彼の名は、イェンス・イェンセン。

いつもは大使館でデンマーク文化を日本に広める仕事をしている。しかし、週末ともなれば、畑仕事に、家作りに勤しむ。そのDIYな北欧流ライフスタイルが注目を集めている。

東京に住みながら、週末を使って小田原に通いながら野菜作りを楽しむ、デンマーク式の家庭菜園「コロニヘーヴ」や、何でも手作りしてしまう発想豊かなDIYライフ― —彼はそんなアイデアをまるごと惜しみなく、さまざまなメディアで紹介している。

そんな彼が昨年出版した『イェンセン家のマンションDIY』は、すぐにできるイェンセン流DIYのアイデアがいっぱい。マンションだけでなく、一戸建てや賃貸物件でもためになる具体的な事例集になっている。

の本を見て驚くのは、東京で、デンマークさながらのシンプルであったかい暮らしが(お金をかけずとも、手間ひまかけて、アイデア次第で)可能なのだということ。

彼はデンマークの豊かな森に囲まれたでっかい家で優雅に手作りしているのではないし、私たちと同じ東京の(決して大きいとは言えない)マンションに住みながら、まさに“等身大”のDIYを日々実践しているのだ。

そんな彼のDIY精神は、ご両親の影響が大きい。なんてったって、お父さんは木工の先生、お母さんは家庭科の先生!

「僕の両親だけでなく、デンマークでは手作りが当たり前。自分たちで住みやすく家を手直ししたり、もの修理したり。そうやってDIYを楽しむお国柄なんです」

そんなイェンセン家のDIYライフ、ちょっと見せてもらいました。

「基本は自分でなんでもやる! 時間はかかるけれどね」とイェンセンさん。その言葉通り、リフォーム前の中古マンションを購入し、住みながらコツコツと、1コーナーずつリフォームしてきたのだとか。

「一気にやってしまうと、あとから後悔することも。少しずつ手を加えれば、調整できるし、失敗が少ないよ」

完成まで1年ほどかけて、いまの形になったという。しかし、住んでもう7年目。先週、玄関からリビングへ続く廊下の上に、靴を置くための棚が完成したばかり。

自分たちのライフスタイルに合わせて少しずつ……。それが、彼の基本スタイル。

一番大きなリフォームは、間取りを大きく変えたこと。キッチンとその隣の部屋をつないでLDKを作るため、石膏ボードの壁をぶち抜いた。(耐震上石膏ボードの壁ならOKとのこと)床は無垢のパイン材を敷きたかったが、防音材の入ったものでないとNGというマンションならではの制約があり、断念。

次に、キッチンはそのままに、棚の扉やレンジフードなどに手を加えて、使い勝手よくアレンジ。玄関の床も、もともとのフローリングに白いペンキを塗った。毎日通る場所だから、もちろんはげてくる。しかし、「それも使い込んだ味わいが出ていい感じ」に。

「はげれば、上から塗ればいい。実は2回塗ってます」とも。

床も壁も、窓枠も、棚も、水回りも……。あぁ、どこもかしこもDIY!ここでは紹介しきれないので、詳しくは本を読んでいただきたい。

そんな彼のアイデアは一体どこから?

「雑誌を見たりして参考にすることもあるけれど、まずは、今の生活に“足りないもの”を考えるんです。『こういう場所がほしいな』とか。例えば、洗い物を入れる洗濯バスケットの置き場がないなとか、まな板を置く場所もほしいなとか。雨の日の洗濯ものを干す場所があるといいなとかね。そういうのをリストにして、思いついた時にメモしてあるんです。家が狭いからこそ工夫しないとね!」

それにしても、いつDIYしてるの?

「夜、仕事から帰ってからとか、朝早起きしてとか。休みの日ももちろん」

というわけで、四六時中「何を作ろうかな?」と考えているイェンセンさん。身体を動かし、手を動かして、作ることが基本。次に何があるといいのかを考える。頭を使って、考える。使うべきはお金ではなく、自分の頭と身体。

DIY(Do It Yourself)とは、誰のお仕着せでもなく、自分で自分の暮らしを作ること、なのだから。

棚、目隠しBOX、牛乳瓶ライト、玄関のタイルとベンチも全部てづくり

『イェンセン家のマンションDIY   ー北欧、手づくりの暮らし』
著:イェンス・イェンセン(文藝春秋刊)