左から中川淳さん、グループ会社であるOpenAの代表・馬場正尊、弊社スタッフ。

TOOLBOXには、東京R不動産をはじめとするグループ会社が数社あり、各社が近況報告などを行う場として、「総合定例」を年に4回開催しています。そのうちの1回は、外部から特別ゲストをお招きしてトークイベントを行うことが恒例行事となっています。

今回はその特別ゲストとして、奈良県から中川政七商店の中川淳さんが来てくださいました!

享保元年(1716年)から続く中川政七商店。写真は直営店に掲げられるロゴ看板。

1716年に奈良晒の問屋として創業した中川政七商店は、時代の変化に適応しながら、長い間その手仕事から生まれるものづくりを守り続けてきました。1970年代以降は茶道具や麻小物の小売事業も展開し、それが現在の生活雑貨事業へとつながっています。

今では全国に60を超える店舗があり、商業施設などで目にしたことがある方も多いのではないでしょうか。

2007年からは「日本の工芸を元気にする!」というビジョンを掲げ、自社のノウハウをシェアする業界特化型の経営コンサル事業や、工芸メーカーの販路を支援する合同展示会「大日本市」の開催など、ビジョンの実現に向けた取り組みを幅広く行っています。

創業300年の節目の年に「今から100年後に残る郷土玩具」を目指して誕生した「鹿コロコロ」。

この歴史ある中川政七商店の歩みから私たちの未来を考えるヒントはないか、そんな思いでこの会を迎えたのでした。

私たちグループは誕生から20年以上が経ち、TOOLBOXも創業15年目を迎えました。
組織も大きくなり新境地を迎えつつある今、改めて私たちが実現したい未来と向き合い、これから先も走り続けていくための良い手がかりはないかと、模索しているフェーズにいます。

そんな私たちに向けて、中川さんは「いいビジョン」をテーマにお話をしてくださいました。
当日のお話とそこから得た気づきを、入社3ヶ月の私の視点で紹介できたらと思います。

「いいビジョン」ってなんだろう

あの中川政七商店?!入社して間もない私にとっては衝撃的な出来事でした。
どんな話が聞けるんだろうかと、ソワソワしながら迎えた当日、「中川政七商店が事業を続けられているのは”いいビジョン”を持てたから」という言葉から中川さんのお話は始まりました。

ではその「いいビジョン」ってなんでしょう?

先述の通り、中川政七商店では2007年から「日本の工芸を元気にする!」というビジョンを掲げています。

「ビジョンを掲げた以上は、その実現のために、会社として今何をすべきかを事業レベルまで落とし込んで考え抜くことが大切。それを実践し、ビジョンと事業につながりを見出せる“いいビジョン”を持てたことこそが、これまで会社経営を続けてこられた大きな理由」と、中川さんは話します。

「日本の工芸を元気にする!」というビジョンのもと、ショップでは全国の工芸メーカーと協業した生活雑貨が販売されている。

では「ビジョン」と「事業」を結びつけるために必要なことは何でしょうか。中川政七商店流の具体的なステップも今回聞かせてくれました。

それは、
①ビジョンの文言を分解して定義する
②具体的に取り組む事業を洗い出す
③数字に落とし込んでいく
の3つのステップです。

例えば、①では「日本の工芸」とは?「元気にする」とは?生活に必要なものが人の手で作られていたら「工芸」。経済的自立を果たし、ものづくりの誇りを取り戻した状態が「元気」だと言えるよね。

②では、その状態を実現するには私たちがたくさんの工芸品を「買う」必要があるよね。

そして③では、「買う」ためには業界シェア何割の売上が必要なのか?その売上を達成するために必要な事業は何か?

といった形です。

第一ステップ「ビジョンの文言を分解して定義する」の説明スライド。

「ビジョン」と「事業」の間に距離を感じていた私にとっては、このステップで考えると実践できそうに思えてきました。

TOOLBOXも「日本の住空間に楽しさと豊かさをもたらす」というミッションを掲げています。

では「日本の住空間」や「楽しさと豊かさ」って何でしょう?

