「空間づくり」の実践から

地元の地方都市が抱える諸問題に関心があった私は、大学で地方行政について学び、生まれ育った鳥取市の活性化に取り組みたいと考えていました。

中でも特に、県内に空き家や空き店舗が増加していることに強い危機感を感じていましたが、一方で郊外では開発が進み、広い土地に何軒もの家が一気に建ち並ぶ光景をよく目にしました。どれも似たようなデザインで、同じような間取り。人生で長い時間を過ごす「住まい」が、まるで工業製品のように機械的に作られていく姿に、どこか冷たい印象を感じたのです。

そんな中、大学3年生の春に、空き家を改修する大工さんと出会ったことをきっかけに、自らの手で建物に新たな価値を与え、空間を生み出す仕事に魅了されました。大学を休学し、その大工さんのもとで2年間、施工技術やリノベーションについて学びました。そこで最も印象的だったのは、お施主様と一緒に家づくりをした経験です。

閉鎖的な一般的な工事現場とは違い、毎日現場に足を運んで自ら塗装や左官工事をするお施主様の姿と、完成時の喜びに満ちた表情を目の当たりにし、「家づくりは、住む人が主役であるべきだ」という確信を得ました。

ご自身の労力と想いを込めて創り上げた空間に対する揺るぎない愛着と、達成感に満ちた表情は、画一的な工業製品では決して得られない、その人だけの「生きる喜び」を具現化するものだと肌で感じたのです。

この経験から、住み手の個性や想いを反映した空間づくりを実現できる仕事に就きたいと強く感じ、toolboxへの入社を決めました。

ちなみに、toolboxを知ったのもこの工務店の施工でキューブ型レンジフードを現場に設置したことがきっかけです。

toolboxの「手立て」の多さ

入社後、学生時代に住宅業界に感じていた画一的な家づくりの「冷たさ」とは対照的に、私はtoolboxの空間事業が提供する、お客様の主体的な想いを具現化するための多様な手立てに、「あたたかさ」を感じました。

単なる建材のECサイトではなく、お客様の「妄想」を形にするための様々なツールや情報が、そこにはありました。ウェブサイトにはユニークな空間事例やディテールまで惜しみなく公開され、お客様が自分らしい住まいを想像できるアイデアに満ちています。

そして、リノベーションの現場では、企画・設計・現場管理を一人の担当者が一貫して担います。 これは、お客様の細かな願いを反映させるための寄り添いであると同時に、理想の空間を実現するために、時にはプロとして実現の難しさや、より良い選択肢を明確に伝える対等な関係性でもあります。

このtoolboxの「手立て」の多さと現場の体制ならば、住む人それぞれの理想の暮らしを、妥協せずに実現できるという大きな期待へと変わっていきました。

研修が中盤に差し掛かった6月からは、ツールボックス工事班のレクチャーが始まり、先輩が現場監督を務めるマンションリノベーションの現場に毎週通う機会を得ました。

この現場では、実際、空間が形になる過程で、一度タイルを貼り終えた後に、お客様が「やはり別の色に変更したい」と希望される出来事がありました。この時、先輩は「工期に無理がなく、お客様の満足度を上げられるのであれば、コストや時間を頂いても基本的には対応する」という柔軟なスタンスで、その願いを実現するために可能な限り全力を尽くしていました。

この経験から私は、単に工事を進めるだけでなく、お客様の理想に寄り添い、共に実現を目指す現場の「伴走力」を肌で感じました。

多くの人が関わる現場では、予期せぬトラブルや当初のプランからの変更がつきものです。工期内に作業を円滑に進めるためには、お客様、職人さん、管理会社、周辺住人などの間を取り持つ「ハブ」となり、時には自ら手を動かし、時には関係者の間に入って調整する。まさに「潤滑油」のような役割だと感じました。

「なぜ」を追求するTBKの仕事

半年間の研修の中で、リノベーションの提案を擬似体験するプログラムがありました。

以前ツールボックス工事班が請け負ったマンションの一室を題材に、自分自身で企画、設計、アイテム選定を行い先輩方にプレゼンテーションを行う、というものです。

私たちのプランニングは、まず物件周辺のフィールドワークから始まりました。人通りやお店の雰囲気、街灯の数、コインパーキングの料金まで観察し、そこに住む人物像を深く掘り下げていきます。

このプロセスから、フィールドワークで街を紐解くことで、「どんな人が、この場所で、どのような生活を送りたいと願うのか」という具体的なペルソナが見えてくるようになります。建物の内側だけでなく、立地や周辺環境といった「外側の要素」も徹底的に紐解かなければならないと学び、空間づくりとは、単に建物を設計する以上に、そこで生活する人々の暮らしと密接に関わっていることを強く感じました。

さらに、プランニングの軸となるコンセプトを、具体的かつ高い解像度で言語化する力の重要性を痛感しました。当初は「自由」や「豊か」といった抽象的な言葉を並べていましたが、それではお客様や職人さんと正確なイメージを共有できません。理想の空間を具現化するためには、自分自身が、その空間の隅々まで論理的に説明できるレベルで思考を突き詰める必要があるのです。

そして、この突き詰めたコンセプトこそが、設計からアイテム選定に至るまですべての工程を貫く「羅針盤」となります。先輩から「なぜそのアイテムを選んだか、全て説明できなければならない」と言われた時、すべての選択に一貫した「なぜ」という問いを立て、論理的な裏付けを持たせることの重要性を痛感しました。

この一連のプログラムを通じ、toolboxの空間事業は、一貫したコンセプトに基づき、そこで生活する人々の暮らし全体をデザインすることだと学びました。

私が半年間の研修を通じて痛感したのは、そこに住む人の暮らしを徹底的に想像し、「なぜその空間なのか」を追求し続ける仕事だということです。一般的なリノベーションは、既存の建物をどう改修するかという「モノ」に目が向きがちであるのに対し、toolboxの空間事業が最も大切にするのは、そこで営まれる「人」の暮らしです。

だからこそ、toolboxが提供するリノベーションは、お客様一人ひとりの生活に寄り添い、それぞれの「好き」や「こだわり」を既成概念にとらわれずに形にできると確信しています。

半年間の研修を経て、これから始まる実務に胸が高鳴ります。

画一的な家づくりではなく、その人だけの暮らしに寄り添った空間を、一緒に創り上げていく。
toolboxが提供する、アイデアと手立ての詰まった「道具箱」を使いこなし、お客様の想像を超えるような住まいを実現できることを楽しみにしています。

テキスト:前田