化学繊維のハリのある生地とは違う、ナチュラルなしわ感が特徴の『ガーゼカーテン』。

天然素材というと、最初からその風合いで織られた生地をそのままカーテン仕様に縫製してるんでしょ?と思うかもしれませんが、実は違うんです。

ガーゼカーテン」は、生地の取り扱いから、加工して出来上がるまで、一般的なカーテンとは一風変わった手順で作られています。

天然素材を相手に、常識にとらわれない手法に挑戦した西川佳織(にしかわかおり)さんを取材してきました。

繊細なシングルのガーゼ生地から生み出されるしわ感が魅力。

もっと多くの家づくりの現場に関わりたい!建築の世界からカーテン屋へ

ガーゼカーテンを作っている有限会社Rioの工房があるのは、群馬県富岡市。

大工の父を見て育ち、現場が好きなおてんばな少女は、ハウスメーカーに就職。図面引きをする日々を数年過ごすも、「どの家にもカーテンは必要。カーテンを通してなら、もっと多くの家づくりの現場に関われる」と、27歳の時にお母様が経営していたカーテン縫製業を継ぐことに。ご兄弟と共に家族経営をしています。

工房は、まるでカフェのような佇まい。大工のお父様が建てたんだそうです!

「最初の頃は、お客様が見本帳の中から選んだ生地を縫うだけのただのカーテン屋でした。でも、これなら誰でもできる。私じゃなくてもいい。だからといって、どうしたらいいか、何がつくりたいのか、自分でも分からない。カーテン屋をはじめて10年目のもやもやが募っていたタイミングで、たまたま、このガーゼカーテンの生地に出会えたんです。」

運命的な生地との出会い。理想の質感は、工場にあったウエス代わりの端切れ!?

とある現場用にと生地の織り元に行ったときに、たまたま機械の脇に置いてあったのが、ウエス代わりに使われていたガーゼの端切れ。

ガーゼの織り上がった生機(きばた)と呼ばれる状態は、糊がついたフラットなものですが、その端切れは、ぞうきん代わりに水で洗われ、糊が落ちていい具合にしわが入った状態だったそう。

佳織さんは直感的に「わたしが欲しかったのは、この質感だ!これでカーテンをつくりたい」と、運命を感じます。

生地についた糊を落とす「水」がしわ感を得るためのポイントだということは分かったものの、「その水をどうしたらいいのかは、自分で考える必要がある。」と、織り元の職人さんからその場でヒントは得られず。

そこから、佳織さんの試行錯誤がはじまりました。

手前はパートスタッフさん。奥が佳織さんです。2021年撮影(撮影:Masanori Kaneshita)

試行錯誤の末に辿り着いた理想のしわ感

当時は、こういうガーゼのカーテンが欲しいという注文が入っていたわけでなく、佳織さんが自分で理想を見いだし、製品化したいと思っていただけ。通常業務の合間をぬって、夜にそっと試作品を作る日々だったと言います。

納品された時のまだ糊がついた生機(きばた)の状態、驚くほど繊細な薄い生地です。(撮影:Masanori Kaneshita)

「最終的ないまの工程を見いだすまでに3ヶ月くらいかかりました。糊を落とすには、水よりもお湯がいいのか?と試してみたり、洗うと色が変わってしまい、雨が降ると空気の中の水蒸気も酸性になるからだと気がついたり。試行錯誤を繰り返しました。」

そうして最終的に辿り着いたのは、生地を洗いに掛ける前に、スチームアイロンを当てるという工程でした。

まずは巾をカットし耳を縫ってから、芯地を取り付け。業務用のスチームアイロンをあてていきます。

ガーゼカーテンの自然なアイボリー色を色止めしてくれ、最初に縫い付けたフックを付ける芯地や縫い糸を生地になじませる効果があります。

「はったりでも自分の理想に向かって行動してみるのが一番満足度が高いと思うんです。試行錯誤のプロセスも、このガーゼ生地からカーテンをつくったら、オリジナルのメーカーになれると思ってすごく楽しかった。

