インテリアでなくていいんだと。自分の好きな映画とか、服とか。インテリアじゃなくてもいいから、好きな匂いとか、一番自分にとって力強いもの、そこからはじめていきましょう。

そっちの方が僕たち(設計側も)分かりやすいから。

イッシー

僕なんか、インテリア好きから始まっているから、どうしてもビジュアル的なところから入っていっちゃうんですけど、もっと自分に近いところからってことですよね。

石井さん

いや、そういうプロセスが楽しい人はそれでもいいんですよ。「自分で間取りを考えなくちゃ!(汗)」って人もいるんですよ。一生懸命、エクセルで間取りを考えて来るみたいな。

自分の表現の仕方って色々あると思うんで。

イッシー

使えるツールも違いますもんね。

石井さん

代理店の方とかは必ず、パワポの資料を作るんですよね。必ず企画書にするっていう(笑)。あれやっぱり、(ご本人が)楽しいんですよね。

自分の好きなことを、自分に慣れた手法で、自分自身を表現していく。それを空間として返してくれるプロと一緒に何かを作っていく(のが大切)。

自分でディレクションしたくなっちゃタイプの人について

イッシー

ついつい、自分でディレクションしたくなるタイプ……僕なんかもそうなんですけど。

でも、自分の趣味だったり、自分ごとの中から生まれたものを(プロに)相談して、そこで出てきたものって、自分の想像を超えてくる世界だったりすると思うんですよね。

石井さん

そうですね。自分でディレクションしたくなっちゃう理由って、多分、「自分が出来るから」じゃなくて、「やってる自分が楽しいから」がほとんどだと思うんですよね。

それは否定しないし、特に自分の家だったら、楽しんでこそなんで。それはどんどんやった方がいいと思う。

石井さん

でも、そこには限界があるっていうのと、自分が見たこと、やったことあることしか分からない。

理屈が分かっていないと……なんか、その通りやったのにかっこ悪いぞ?みたいな

イッシー

でも、それって往々にしてありえちゃう世界ですよね。

お客さんだったり、僕だったり……(言ったことをそのまま)カタチにしてもらって、(完成してみて)なんか違うなって。でも、僕がいったことだからなぁ……っていう。

石井さん

もったいないのは、自分の妄想って言った時に、空間だけの妄想、空間だけにリソースを求めるのは非常にもったいないですよね。

もっと空間以外……、全てですよね。

言葉なのかもしれないし、五感、場合によって六感まであるわけですから。そういったことをフル稼働して、もっと妄想することに制限をつけない。そこからスタートすればもっと楽しい。

相手(お願いするプロ)も困っちゃう人もいるかもしれないですけど、クリエイターの人もそっちの方が楽しいですよね。

相手も困っちゃう人もいるかもしれないですけど、クリエイターの人もそっちの方が楽しい
ですよね。

「発注者と業者の関係だと、楽しい住まいって絶対つくれない」

石井さん

「茶色のお部屋をつくってください」って言われるより「コーヒーの香りがする壁をつくってほしい」って言われる方が、クリエイターも燃えると思うし。

イッシー

挑戦というか。会話も弾みそうですよね。

石井さん

そう。そこで、「僕(設計者)コーヒー詳しくないんですけど、コーヒーの香りって色々あると思うんで教えてくれません?」みたいなことになっていくと、クライアントとクリエイターの間のコラボレーションっていうか、そこではじめて共同プロジェクトになっていくんですよね。

「茶色の家にしてください」「かしこまりました」だと、発注者と業者なんですよね。

石井さん

発注者と業者だと、楽しい住まいって絶対つくれないですよね。

イッシー

コミュニケーションがあった上で生まれるものが、結果として、自分の家に近くなるというか。家づくり自体が自分ごとのプロジェクトとして進んでいく。みたいなものが、家づくりの面白さ。その後の関係にも続きそうですよね。完成した後も、また何かあったら相談してみようとか。

石井さん

ひとりひとりが、発注者と業者の関係、対等なプロジェクトの関係って、「0か100か」じゃないと思うんです。発注者と業者の関係でいたい割合と、共同プロジェクトとして対等な関係でいたい割合が、みなさん一人一人違うと思うんで。

そこのバランスの相性がいい人(を選ぶのがいいですよね)。

(プロ側も)クライアントのそうした思いを引きだしたいって思ってる人もいれば、「いや、言われた通りやりますんで。言ってください」って人もいるし。そこはどっちが良い悪いじゃなくて、そのバランスみたいなものは一人一人違うんで。そこはお互い(どっちがいいのか)感じ取って。

石井さん

仕事してて楽しいのは、ある時突然クライアントの人が、急にクリエイティブになる瞬間があるんですよ。
「そっか、そういうことなんだ!」と分かる瞬間があると思うんです。ご自身の好きを表現するというか……そういう瞬間ってすごく嬉しいですよね。

話してて、急に眼が変わるんですよ。「あーそうか、理解しました。もっと色々出来るんですね!」って。

>>>後半に続く

いかがでしたか?

楽しい家づくりで大切なのは、「施主とプロが発注者と業者の関係にならない」というのは、ハンディハウスプロジェクトの加藤渓一(かとうけいいち)さんをゲストに迎えた「住まい手主導の家づくり「施主と一緒につくる」を10年やってきた、ハンディハウスに聞く」でも、出てきたキーワードでした。

もうひとつ、石井さんのお話で発見だったのは、「空間デザインに限らず、自分の“好き”を伝える」ということ。家づくりの打ち合わせでは、好きな空間インテリアのイメージや、取り入れたい設備やパーツなど“ほしい物”を伝えなければと思いがちです。でも、例えば「コーヒーが好きです」といった、自分が暮らしの中で大事にしているもの、好きなことを伝えることで、自分では想像もしていなかったような空間デザインが生まれる可能性がある。「自分を知ってもらう」ということが、設計者と一緒により良い家づくりをするには、大事なことなんですね。

後半は、石井さんが手掛けた事例を元に色々なお話を伺いました。家族の成長に伴う2度目の部分リノベーション、小さい予算で何ができるかのお話など、面白いお話が続きます。お楽しみに。

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