その言葉に対する分解定義ができたら、「そのためにはこんな商品が必要だよね」「今度のイベントはこんな風にブラッシュアップしていった方がいいよね」といった形で、目の前のやるべきことがもっとクリアになりそうな気がします。

工芸産地を盛り上げる」が表れた一例。中川政七商店による初の観光案内所「奈良風土案内所」。(中川政七商店 奈良本店)

社内の日常から見えてきた中川さんの言葉

でも、その分解定義こそ、今私がすごく難しさを感じている部分でもあります。

TOOLBOXでは新入社員の研修の一環として、会社のミッションやありたい姿について考え、先輩方と意見をすり合わせる時間が設けられています。その中で会社の考えを自分ごとに落とし込んで考える難しさを何度も痛感してきました。

しかし今回のお話から、会社の理念を深く掘り下げ、その考えをまずしっかりと理解することが「理念」から「事業」まで落とし込んで考える一歩目のステップとして、いかに大切かということを再認識できた気もしました。

中川政七商店のビジョンに対する考えが綴られた書籍「ビジョンとともに働くということ」。

中川さんの言葉を理解していくにつれ、今までの自分は会社のミッションに対してそこまで深く考えられていなかったなと、何だかハッとさせられた気持ちにもなりました。

ただ、改めて社内の様子を思い返してみると、中川さんが大切にする考え方は私たちの日常にも表れているような気もします。

私たちの議論の中で、「TOOLBOXらしさ」という言葉が出てくることがよくあります。これは「私たちが目指すものを実現するために本当に必要なことは何か?」その価値基準で物事を判断している表れだと感じています。自分たちが目指すものを実現するために、どういった形で事業に落とし込んでいくか。そんな議論が白熱する様子をたくさん見てきました。

中川さんが話していたことは、こういうことなのかもしれません。

日々起こる社内での出来事を思い出し、そんな会社の姿にちょっと誇りを持てたのと同時に、今の自分の課題も浮き彫りになってきたのでした。

日々の仕事からビジョンやミッションを意識する

中川政七商店ではこうした取り組みを続けてきたことで、ビジョンと事業に一貫性が表れ、会社への求心力も生まれてきたとのこと。今では「日本の工芸を元気にする!」のビジョンに引かれて、本社のある奈良県内だけでなく全国からたくさんの仲間が集まってくるそうです。

私たちの社内を見ても、それぞれが実現したいことを持って入社し、それが会社が実現したいことにつながっているケースも多いように感じます。今回の話を聞いて、そのつながりが日々の業務への取り組み方に表れていたんだと改めて実感しました。

こうした学びの連続だったイベントの最後には、私たちからの質問や事業提案を通じて、お互いに意見を交わす時間も設けられました。私たちの考えを伝え、それに対する中川政七商店の考えも知ることができる。双方向のコミュニケーションが生まれる点も、この会の魅力の一つだと感じました。

2021年にオープンした「鹿猿狐ビルヂング」の入口。建物の中には中川政七商店の旗艦店のほか、東京都内に拠点を持つ「猿田彦珈琲」やすき焼き店の「㐂つね」が軒を連ね、「鹿猿狐」はそれぞれのお店を表している。

今回、入社後から見てきた社内の日常と照らし合わせながらお話を聞けたことで、中川さんが言う「いいビジョン」について、より深く理解ができた実感があります。お話の一つひとつが日々の出来事と重なって、イベント中は何度も頷きながら聞き入っていました。

この先何かに行き詰まった時には、今回のお話を思い出して「それは私たちのミッションに繋がっているか?」という視点に立ち返ることも大切だと感じました。

会社が実現したい未来と向き合い、そのために自分が果たすべき役割は何か。今後はこうした会社の情報を発信していく立場としても、ミッションと事業との一貫性も意識しながら、日々の業務にしっかり向き合っていきたいと思います。

※中川さんは2025年2月28日をもって会長職を退任され、「十三代 中川政七」の名を退任とともに返上されたため、文中では「中川淳さん」としています。

テキスト:ハマ