最初から、織り元の職人さんに、こうやるといいよと教えてもらってやっていたら、言われた通りでしたと思うだけで、ここまでの満足感は得られなかったと思います。」

その試行錯誤のプロセスを得て理想通りに仕上がった達成感とともに、「Rioのガーゼカーテン」は形になったのでした。

繊細な生地に臨機応変に対応できるのが手仕事のよさ

スチームアイロンを掛けたあとは、洗濯機で洗濯し表面の糊を落としていきます。その際、厳選した柔軟剤を一緒に混ぜ、洗うときしみやすい生地と縫い糸を馴染ませ、風合いを定着させます。

その後は、濡れた生地を干して手で引っ張っていくんだそう。

洗った後は、濡れた生地を手で伸ばします。伸ばし具合は、佳織さんが繰り返し作業する中で得た感覚頼り。

ガーゼカーテンのオーダー丈の長さは250cmまでと制限がありますが、工場の天井高さの関係で、それ以上長いと床についてしまい、この引っ張って伸ばす作業が出来ないのです。

伸ばした後は、早ければ1晩、雨の日だと2日ほど自然乾燥にかけます。
最終的にその日の気温や湿度から、佳織さんが生地を触って乾き具合をチェック。そのため納期が天気に左右されます。納期を急ぐ場合でも、ご希望日に間に合うかのお返事がすぐに難しいのはこれが関係していました。

「扱いが難しい生地でも、触っていると生地が扱い方を教えてくれるんです。自動化された機械でピピっと作れるカーテンはうちじゃなくても大丈夫。私でないとつくれないってことが嬉しいんです。」

自然環境に臨機応変に対応できるのが手仕事のよさ。毎日同じことの繰り返しなようで、ちょっとずつ違う日々。話を聞いていると、ガーゼカーテンをつくる日々が佳織さんにとっての第二の子育てのように見えてきます。

乾いた後に、丈を指定サイズでカットして裾を縫い上げます。(撮影:Masanori Kaneshita)

最後に、ミシンで裾を縫製して完成です。仕上げのアイロン掛けをしたものが、お客様の元に発送されていきます。

裾は、しわの入った難しい状態でミシン掛けしていきます。(撮影:Masanori Kaneshita)

家族経営だから出来た。がんこな佳織さんにしか作れなかったカーテン

シングルガーゼは、本来は、生地染めしたり、刺繍を施し反物化される素材。カーテン生地でもないものを、普通のカーテンとは違う工程で作る「ガーゼカーテン」。

「やりたいことを止めないで、やらせてもらえる環境があった」家族経営だからこそ、ここまでこだわることができたと佳織さんは言います。

ガーゼカーテンが形になってきたとき、当時「カーテン」の取り扱いジャンルがなかったtoolboxの元に「こういう主張しないカーテンどうですか?」と佳織さんがサンプルを送ってくれたことがきっかけで、私たちはこのガーゼカーテンと出会うことができました。

工房の中央にガーゼカーテンを吊って自然乾燥。乾き具合を佳織さんが手でチェックします。(撮影:Masanori Kaneshita)

親族5名ではじめたカーテンづくり。当初は、サラリーマンと兼業で手伝っていたお兄さんもカーテン事業が軌道にのったことで、Rio専任で働くことに。

この3年の間に、「ガーゼカーテン」以外にも、『帆布カーテン』『シーチングカーテン』『セルヴィッチリネンカーテン』など、toolboxと共同開発したアイテムも増えた中で、パートさんも4人に増えました。子育て中の女性が多く、中には最初お客さんとしてRioのカーテンに出会い、そのまま働くことになった人も。

自分が生み出したものを必要としてくれる人がいて、日々作ることができる。
そのことが何よりも嬉しいと、笑顔で話してくれました。

2018年撮影。左から弟さん、おばさん、佳織さん、お母様、お兄さん。

湿気や乾燥、季節やその日の室内環境によって伸び縮みする生き物のような「ガーゼカーテン」。天然素材というと、生まれたてそのままというイメージが強く、勝手に出来ていると思っていた「自然なしわ」ですが、自然な風合いの裏に、それを丁寧にコントロールして製品化してくれる職人さんの存在があるんですね。

自然環境の変化をおおらかに受け止め、気持ちよく光を通すその表情。みなさまのお家の窓辺でも気持ちよくたなびきますように。

乾燥して丈が短くなったら、霧吹きでお水をかけてあげてください。

(来生)

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