最近、居心地がいいなと思う店や家は、どれも使っている人の手がたくさん加わった空間だなと感じています。

住み手が少しずつ気の向くままに工夫しながらつくられてきた空間には、人間味、手触り、ゆるさ、といったものが自然に生まれるのでしょう。

長い時間をすごすための空間は、いい街と同じで、最初に全部を計画しない方がいいのではないか。そんなことを考えている頃、僕はこの空間に出会い、いろんなことを発見したのです。

ここに住むのは、ヘアメイクから写真家・アートディレクターへ転身したキヨトさんと、メイクアップアーティストと料理関係の仕事をするエミさんの夫婦と1人の子供。

都心から少し離れた住居を探していく中でこの物件に出会いました。

元は築60年近くも経った、ほぼお化け屋敷状態のボロ家。

不動産屋には「これはやめときなさいよ」と言われたものの、2人はそこに“自由”を見るのです。

このままで借りるから、中身を自由にさわらせてほしいと交渉、あっさりOK。そこから、キヨトさんの家づくりが始まりました。

キヨトさんがまずつくったのは露天風呂。裏庭に椎の木に囲まれたちょうど良いスペースがありました。

友人に「ユニットバスなんか余ってないよね?」と聞くと、「なんで昨日2台もらってきたこと知ってんだよ!」。

物事とは概してそういうもの。ガス水道を引っ張って、周りを檜でかこってミニ露天風呂の完成。

当時、和にハマっていたキヨトさんとエミさん。最初のリノベーションでできた空間は、忍者屋敷。。。

古屋の正面に神社の解体でいただいて来た扉と鐘をつけてみたり、今とはまったく違うディープな「和」のデザインでした。

しかしその後、娘さんのお友達のお母さんから「あの家は近寄っちゃダメ」「なにかの宗教?」と言われているのを知り、「じゃ、ハワイにしよう!」と、いきなり方向転換。海辺の別荘のような明るい空間に改造することにしたのです。

このころ、ヘアメイクをしていたキヨトさんにある出来事がありました。

仕事でスピリチュアルなパワースポットで名所になっているSEDONAに行った時、「あなたはカメラマンになるべきだ」というお告げを聞いたのです。

床も3種類の色を使って塗りました。そして、縁側を部屋にし、テラスに天蓋をかけ・・・。

家は新たに「ここはハワイアンロフト?」と言いたくなるような明るく気持ちのよい家に蘇りました。

日本家屋のいいところを残しながら、その都度その都度、少しずつ手を加えてできた家。

さらにキヨトさんは、母屋の後ろに空き地があったので、そこに自分のアトリエ小屋をつくりました。

「あっちは海。こっちは山。いつもひとりでこもってる」。

昼は木陰から優しい光が落ち、夜は月光を浴びながらゆったりとした音を聞く、風が抜けて、夏でも信じられないくらい涼しい隠れ空間、これは男心をそそります。

「お金はかけずに仲間とつくったんだ。木材はすべてリサイクルの廃材を磨いたものばかり。やり始めると不思議と情報が集まってくるんだよね。電話が鳴って、”どこどこの現場で日本家屋の解体やってたよ!ブルーシートがかぶってたから行ってみれば?”と」

インテリアのアクセントに拾い集めた流木を使い、買ったのはガラスとドアの蝶板だけ。

そしてこの小屋の脇にはバーベキュースペースが。家の裏の余ったスペースも、使いようでとても楽しくなるのです。

この家は、清人さんやエミさんの卓越したセンスや知恵で魅力的に蘇ったわけで、確かにその技は誰にでも真似できるとは限りません。

だけど、知恵や技を少しずつ共有したり交換していくことで、空間のオリジナリティが生まれたり、その過程を楽しむことがもっとできる世の中がつくれるような気がしています。

住宅の空間は、本来時間とともに変わっていく方が楽しいはず。

そしてプロのデザイナーでなくても、実は自分の家を本当の意味でデザインしていくことはできる。

toolboxという「場」をつくる上で、根底にある思いはそんなところにあります。

株式会社 face-lab

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